Ⅲ フランス―中央集権型警察国家
[概観]
フランスでは、王や封建領主が独自に私設警察を組織して自領地内の治安維持を図っていた旧体制がフランス革命を契機に変革され、コミューン(市町村)単位で警察を組織する体制となった。
この体制が今日まで持続していれば、アメリカやイギリスと同様の自治体警察中心の警察制度に定着したであろうところ、フランスではそうはならなかった。
19世紀後半の第三共和制時代に、官僚的な中央集権化が図られた際、警察制度も集権化され、都市部の自治体警察の国家警察化が順次進められた結果、治安所管官庁である内務省の下に国家警察(Police nationale)が整備された。
一方、国家警察とは別に、フランス革命当時の1791年、軍事的な性格の強い武装警察組織として国家治安軍(Gendarmerie nationale)が発足した。これは自治体警察を補完する全国規模の治安組織であり、革命当時の軍事組織であった国民衛兵隊から分離される形で創設されたものである。*Gendarmerie nationaleは「国家憲兵隊」と訳されることがあるが、この組織は軍人・兵士の犯罪を主として取り締まる軍隊内警察組織である憲兵隊とは役割・性格を異にしており、紛らわしいので、本稿ではその任務に着目して「国家治安軍」と意訳する。
順序からいくと、国家治安軍は国家警察に先立って発達した中央集権警察制度とも言え、19世紀以降、度重なる革命と体制変動の中で、国家治安軍の編成や規模には変遷があったが、制度そのものは廃止されることなく、名称ごと今日まで維持されてきた。
その結果として、フランスの集権警察は文民警察である国家警察に加え、軍の一部を成す軍事警察としての国家治安軍の二本立てで成り立つ二重的な仕組みを備えるに至っている。
さらに、広義の警察制度として、国内諜報機関である国内保安本部(Direction générale de la Sécurité intérieure)が内務省の管轄下に設置されており、「テロとの戦い」テーゼの中で、テロリズム対策の司令塔的な役割を果たすようになっている。
その他、関税・間接税本部(Direction générale des douanes et droits indirects)、国家森林局(Office national des forêts)など、特定分野の法執行に限局された国家的な特別法執行機関も存在している。
このように、フランスの警察制度は徹底した中央集権制に基づいており、影ならぬ顕在的な警察国家と言ってもよいが、自治体警察時代の名残として、一部の自治体に警察が設置されている。
ただし、これらの自治体警察は自治体条例の執行や交通取締まりなどに限局された巡視隊的な地域警察であり、米英におけるそれのように完全な権限と装備を擁する自治体警察とは異なる。