Ⅲ フランス―中央集権型警察国家
1‐2‐2:国家治安軍の分遣任務
国家治安軍は陸海空の他軍種や軍務省、外務省等に派遣されて活動する各種分遣任務も持っており、その超域的な活動範囲から見れば、国家警察を越える超権力体と言える。分遣任務は武装警察、地方警察に加えた国家治安軍の三つ目の顔である。
こうした分遣任務の一つとして、陸海空軍の内部犯罪の取り締まりに当たる憲兵隊としての任務がある。この限りで国家治安軍は諸国の憲兵隊の任務と重なるため、「国家憲兵隊」という定訳もあながち誤りとは言えないのであるが、こうした憲兵隊任務は国家治安軍の多岐にわたる任務の一部でしかない。
狭義の憲兵隊任務を含めた国家治安軍の分遣任務は数多いため、ここでは対内的な分遣任務と対外的な分遣任務とに大別しつつ、見ていく。
まず対内的分遣任務の中で要員数も多いのが、海上治安軍(Gendarmerie maritime)である。これは海軍の指揮下で運用され、諸国の沿岸警備隊(日本では海上保安庁)及び水上警察としての任務と海軍憲兵隊としての任務を併せ持つ分遣隊である。
海上治安軍の類例として、空軍指揮下で運用される航空治安軍(Gendarmerie de l'air)があり、これは空軍憲兵隊としての任務とともに空軍基地の警備任務も担う。
航空治安軍と区別される類似任務として、航空運輸治安軍(Gendarmerie des transports aériens)がある。航空運輸治安軍は国家治安軍と生態遷移省に属する民間航空総局の共管下に民間空港での警察任務を中心に担う空港警察である。
また軍事装備治安軍(Gendarmerie de l'Armement)は軍事装備総局の指揮下で、同局関連施設の警備と軍事装備に係る犯罪捜査を担当する。ただし、核兵器に関しては別途、軍務省の指揮下で核兵器の警備を担当する核装備安全治安軍(Gendarmerie de la sécurité des armements nucléaires)が展開する。
以上の対内的任務に対して、海外派遣任務は海外治安軍司令部(Commandement de la gendarmerie outre-mer)が担当する。これは海外県や海外領土における警察業務や海外派遣部隊の指揮に当たるほか、外務省指揮下で在外公館の警備任務も担当する海外任務専門の司令機関である。