ザ・コミュニスト

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持続可能的計画経済論[統合新版](連載第40回)

2025-01-10 | 持続可能的計画経済論[統合新版]

第2部 持続可能的経済計画の過程

 

第9章 計画化の時間的・空間的枠組み

(1)総説
 計画経済全般について言えることであるが、計画経済の過程には、時間と空間の二つの次元がある。時間的次元とは、具体的な計画の及ぶ時間的範囲である。その点、旧ソ連型の経済計画では5か年を標準としていたが、持続可能的計画経済では3か年を標準とする。
 このような計画化の時間的枠組を何年と定めるかについて絶対的な定式はないが、持続可能的計画経済の時間的枠組みを3か年と中期に設定するのは、地球環境の状態という可変的な自然現象の予測を前提とするため、3年を超える長期的な計画化よりも、中期的な計画化のほうが適していると考えられるからである。
 この計画化の時間的枠組みは、一度決定されれば、原則的に以後も踏襲され、各次計画ごとに変えられるものではない。仮に3か年の時間的枠組みをより長期に変更するのであれば、それは相応の合理的な根拠に基づき、実行されなければならない。(逆に、3か年未満の短期に変更すると、計画化の時間的枠組みとしては窮屈になり、事実上計画としての意義を失う恐れがあるため、適切でない。)
 計画期間の経過中に、地球環境予測の修正や予期していなかった災害の発生等により、各次計画の内容を一部変更することは、計画化の時間的枠組みの修正とは異なり、適宜認められる。
 一方、計画化の空間的枠組みとは、どの圏域で経済計画が策定されるかという問題である。計画化の地理的範囲と言い換えることもできる。その点、旧ソ連型経済計画は一つの主権国家を空間的枠組みとしていたが、持続可能的経済計画は世界共同体‐領域圏‐領域圏内広域圏という三つの空間に重層的に及ぶ。
 この三つの空間的枠組みは完全に対等ではなく、世界共同体における世界経済計画が地球全域をカバーする上限枠(=キャップ)としての役割を持ち、その範囲内での割り当て枠(=クウォータ)として領域圏経済計画が機能する。
 領域圏内広域圏の経済計画は専ら消費に関わる計画であり、領域圏経済計画の消費部門としての意義を持つ。これは旧ソ連における計画経済の改革策として試行された「計画の地方分権化」とは異なり、そもそもの計画化の構造として組み込まれた機能的分化である。

 

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持続可能的計画経済論[統合新版](連載第39回)

2025-01-08 | 持続可能的計画経済論[統合新版]

第2部 持続可能的計画経済の諸原理

 

第8章 計画組織論

(4)地方経済計画の関連組織
 ここで言う地方とは、統合型領域圏と連合型領域圏とでは、意味するところが異なる。前者の場合は広域の地方圏を指すが、後者では連合を構成する準領域圏を指すことになる。
 このうち、準領域圏はその名称のごとく、領域圏に準じ、現行の連邦国家における州のような自己完結性を持つ圏域であるから、まさに領域圏に準じて独自の経済計画(生産計画)を策定する権限を持つことが許されるのではないかという議論があり得る。
 これについて、連合領域圏の場合は、領域圏全体の経済計画の策定に関わる経済計画会議に各準領域圏の経済代表者の参加を認めることは、最低限必要とされるであろう。それを超えて、準領域圏にも固有の経済計画を策定する権限を付与するかどうかは、各連合領域圏の自主的な決定に委ねられる。
 統合型にせよ、連合型にせよ、地方における経済計画の中心は消費計画である。消費計画は、地産地消を目標として策定される消費に限定された経済計画であり、その策定組織は地方ごとに設立される消費事業組合である。
 消費事業組合は、それ自身が日常必需品の供給組織であると同時に、消費計画策定機関でもある。また、地方における末端消費も領域圏全体の経済計画と無関係ではあり得ない以上、消費事業組合は領域圏経済計画会議に代表部を置き、領域圏経済計画の策定にもオブザーバー関与することが認められる。
 消費事業組合は多数の物品生産企業体を提携組織として擁するが、これらの企業体の多くは基本的に計画経済の適用外となる自主管理企業(生産協同組合)である。これらの企業体は消費計画の策定に直接関与することはないが、消費計画の範囲内で独自の企業内生産計画を立てて生産する。
 ちなみに、消費事業組合が供給する物品の相当部分を食品が占めるので、食品の素材となる農産品や水産品の生産に関わる農業生産機構や水産機構も、消費計画に関しては、重要な当事者となる。具体的には、それら機構の地方事業所が消費事業組合の法人組合員を兼ねることにより、消費計画に関与する。
 つまり、農業生産機構や水産機構は、その機構全体として領域圏経済計画に関わると同時に、地方事業所のレベルでは地方の消費計画に関わるという形で、二重に経済計画に関わることになる。
 さらに、消費計画は地方の民衆会議(統合型では地方圏民衆会議、連合型では準領域圏民衆会議)に提出され、審議・議決を経て発効する点では、領域圏経済計画の場合と同様の構制となる。
 その点、消費事業組合は管轄地方の住民全員を自動的組合員としつつ、代議制によって運営される会議体であり、それ自体が地方における下院的な意義を持つと言える。

 

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持続可能的計画経済論[統合新版](連載第38回)

2025-01-07 | 持続可能的計画経済論[統合新版]

第2部 持続可能的経済計画の過程

 

第8章 計画組織論

(3)領域圏計画経済の関連組織
 持続可能的計画経済の最前線となるのは、世界共同体の構成主体である領域圏である。各領域圏は通常、単立し、それぞれが世界経済計画の枠内で独自に経済計画を策定・運用していく経済計画主体ともなる。
 ただし、小規模な領域圏の場合は、単独で計画経済を運営するだけの経済基盤を持たないことが多い。そこで、こうした小規模領域圏は近隣の同規模領域圏またはより大きな領域圏と合同を結成し、合同領域圏という単位で計画経済を運用する。合同領域圏の主たる役割は、こうした共通経済計画の運用という点にある。
  これら領域圏経済計画は世界経済計画における汎域圏をベースとして汎域圏内での経済協調をも考慮しつつ策定されるが、そうした汎域圏内経済協調の実務を担うのが五つの汎域圏の経済協調会議である。同会議は汎域圏内で経済協調の対象分野を担う生産企業体の代表者で構成され、汎域圏内の経済協調協定を締結したうえ、汎域圏民衆会議の承認・議決を得る。
 汎域圏経済協調協定に続いて、各領域圏経済計画の策定に進むが、単立、合同いずれの形態であれ、領域圏経済計画の策定機関となるのが、経済計画会議である。これは、旧ソ連の計画経済における中枢機関であった国家計画委員会のような行政機関ではなく、計画経済の適用対象となる生産企業体の共同運営による合議機関である。
 その構制は各生産企業体の計画担当役員を議員とする会議体であり、これに会議を実務的に支える事務局が付属する。会議は、一般、農林水産、製薬の三種類の計画に沿って一般産業部会と農林水産部会、製薬部会が分岐する三部会制であるが、これに消費計画の策定単位となる地方圏(または準領域圏)の消費事業組合の代表部もオブザーバー部会として設置される。
 三部会のうち一般産業部会の内部は、経済計画の基礎となる産業連関表の産業分類におおむね沿った専門部会に分かれ、それぞれ討議のうえで部会ごとの計画案を策定する。農林水産部会も同様に専門部会に分かれるが、製薬部会はそれ自体が専門部会を兼ねる。
 経済計画の前提部分を成すエネルギー計画に関しては、経済計画会議の下部機関として、製油や電力等のエネルギー関連事業体で構成するエネルギー計画協議会が設置され、同協議会が発議するエネルギー計画案について、経済計画会議で審議・議決を行う。
 一方、領域圏の施政に関わる民衆会議も経済計画の策定にノータッチではないが、民衆会議が主導することはない。民衆会議の役割は、経済計画会議が議決した計画を改めて審議し、承認することである。その点、民衆会議と経済計画会議の関係性は、ある種の上院(≒民衆会議)と下院(≒経済計画会議)の関係に相当すると言える。ただし、民衆会議は計画を全面的に否決することはできず、できるのは一部不承認、差戻しのみである。
 なお、合同領域圏単位での経済計画の場合は、合同領域圏に民衆会議が設置されない代わりに、合同の政策協議会が計画の承認権を有することになる。この限りで、政策協議会が単立領域圏における民衆会議に相当する役割を果たす。

 

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持続可能的計画経済論[統合新版](連載第37回)

2025-01-06 | 持続可能的計画経済論[統合新版]

第2部 持続可能的経済計画の過程

 

第8章 計画組織論

(2)世界計画経済の関連組織
 持続可能的経済計画の起点となる世界共同体における経済計画の全体的な設計図である世界経済計画の策定に当たる機関は、まさに世界経済計画機関であるが、この機関は、第5章でも述べたように(拙稿)、官僚制行政機関ではなく、生産企業体の連合的世界組織による共同計画を策定する合議制機関である。
 その概要は上掲拙稿に記したので、ここでは、世界経済計画の策定に関わる関連組織について見ておく。
 世界経済計画機関が世界経済計画の中心的な実務機関となることは当然であるが、環境的持続可能性に重点を置く持続可能的計画経済においては、世界的な環境政策に関わる世界環境計画のような環境政策機関の関与も不可欠である。
 世界環境計画は現行の国連環境計画を継承する世界共同体機関であり、世界共同体の環境政策における中心的実務を担う。持続可能的計画経済における世界経済計画とは、環境基準の枠内での計画であるからには、世界環境計画の政策に合致していなければならず、世界環境計画の代表者は世界経済計画にも専門的に参与し、計画策定に関与する。
 さらに、世界経済計画における土台ともなるエネルギー計画の策定に際しては、世界天然資源機関の関与が欠かせない。その点で、世界経済計画機関と世界天然資源機関とは世界経済計画策定における双璧機関として常時密接に連携する。
 また、あらゆる生産活動において不可欠な水資源の公平な利用を調整する世界水資源機関も、水資源に特化した天然資源機関として、世界経済計画の策定に関与する。
 一方、地域的な特色が濃厚な農林水産関係は、世界計画経済の直接的な対象ではなく、各領域圏の経済計画に委ねられるが、世界食糧農業機関(漁業や林業も兼轄)は食糧供給の観点から、世界経済計画の策定に専門的に参与するとともに、世界環境計画と連携しつつ、環境的に持続可能な農林水産の観点から、世界経済計画よりは規範性が弱いものの、世界経済計画の補充的指針となる世界農林水産計画を策定する。
 さらに、世界経済計画の策定に当たっては、五つの各汎域圏の経済協調会議が関与する。汎域圏の主要な役割の一つは資本主義経済における貿易に代わる域内経済協調にあり、同会議はそうした域内経済協調の実務機関である。具体的には、五つの各汎域圏の経済協調会議事務局長が大使的な立場で世界経済計画機関における討議と議決に加わる形で、計画策定に関わることになる。

 

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持続可能的計画経済論[統合新版](連載第36回)

2025-01-05 | 持続可能的計画経済論[統合新版]

第2部 持続可能的経済計画の過程

 

第8章 計画組織論

(1)総説
 計画経済は、個別企業ごとの経営計画以外に全体的な計画が存在しない市場経済とは異なり、全体的な経済計画に従って期間的に運営されていくものであるから、計画の策定と運用に関わる計画組織を必要とする。この計画組織のあり方を探るのが計画組織論である。
 計画経済は、どのようなタイプのものであろうと、合理的な計画組織によって支えられていなければ、計画の原理原則だけで動くものではない。一方で、合理的な計画組織をあまりに複雑なものにすると、その運営に支障をきたすこともある。旧ソ連における計画組織はそうした教訓事例である。
 ソ連は15の主権なき共和国で構成された超大な連邦国家という特異な形態をとったため、計画組織も連邦全体のものと各共和国のものとに二元化されたうえ、連邦及び共和国の各行政機関も計画に関与し、さらに部門ごとの国有企業が計画最前線で関与するという何重もの複合体であった。しかも、計画全体を方向づけるのは支配政党であった共産党である。
 基本五か年を基準とした計画の策定に当たっては、共産党指導部の方針を至上命令としつつ、多数の計画関与機関がそれぞれ自身の権益を主張して、しばしば競争的関係に立ったために、計画の策定プロセスは不安定なものとなった。
 このような複雑かつ不安定な計画組織のもとで、ソ連が半世紀以上にわたってどうにか計画経済を切り盛りし、アメリカと対峙する超大国として存続し得たことは奇跡に近いと言ってよいが、最終的にソ連が解体される以前に、この計画組織はすでに破綻しかけていたことも事実である。
 それには様々な要因があるが、一つには計画組織があまりに複雑化し、計画の策定に多大の時間と労力が費やされ、円滑な経済運営が阻害されていたことが想定される。ここから学ぶべき教訓は、計画組織はできる限り簡素であることが望ましいということである。原理的には、単一の計画機関が一貫して計画策定に当たるのがよいが、現実にはそこまで簡素化することはできない。
 その点、世界共同体を前提とする持続可能的計画経済にあっては、世界共通の経済計画を策定する世界機関を軸に、世界共同体を構成する各領域圏の計画組織が連携して計画を策定、運用する体制である。しかも、政府とか政党といった政治組織が存在しないうえ、計画機関は計画対象の企業組織自身の合議機関として構成されるので、計画組織の在り方はソ連のものより、各段に簡素なものとなる。

 

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持続可能的計画経済論[統合新版](連載第35回)

2025-01-03 | 持続可能的計画経済論[統合新版]

第2部 持続可能的経済計画の過程

 

第7章 計画経済とエネルギー供給

(4)エネルギー消費の計画管理
 持続可能的計画経済におけるエネルギー供給計画は、末端需要者のエネルギー消費のあり方にも影響を及ぼす。当然にも、資本主義経済下のように需要者が欲するだけ無制限に消費できるということにはならない。
 特に二次エネルギー源の中でも最も重要な電気の消費は厳正な計画供給制となるが、その場合、事前告知による計画停電のような全体統制的な方法とリミット制のような個別規制的な方法とがある。
 計画停電は大災害時等の非常措置としてやむを得ない場合もあるが、日常的にこうした全体統制的な供給体制を採ることは、電力供給システムが整備されている状況では不必要である。
 そこでリミット制が選択されるが、その適用方法は一般世帯と企業体のような大口需要者とでは異なる。大口需要者については、電力事業機構との個別協定により日量のリミットを設定するが、一般世帯では個別協定ではなく、予め通知された約款で定められた日量上限を超えた場合、事前警告のうえ自動的に停電するという方法によることになるだろう。
 実際、持続可能的計画経済が確立される将来には、こうした厳格なリミット制を支える技術革新が進み、末端需要者が電力使用量をリアルタイムで正確に把握でき、リミットに接近すれば警告されるような測定装置が一般世帯にも普及すると予測され、厳格なリミット制に現時点で想定されるような煩雑さはないものと思われる。
 同様のリミット制はガスにも導入されるが、持続可能的計画経済はオール電化とかオールガス化といった消費エネルギー構成の偏向は認めず、消費エネルギーバランスが考慮される。そのためにも、電力供給とガス供給は統合的な事業体(電力・ガス事業機構)を通じて包括的に行われることが望ましい。
 とはいえ、こうしたエネルギーの大量供給体制はいかに計画化を進めても環境的持続可能性にとって十分ではないから、エネルギー自給システムの普及も併せて考慮されなければならない。具体的には自家発電装置の常備や地方集落では薪火のような伝統的発火手段の復活・併用などである。

 

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持続可能的計画経済論[統合新版](連載第34回)

2025-01-02 | 持続可能的計画経済論[統合新版]

第2部 持続可能的経済計画の過程

 

第7章 経済計画とエネルギー供給

(3)エネルギー事業体
 一般世帯と企業体その他のエネルギー需要者に対するエネルギー生産・供給を任務とする事業体(エネルギー事業体)のあり方は、生産様式一般とも無関係ではないが、必ずしも必然的な関係にあるわけではない。
 すなわち資本主義生産様式にあっても、天然資源の共有化政策によりエネルギー事業体に関しては国有などの公企業体の形態を採ることはままあるし(特に石油などの資源事業体)、電力自由化以前の日本の旧電力事業体のように株式企業ではあるが、地域独占企業体としての特権を国から保障された公認独占企業体の形態を採ることもある。
 しかし、近時のいわゆる新自由主義的なイデオロギーはエネルギー生産・供給の自由化にも及び、特に電力事業の民営競争化を志向する傾向が強まっている。
 これに対して、エネルギーの民際管理に基づく供給計画化が図られる持続可能的計画経済下のエネルギー事業体は、社会的所有型の公企業を基本とする。具体的には、後に改めて見る生産事業機構の形態を採ることになる。
 例えば、電力であれば、電力事業機構である。このような企業体は地域ごとに分割するのではなく、全土統一的な事業体として設立されるが、いくつかの地方管区ごとに地方事業所が置かれ、一定の分権的な運営は図られる。
 また民際管理される石油をはじめとする一次エネルギー源は、商業的な輸入によるのでなく、各領域圏ごとの供給枠に従い計画供給されることになるため、その統一的な受け入れ窓口となる事業体が必要である。
 その点、前回指摘したように、経済計画会議の下部機関としてエネルギー事業体で構成するエネルギー計画協議会の直轄事業体として、供給資源の包括的な受け入れ窓口となる天然資源渉外機構を設置し、同機構が供給枠の交渉から海上輸送までを担当する。受給した資源の領域圏内での二次供給については、エネルギー計画協議会が担う。
 なお、原子力発電を用いない持続可能的計画経済は同時に原発廃止という歴史的な時間を要するエネルギー廃棄のプロセスをも含んでいる。こうした脱原発計画も世界規模で実施されるが、さしあたり領域圏内でも電力事業機構とは別途、原発廃止事業機構のような専門事業体が設置される。

 

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年頭雑感2025

2025-01-01 | 年頭雑感

このところ、地球環境、地域紛争、物価高騰その他内外の多くの問題が未解決状態で積み残され、年越しとなる事態が続くため、年が明けた気がせず、前年の続きに過ぎない感覚である。この雑感コラムも、毎年同内容の繰り返しとなりつつある。

そうした中、昨年目についたのは、選挙を通じたいわゆる「極右」勢力の躍進現象である。まず欧州議会選挙(6月)、続いてフランス国民議会選挙(6‐7月)、ドイツ地方議会選挙(9月)、そしてアメリカ大統領選挙(11月)でのトランプ返り咲き再選もその亜種現象である。

さしあたり欧米において顕著な現象ではあったが、従来、民主主義の手本を自他ともに任じてきたはずの欧州連合とその二大主導国の仏独両国に米国でこのありさまなら十分過ぎるほどであり、いずれは中南米、アジア、アフリカなど欧米外にも類似現象が追随的に拡散していく可能性は大である。

メディア上では漠然と座標図式的に「極右」とくくられるが、より具体的に見れば、これは反移民政策を基軸とする国家主義的かつ権威主義的なファッショ勢力の躍進現象であり、それをとりわけ労働者階級有権者が支えている。

反移民ファッショ勢力の共通した特徴として、インターネットを巧妙に活用して、虚偽・誇大政治宣伝を展開する大衆迎合/扇動戦略があり、これに労働者階級有権者がはまる傾向を増しているのである。アメリカでも、衆愚政治という言葉が聞かれるようになっている。

結果として、一般大衆が平等に参加する普通選挙が、ただでさえ民主主義の制度としてはより直接的な民主主義に比べ過渡的で不完全な間接民主主義を没却し、ひいては権威主義・独裁政治を正当化する手段と化してきている。現代の選挙過程は反民主主義への道程である。なぜそんなことに?

その点、経済界や富裕層がかれらの総利益を代弁する保守系ブルジョワ政党を支持する傾向は20世紀から変わっていない。変わったのは、労働者階級有権者の投票行動である。

20世紀の労働者階級は労働党、社会党、共産党その他党名は様々ながら、労働者の階級的利益を擁護・代表することを標榜する政党(アメリカでは二大政党の片割れの民主党がそれに相当する)に所属労組を通じて集団的・自動的に投票する傾向があったが、20世紀末頃から労組組織率の低下が進み、労働者階級が集団投票をしなくなってきた。

皮肉にも、資本主義先進諸国で労働者代表政党が議会で地歩を築き、時に政権政党ともなることにより、労働者階級の生活水準が向上し、中間層に食い込むことができるようになったことが労働者の労働運動への関心を低下させ、労組組織率の低下を結果したのである。

ただ、元来、集団投票(いわゆる組織票)は一人一人が熟慮して良心に従い投票するという一人一票の投票の自由原則に反する習慣ではあったのだが、労組を通じた集団投票に支えられた労働者代表政党が議会で安定的に議席を占めることは議会制を通じた代議政治を健全に保つ効用は発揮していた。

ところが、そうした集団投票習慣が廃れたことで労働者階級の投票が個人化され、毎回投票先が変わるようないわゆる浮動票が多くなると、大衆迎合/扇動戦略に長けた勢力への傾倒現象が生じやすくなる。これが反移民ファッショ勢力躍進の一因と考えられる。

実はそうした傾向を90年近く前に先取りしていたのが、ナチスの勝利であった。ナチスが当時としては民主主義の手本とみなされていたドイツのワイマール共和国の自由選挙を通じて誕生したということは忘れてはならない教訓である。

現代なら、ナチスの反ユダヤ主義を反イスラーム主義―欧米における反移民政策の核心である―に置き換えれば、現代版ナチスを作り出すことは難くない。さしあたり、ナチス復活阻止のための厳格な法的諸制度を維持してきたドイツの今後の動向に注目したい。

同時に、アメリカの第二次トランプ政権がアメリカご自慢の民主主義をどれほど掘り崩すのか、それとも古典的な合衆国憲法に阻まれて意外に掘り崩せないのか、も今年の注目点である。

日本の過半数割れ保守政権の状況はやや特殊であるが、この弱体政権が、もはや労働者代表政党そのものが消滅した日本では多数派と言ってよい浮動層有権者の大きな失望を招いたとき、日本版「極右」の躍進もあり得なくはないだろう。

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