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『パン屋再襲撃』と『再びパン屋を襲う』を少しだけ読み比べてみる 文章比較5つ

2013年04月19日 | ART / CULTURE
新作『色彩を…巡礼の年』が話題の村上春樹だが、少し前に発売された『パン屋を襲う』(「パン屋を襲う」+「再びパン屋を襲う」)を、手が加えられる前の「パン屋襲撃」「パン屋再襲撃」と読み比べてみました。

Bookmeterへの短評

『パン屋再襲撃』と『パン屋を襲う』を少しだけ読み比べてみた。確かにいま読めば『パン屋再襲撃』よりも『パン屋を襲う』の方が感覚的にしっくりくる。村上春樹氏が手直ししたいと思った感覚と一緒にこの28年を共有したと思いたい。ところで『パン屋再襲撃』の前の『パン屋襲撃』オリジナル版は読んだことなかったのか?と疑問に思ったが、『夢で会いましょう』に『パン』として収録されている。これは読んだはずだが、さすがに覚えてない。。全文『パン屋を襲う』と読み比べてみた。ただし、タイトルは『パン屋再襲撃』に慣れ親しんだためか『パン屋を襲う』ではまだ違和感があるし、このカット・メンシックさんのイラストも『眠り』同様に素晴らしいけど、佐々木マキさんの表紙(これは種市の潜水夫?)と比較するのは意味がない(少なくとも今の村上春樹氏にあわせて考えれば最後の喫煙シーンを絵に描くことはなかったはず)。とにかく、28年もの歳月が経ったのだ。この夫婦が『ねじまき鳥クロニクル』の世界に繋がっていくとの作者自身の示唆は新鮮だった。

『パン屋再襲撃』と『再びパン屋を襲う』で文章がどのように変わったか、5つだけ抜粋して紹介しておきます。

A) 『パン屋再襲撃』
B) 『再びパン屋を襲う』

A) パン屋襲撃の話を妻に聞かせたことが正しい選択であったのかどうか、僕にはいまもって確信が持てない。
B) パン屋を襲ったときの話を妻に聞かせたことが正しい選択だったのかどうか、いまもって確信が持てない。

A) それは理不尽と言っていいほどの圧倒的な空腹感だった。
B) それは理不尽なまでに圧倒的な空腹感だった。

A) 我々の生活はひどく忙しく、立体的な洞窟のようにごたごたと混みいっており、とても予備の食料のことまでは気がまわらなかった。
B) 我々の生活はひどく忙しく、立体的な洞窟のように前後左右に入り組んでいて、冷蔵庫の中身まではとても気がまわらなかった。

A) 妻のそのような意見(乃至はテーゼ)はある種の啓示のように僕の耳に響いた。
B) 伴侶のそのような意見(あるいはテーゼ)はある種の啓示として僕の耳に響いた。

A) 彼女にそう言われると、僕には、自分の今抱えている飢餓が国道沿いの終夜レストランで便宜的に充たさせるべきではない特殊な飢餓であるように感じられたのだ。
B) 彼女にそう言われると、自分の今抱えている飢餓は国道沿いの終夜レストランなんかで便宜的に充たさせてはならない特殊な飢餓であるように感じられた。