世田谷美術館で開催中のジャポニスム展を観てきた。チラシを飾るのはモネの「ラ・ジャポネーズ」。あまりに有名な作品なので、それ以外の作品がどれほどのものだろうかと逆に不安を覚える展覧会だ。そして、その不安は裏切られなかった。日本の浮世絵や意匠が印象派をはじめとする19世紀の西洋にブームとも言える影響を与えたというのは周知の史実なので、今更そうした西洋絵画と浮世絵を並べることにどれほの意味があるのか理解しかねる。並べるにしてももう少し深い洞察なり新たな解釈があればそれなりの意味もあるだろうが、これでは何を企画しようしたのか意図を図りかねる。単に日本美術の対外的な影響を羅列しただけのように見える。うがった見方であるのは承知の上だが、昨今のナショナリスティックな風潮のなかで日本的なものを賛美するかのような企画が通り易いのかもしれない。美術というのは観る人あってのものなので、社会の風潮と美術の潮流には密接な関連があるのは当然だ。また、美術館も運営上は収益も必要なので集客を意識しないといけない事情がある。ただ、そうしたものが安易に結びつくというのは浅薄皮相に過ぎるのではないか。先日、ある同世代の知人が「今まで生きてきたなかで一番不穏な世の中になっているように感じる」と言っていたが、振り返ってみたときに不穏の象徴としてこの企画展が挙げられるようなことがないとも言えないのではないか。ところで、フランスでジャポニスムと呼ばれる社会現象が終息したのは日露戦争がきっかけだったそうだ。その後の50年ほどの間に何が起こったのか、今こうして暮らしている我々は知っているはずだ。