万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

”EU大統領”は新たな政治対立を招く?

2007年10月19日 21時20分47秒 | ヨーロッパ
EU大統領創設に反対=新条約は支持-ドロール元欧州委員長 (時事通信) - goo ニュース

 欧州憲法条約は、EUの将来像を決定する新機軸として、これまで、内外の強い関心を集めてきました。特に、欧州理事会の議長職である”EU大統領(The President of the European Council)”は、あたかも実権を持つ国家レベルの大統領が誕生するかの如き報道もなされていたこともあったのです。

 今回の新条約の草案にあっても、大統領職は、おそらく議長職のレベルにとどまるのでしょうが、もし、EUが政治統合を進める方向にあるならば、この職は、新たな対立要因となる可能性がないわけではありません。それは、EU内部に、大統領職をめぐる争いを生み出す可能性があるからです。旧草案によりますと、二年半の任期を務める大統領職は、欧州理事会において特定多数決によって選ばれるとされており、当然に、加盟国間において政治的駆け引きや支持陣営の形成が行われることになりましょう。しかも、将来において、外交や安全保障政策における権限を強化する、ということになりますと、この職をめぐる争いは、さらに激しくなることが予測されるのです。

 ドロール元欧州委員長の反対理由が、こうした懸念であるかどうかは分りませんが、EUとは、微妙なバランスの上に成り立っていることを考えますと、大統領職の設置が、EUの政治統合を促進することになるのか、現時点では、判断することができないのです。

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