万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

電力自由化の幻想―価格は下がるのか

2012年03月22日 15時22分39秒 | 日本政治
東京・世田谷区、契約期間中の値上げ拒否 東電に伝える(朝日新聞) - goo ニュース
 エネルギー問題に関する議論は、発送電の分離や小売自由化に及んでいるようです。こうした改革が進めば、競争が生まれ、おのずと原子力発電を廃棄しても問題はなくなると…。しかしながら、現実は、この楽観的な見通し通りには進まないかもしれません。

 そもそも、電力供給事業は、費用低減効果が強く、自然独占が発生しやすい分野と見なされてきました。それ故に、民間企業でありながら、電力会社は、公益事業として地域独占型の経営形態が認められてきたわけですが、再度、自由化を進めたとしても、この電力事業の特質が消えるわけではありません。小売市場が自由化されたとしても、発電効率の高い先端的な発電設備を導入するには多額の初期投資を必要ですので、雨後の筍のように、多数の事業者が我先にと参入できる分野でもないのです。しかも、原発が再稼働されれば、既存の電力事業者の競争力は、一気に高まります。その一方で、参入者の増加が見込まれているのは、再生エネの分野であり、これは、再生エネ法の下での高値買い取りを前提としています。この制度は、競争の存在しない価格統制型ですので、電力料金を上げる効果こそあれ、下げる効果はありません(パリティ・グリッドが実現するのは20年先ごろの見通し…)。また、価格は、需要と供給のバランスで形成されていますので、原発が停止されている状況下では、需要に対する供給の減少が、価格を吊り上げることにもなります(実際に、PPSの価格も上昇中…)。

 以上の諸点を考えてみますと、電力の自由化によって競争が活発化し、結果として電力価格が下がると期待することは、早計なのではないかと思うのです。電力自由化という言葉は、危うい幻想をふりまいているかもしれないのです。

 よろしければ、クリックをお願い申し上げます。


にほんブログ村 政治ブログへ
にほんブログ村
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする