万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

仏ユダヤ人学校銃撃事件―フランス人、ユダヤ人、イスラム教徒の複雑な三つ巴

2012年03月25日 15時49分50秒 | 国際政治
「兄弟殺された」と銃撃犯=犯行記録の動画見つかる―仏(時事通信) - goo ニュース
 先日、フランスのツゥールーズで発生した連続銃撃事件は、フランスという国の複雑さを凝縮したような事件でもありました。

 イギリスのインディペンデント紙は、この事件が大統領選挙にも影響すると予測し、極右のルペン候補に有利に働くと分析しているそうです。フランス国内で発生した事件でありながら、犠牲者となったのはユダヤ人の人々であり、銃撃犯は、アルカイダ系のイスラム教徒でした。この事件だけを取り上げますと、事件の対立構図は、イスラム系移民の増加による中東紛争の内部化としてを理解することができます。つまり、この事件は、一般のフランス人とは関係のないところで起きていることになるのですが、フランスにおけるユダヤ人の立場を考えますと、二項対立の構図では済まされなくなります。保守系の候補者であり、現役の大統領であるサルコジ氏は、ハンガリー系のユダヤ人であり、中東の対立から全く無縁ではないからです。サルコジ大統領は、これまで、移民規制を強化してきましたし、事件後も、過激な思想の取り締まりをいち早く打ち出しました。インディペンデント紙の論評では、サルコジ氏の支持率低下は、外国人排斥と自由の規制に対して有権者が批判的になるため、と読んでいるようですが、フランスにおけるサルコジ大統領の立ち位置を、フランスの一般の有権者は、どのように捉えているのでしょうか(左派候補のオルランド氏の支持率低下は、社会党の移民推進政策の責任を問われてか…)。この事件から見えてくるフランス人、ユダヤ人、イスラム教徒の三つ巴は(もっとも、その他に出自をもつ人々も多数居住…)、大統領選挙の行方をも左右するのかもしれないのです。

 フランスのみならず、移民の増加に伴って、国際紛争が内部化され、国内問題となる事例は少なくありません。そして、この事件は、普遍主義の国と称されるフランスさえ、民族や宗教対立の問題に直面していることを示しているのです。

 よろしければ、クリックをお願い申し上げます。


にほんブログ村 政治ブログへ
にほんブログ村

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする