万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

地方自治体の命名権売却―売って良いものと悪いもの

2012年03月23日 15時35分33秒 | 日本政治
橋下市長「面白いアイデア」泉佐野の市名売却案(読売新聞) - goo ニュース
 財政難に苦しむ大阪府の泉佐野市は、終に、”泉佐野”という名を捨てて、内外の企業に命名権を売る予定と報じられています。この案、”面白い”どころか、”ふざけている”と思うのです。

 地方自治法の第3条1項には、「地方公共団体の名称は、従来の名称による」とあり、歴史的な名称の尊重を原則として掲げています。続く3項以下において、都道府県以外の地方自治体が、名称を変更する時には、事前に都道府県知事と協議したうえで、条例を制定しなければならない、としています。たとえ、地方自治体に名称に関する権限があるとしても、この条文が、売却権まで認めているとは思えません。市議会が、命名権を売却できるとする条例を成立させれば、法律上において問題はないとする意見もあるかもしれませんが、市の名称を売却の対象とすることができるのか、という問題は、条例成立に先だって、国レベルでクリアにしておくべきことです(地方自治体の公的権限の売却に当たる…)。もし、可能であるとすれば、これはもう、地方レベルから、日本という国が崩れゆくことを容認したに等しくなります。市長は、”内外の企業に売却できる”と明言していますので、これが先例となれば、泉佐野市のみならず、財政難に陥った地方自治体が、相次いで市の命名権を売り渡すことになるでしょう。企業城下町とは違い、売却元の地方自治体とは無縁の企業も、最高値を付ければ落札することができます。購入企業は、日本企業とは限らず、全国各地に、アップル市、マイクロソフト市、ダイムラー市、ロイヤル・ダッチ・シェル市、ノキア町、レノボ町、ハイアール村、サムスン村…などが乱立するかもしれません。日本国中に、多国籍企業が名を連ね、契約期間が切れるごとに、名称が変更されのです(ここは、一体、どこの国?)。

 世の中には、売ってよいものと、悪いものがあります。人身売買は犯罪なのですが、その土地固有の”地格”ともいうべき市名の売却にも、基本権の侵害と共通する反倫理性が感じられるのです。たとえ、酷い財政難にあっても、そこに暮らす人々が愛着を感じている市の名称は、売ってはいけないものの一つなのではないでしょうか。”時代の流れ”と市長は説明していますが、時代を越えて、売って良いものと悪いものの区別はあると思うのです。

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コメント (4)
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