万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

原発再稼働問題―混乱からの脱却を

2012年03月27日 15時37分08秒 | 日本政治
伊方3号機の審査書提出=「妥当」判断、耐性評価2例目―安全委の扱い未定・保安院(時事通信) - goo ニュース
 電力危機が一向に収まらない中、原発再稼働の行方も不透明です。その原因の一つは、手続きを含めて、エネルギー問題をめぐる混乱を整理できていないことにあるのではないかと思うのです。

 第1の混乱は、原発再稼働という電力危機への対処と、エネルギー政策という長期的な政策決定とを混合していることです。電力危機は、現下の問題ですので、長期的な政策の決定を待っていては、事態は、さらに悪化します。

 第2の混乱は、現行の手続きと”あるべき”手続きとを混同していることです。現在の法律上の手続きでは、原発の再稼働は、電力会社との地元との間に原子力安全協定が結ばれているものの、政府の許可によって可能です。現在、政府は、地元の合意を強調しているのですが、原発再稼働に際して、地元の合意を条件としますと、首長、議会、住民の全ての合意なのか(全てが一致するとは限らないし、拒否権となることにも問題が…)、県と市町村の両者の合意が必要なのか、といった様々な論点を詰めてゆかなくてはなりません。また、今後とも、各原子炉の原発再稼働の度に、このような手続きを踏まなければならないとしますと、これもまた、大変な労力を要することになります(また、供給を受ける側である産業界や消費者の要望も政策過程に反映されるべきでは…)。

 第3の混乱は、政府が、電力事業の制度改革と原発再稼働問題を結び付けていることです。原発が再稼働されない場合には、電力会社は赤字経営に陥りますので、自力で原発の賠償を行うことはできない状況となります。つまり、原発の稼働停止は、政府が、原子力損害賠償支援機構の出資を通して東電の経営権を握るための有効な手段となるのです。ですから、政府は、改革の梃を失う再稼働には後ろ向きであり、その分、電力危機への対応を疎かにしていると考えられます。

 第4の混乱は、電力会社の株式を保有する地方自治体が、反・脱原発の立場から、迂回的にエネルギー政策に関与しようとしていることです。地方自治体の株主権行使の問題も、本来、国政レベルで妥当性を決めるべきことです。

 第5に、住民投票や国民投票を求める意見もありますが(国民投票は、憲法改正が必要…)、安全保障や産業政策とも関連しますので、どのレベルの決定を優先すべきか、あるいは、意見対立があった場合、どのように解決するのか、といった問題は、これから決めてゆくべき課題でもあります。

 これらの他にも、再生エネルギー推進派が政策決定過程に圧力をかけていますので、混乱には、さらなる拍車がかかっています。まずは、問題点と手続きをきちんと整理し、中・長期的な議論を要する問題は、後回しにすべきなのではないかと思うのです。

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コメント (3)
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