万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日本国の核武装孤立化論-中国の脅威との比較になるのでは?

2016年05月03日 15時16分18秒 | 国際政治
 トランプ氏の発言によって蓋が開いてしまった日本国の核武装論については、戦前と同様の道を辿り、国際社会における孤立化を招くとする批判があります。”ABCD作戦”の再来を恐れる議論ですが、果たして現実は、この説通りの展開となるのでしょうか。

 国際関係アナリストである北野幸伯氏が唱える孤立化論の最大の根拠は、NPTの制定目的が日独の核武装阻止にあった、というものです。しかも、70年代には、ニクソン・キッシンジャー外交における米中協調の流れの中で、米中両国間に”日本国に核兵器を持たせない”とする密約も存在したと指摘されています。つまり、孤立化論は、70年代の時代状況から、日本国の核武装は孤立化を招くと予想しているのです。しかしながら、既に、米中密約から半世紀近くが経過し、今日のアジア、否、国際社会の最大の脅威は、もはや日本国ではなく、軍事大国と化した中国です。ソ連邦が超大国として君臨した70年代においては、対ソ戦略上、米中接近には利害の一致が見られ、中国の軍事力も低レベルにありました。今やソ連邦は消滅し、ピルズベリー氏が『China2049』で暴露したように、中国は、覇権主義的な野心を露わにしております。国際情勢は著しく変化したのですから、日本国の核武装につきましても、その是非の判断は、国際社会全体の平和の維持を念頭になされるはずです。すなわち、中国の軍事的脅威と日本国の核武装を比較考量し、前者の危険性が後者を上回り、かつ、日本国の核武装が前者に対する抑止力として働くならば、国際社会は、必ずしも頭から日本国の核武装を否定するとは限らないのではないと推測されるのです。

 北野氏は、アメリカとのニュークリアシェアリング条約締結の可能性に触れつつも、中国、ロシア、北朝鮮の反発を想定し、その必要性にも疑問を呈しております。おそらく、”西側諸国”が日本国の核武装を認めたとしても、”東側諸国”は、許さない、というロシア側のメッセージを伝えているのでしょう。しかしながら、この脅迫とも言える反応こそ、実は、核を保有する”東側諸国”が最も恐れている事態が、核による対日威嚇効果、あるいは、軍事的優位性の減滅であることを表わしております。氏は、ニュークリアシェアリングが実現すれば、北方領土は軍事要塞化され、日本国には戻ってこないだろうと述べておりますが、それでは、日本国が、ニュークリアシェアリングを諦めたならば、ロシアは、その見返りとして北方領土を返還するのでしょうか。何れにいたしましても、ニュークリアシェアリングの可能性も含めて、日本国は、現下の日本国の防衛、並びに、国際社会の平和にとって何が必要なのか、という問題意識を基本軸として、安全保障政策については、タブーなき議論を進めてゆくべきではないかと思うのです。

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コメント (2)
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