万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

トランプ現象を招いた国民統合の失敗

2016年05月09日 15時14分23秒 | アメリカ
オバマ氏、トランプ氏に懸念…「娯楽ではない」
 トランプ氏が共和党の指名候補の座を手にした背景に、根強い国民の政治不信と失望感があったことは、既に各方面から指摘されております。トランプ現象の分析は、既存の政党が何に失敗したのかを検証する機会ともなります。

 トランプ氏を支持している層は、経済のグローバル化の煽りを受けた中低所得の白人男性層であるとされております。その一方で、アメリカ国民の二極化は、共和党と民主党の間ではなく、伝統的なマジョリティーと今や総数においてマジョリティーに迫りつつあるマイノリティの間にあるようにも見えます。そしてこの分極化の原因については、思い当たる節があります。オバマ大統領当選時の国民統合の期待が萎んでしまい、逆に分裂が、何故これほどまでに深刻化したのかを考える時、ホワイトハウスが発信したある動画が思い出されるのです。

 それは、今年2月に、アメリカ議会図書館の図書館長(Librarian of Congress)に、初めてアフリカ系の女性、カルラ・ハイデン氏が指名された際の紹介ビデオです。アフリカ系の図書館長の誕生もまた史上初の出来事なのですが、図書館内での様子が映しだされた当動画には、白人の人々が僅かしか映っておらず、図書館を利用する人々の殆どがアフリカ系の人々なのです。この動画、”図書館は全ての人々に開かれている”とする言葉で締めくくられているのですが、この編成は、あまりにも不自然です。おそらく、白人の人々がこの動画を見たら、自らの存在が消去されたかのようで不快に感じたことでしょう。アメリカ建国以来、荒れ地を開拓し、アメリカ議会図書館に収蔵されている書物や資料といった知的遺産も含めて、国造りに努力してきたとする自負があるでしょうから、内心において深く誇りを傷つけられたかもしれません。

 この動画を視聴した時、アメリカの分極化の理由の一つが分かったように感じたのは、オバマ政権によるアフリカ系、あるいは、マイノリティーへの優遇策が、マジョリティーの反感を招くほどにまで行き過ぎていたからです。数においてマイノリティーとマジョリティが拮抗する微妙な時期においては、相手の存在を故意に無視するような姿勢や態度は、両者間の感情的な対立を煽るのみです。アフリカ系の人々にとりましては、その苦難に満ちた歴史を顧みれば溜飲を下げる思いなのでしょうが、国民統合という面からしますと、この逆差別的な手法は、反動と国民分裂を招くリスクに満ちていたと思うのです。

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