万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

『パナマ文書』問題-国際共通法人税率の導入を

2016年05月10日 16時57分53秒 | 国際政治
パナマ文書で人為的な課税逃れは防げるか 国際的な課税制度確立を目指す動きが加速
 『パナマ文書』がリークされた動機は、人類を救うことにあります。リーク者とされる”ジョン・ドウ(”名無しの権兵衛”の意味らしい…)”氏は、”タックスヘイブンを利用するグループを為すがままにしておくと、「資本主義」という名前で呼ばれていながら、その実は、‘別の新たなシステム’が成立してしまい、世界の多くの人々が、奴隷化されてしまう…”といった趣旨の危機感を語っております。

 『パナマ文書』の分析や犯罪調査などは、今後、各国の当局によって進められるのでしょうが、その一方で、タックスヘイブンを利用した企業の租税回避行為に対処するための国際的な取り組みも始まっております。ジョン・ドウ氏が危惧する”別の新たなシステム”とは、市場で得られた利益の大半が企業経営者や富裕層に流れ、それがタックスヘイブンで隠されてしまうため、市場への再投資や被雇用者への賃金支払いが細り、税収としても国民に還元されることもない、非循環型の分離型システムであり、それはもはや、資本主義とも市場経済とも呼べない代物である、ということなのでしょう。

 このシステムでは、タックスヘイブンを利用する企業の従業員でさえ、”奴隷化”されてしまいかねないのです。それでは、こうした危機に対する有望な解決策はあるのでしょうか。タックへヘイブンの利用動機は、これらの諸国の法人税率がゼロ%、あるいは、極めて低率であるからです。タックスヘイブンの存在を念頭に、法人税率については、日本国を含めて税率の下げ競争が既に発生しております。しかしながら、たとえ20%代に引き下げたとしても、タックスヘイブン諸国に敵うはずもありません。仮に、タックスヘイブンの”魔力”に対抗しようとするならば、どの国も、法人税率を0%まで引き下げなければならないのです。これでは、所得税のみが国民に重くのしかかりますので、どの国も、財政が悪化すると共に、国民の不満も鬱積します。そこで考えられる方法とは、タックスヘイブン諸国を含め、世界のすべての国々が、同率、一定幅、あるいは、最低税率を定める国際共通法人税何時を導入することです。つまり、タックスヘイブンを消滅させれば、この問題は、一気に解決へと向かうのです。

 市場のグローバル化に伴って、今や、企業の活動は国境を越えて広がっております。こうした現実を考慮しますと、国際共通法人税率の導入は、現代という時代の企業活動の形態に適応していますし、企業の競争条件を等しくする効果も期待できます。果たして『パナマ文書』は人類を救うのか、それは、今後の国際社会の努力にかかっていると思うのです。

 よろしければ、クリックをお願い申し上げます。

にほんブログ村
コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする