万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ファウェイの日本企業接近は罠か?-迫られる安全か利益かの選択

2019年11月22日 15時41分02秒 | 日本政治
アメリカから厳しい制裁を受けつつも、一先ずは好調な業績を維持しているとされる中国のファウェイ。先日、そのファウェイの梁華会長が来日し、来年度の日本企業からの調達額を今年度の2倍の1.1兆円に増やす方針を示したと報じられています。何らの問題もなければ、日本国からの輸出額が増え、日本企業が利益を上げるチャンスとなるのですから歓迎すべきニュースなのですが、日本国は、ファウェイからの‘厚意’を素直に喜べない状況にあります。

 日本国内におけるマスメディアの論調は、大きな‘商談’だけに、どちらかと言えばファウェイ擁護の論調の方が強いように思えます。例えば、ファウェイ製品によるスパイはあり得ないとするシステム面からの解説記事もありました。同記事に依れば、ネットワークのインターフェイス層を担うファウェイは、宅急便の宅配システムに喩えれば運送手段である自動車に当たり、運ばれている段ボールの中身を見ることはできないそうです。データを収取し得るのは、アプリケーション層にあるGAFAやBATであって、仮に段ボールを開けたとしても痕跡が残るので、ファウウェイがスパイを働くことは不可能と云う説明です。しかしながら、この説明でも同社に対するスパイ疑惑が完全に払拭されたとは言えないように思えます。

 梁会長は、上記の会見にあってもファウェイにかけられているスパイ疑惑を強く否定していましたが、ファウェイの抜きんでた技術力からすれば、段ボールの中身を‘透視’する技、即ち、暗号解読技術を開発している可能性が高いからです(バックドア…)。宅配の段ボールであっても、X線や各種のレーザー装置等を使用すれば、梱包されたままの状態で開封の痕跡を微塵も残さずして、それを手にし得る人がその中身を知ることができます。言葉でスパイ疑惑を否定したとしても、アメリカのIT大手を凌ぐとされるその折り紙つきの実力がある限り、暗号化された情報を秘かに解読しているとする疑いを晴らすことができないのです。

 一方、同記事では、アメリカがファウェイを叩く‘本当の狙い’として、G5時代の覇権争いにおける低周波数領域(sub-6)vs.高周波数領域(mmWave)の対立を挙げています。ファウェイを含む中国勢が前者を支持する一方で、アメリカは後者を押しており、現状では、基地局の増設投資を要しない前者がグローバル・スタンダードとして採用される可能性が高いそうなのです。そして、アメリカにおいてファウェイ攻撃の急先鋒となっているのは国防省であり、その理由は、同省こそ、高周波数領域を軍事システムとして採用しているからに他ならないからです。mmWaveは、sub-6よりも一つの基地局がカバーできる範囲が狭いとはいえ、速度においては優っています。今後、軍事面においても無人機やロボット等が活用される時代が到来するとすれば、通信速度が戦争の勝敗を決しかねませんので、国防省としてはmmWaveの使用継続を強く求めたのでしょう。ファウェイへの締め付け強化は、この問題に言及した国防報告書が発表された4月3日以降なそうです。

 そして、この問題において日本国が無関係ではいられないのは、日本国もまた、アメリカと共に5GにおいてmmWaveを開発の中心に据えているからです(韓国もmmWave派であり、アメリカが韓国のGISOMIA破棄に反対するのも、この問題が絡んでいるのかもしれない…)。現状では、mmWaveの開発を推進しているのは日米韓の3ヶ国のみであり、ファウェイ主導でsub-6が全世界の諸国に広がれば、同三か国はガラパゴス化するとも指摘されています。このことは、同時に、中国と同一規格となるこれらの諸国における人民解放軍の展開が容易になることを意味します。また、有事に際して中国が情報の遮断や攪乱等のサイバー攻撃を試みようとする場合にも、情報の伝達プロセスに介入できるインターフェイス層に同一規格のファウェイ製品が全世界規模で組み込まれている方が好都合なのかもしれなせん…。

仮に、日本国の企業がファウェイとの取引を拡大させ、同社によるG5事業を部品調達の面で支えるとなりますと、深刻な自己矛盾に陥ることとなりましょう。経済的な利益を求めれば、自国の安全保障を危うくするという…。しかも、日本国自身がsub-6を採用するともなれば、米中対立が政治・軍事分野に拡大する中、有事に際して自衛隊と米軍との関係にも支障をきたすこととなります。同盟国として通信技術分野での規格を共有することは重要ですし、有事に際しては、円滑な共同防衛を実現するからです。

 ファウェイによる積極的な日本企業への接近は、長期的に見ますと中国の世界戦略の一環であり、人民解放軍も得意としてきた‘敵を引き込んで殲滅する’という伝統的な作戦であるのかもしれません。ここは、ファウェイの申し出に飛びつかず、政治・軍事的なリスクについても十分に考慮すべきではないかと思うのです。

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