万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日中協力「第5の文書」は裏切りの文書-日本国のイメージ悪化と信頼失墜

2019年11月02日 14時51分21秒 | 日本政治
本日の日経新聞朝刊の第一面には‘習氏来日時に「第5の文書」’というタイトルの記事が掲載されておりました。2020年の春に予定されている習近平国家主席の国賓としての公式訪問に合わせ、日中両国間で政治文書を作成が検討されているとする記事です。しかしながら、この文書、日本国側が失うものの方が遥かに大きいのではないかと思うのです。

 中国側の狙いは分かりすぎる程に分かり切っています。先日のペンス副大統領の演説でも示されたように、アメリカは、膨大な額に上る貿易赤字やIT分野における中国の挑戦的な国家戦略に歯止めをかけると共に、香港や台湾に対する中国政府による弾圧的な政策に対して断固として反対する姿勢を表明しています。否、既に具体的な制裁を科す段階に移っており、自由、民主主義、法の支配等の諸価値を否定する中国との間の価値観をめぐる対立は、妥協の余地を失いつつあります。香港問題もあって国際社会において対中批判が高まる中、中国としての‘最良の策’は、アメリカの同盟国である日本国を丸ごと自陣営に組み込んでしまうことなのでしょう。朝鮮半島の南北両国は常に不安定ですが、安定的、かつ、信頼性の高い日本国を味方にすれば、国際的な批判や圧力を弱めることができます。米市場に代替する輸出市場も確保できます。折しもタイのバンコクではRCEPの閣僚会議が開催されており、経済分野で合意に達すれば、習主席訪日を前にして日本攻略に向けた環境も整うのです。

 もっとも、自らの野望を隠して外観を取り繕うために、‘「第5の文書」は’世界貢献’を謳い文句としています。このキャッチフレーズは、おそらく国民の8割以上が中国に対して悪い感情を抱いている日本国民の反発を恐れた日本国政府側の発案なのでしょう。特に日本政府側が扱いたテーマとして挙げてあるのは、地球環境問題や北朝鮮情勢といったグローバル、あるいは、国際的な問題であり、カモフラージュとしては最適です。しかしながら、中国側の‘世界貢献’の理解が日本国側、あるいは、一般的理解と必ずしも一致しているとは限りません。つい先日、中国は、建国70周年記念の軍事パレードで新型の核ミサイルを披露し、アメリカのみならず周辺諸国をも軍事力で脅したばかりです。また、先端的なITを以って徹底した国民監視体制を実現すると共に、同システムの全世界的な拡散を目論んでいるのは疑いようもありません。香港問題でも公然と一国二制度を踏み躙り、台湾に対しても武力行使を示唆しているのですから、‘世界貢献’は悪い冗談にしか聞こえないのです。同文書には、「一帯一路」や「新時代」といった言葉も文書に書き込みたい意向なそうですが、‘世界貢献’とは、‘偉大なる中国様が、その深い温情によってありがたくも劣った諸国を支配してしんぜよう’ということなのでしょう。このような中華思想の中国が、全世界の人々がその人格を尊重され、基本的な権利や自由が享受し、豊かな生活を送れるような世界の望んでいるはずもありません。

 日本国政府としては、13億の中国市場における経済的利益に目がくらんだのでしょうが、一昔前とは違い、中国企業がその技術力によって急速な成長を遂げ、今や巨大なグローバル企業を擁するに至った今日、その経済的メリットも薄れてきています(人件費も上昇…)。むしろ、中国企業によって日本市場が席巻されるリスクの方が高まっており、アメリカと同様に、攻めよりも守りを考慮すべき時かもしれません。そして何よりも、米中対立の中での日本国の対中接近は、日本国と云う国が、全体主義国に近い国と見なされかねないリスクがあります。

かつて日本国は、ヨーロッパ諸国を破竹の勢いで席巻したナチスドイツに魅せられて同国と同盟を組み、破滅的な運命を辿ることとなりました。戦後に至り、第二次世界大戦によって悪化した日本国のイメージを回復するには、長い時間と努力を要しましたが、今日、時世に流される、即ち、中国の勢いに呑まれて同国と与することとなれば、過去の失敗を繰り返すこととなりましょう。このような事態となれば、日本国民の圧倒的多数は、素人でも分かる中国の謀略に易々と嵌った安倍政権に対して失望すると共に、中国陣営への乗り換えに反対するのではないでしょうか。密室で作られる「第5の文書」は、敵側に寝返ったことで同盟国であるアメリカを、自由、民主主主義、法の支配といった普遍的な諸価値を蔑にしたことで人類を、そして、独立を危うくしし、全体主義化の危機を招いたことで日本国民を裏切ることとなるのではないでしょうか。

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コメント (2)
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