韓国の文在寅大統領は、GISOMIAの失効を直前にし、アメリカの圧力を受ける形で同協定の失効時期の延期を決定しました。GISOMIA破棄そのものは撤回されたわけでありませんので、今後の日韓協議の行方次第で同協定は打ち切られる可能性もあり、予断を許さない状況が続いています。一先ず同協定の枠組が維持された日本国内のメディアでは安堵感が広がると共に、これを機に、安全保障分野における日米間の協力体制を再構築すべきとの主張も見受けられます。しかしながら、文大統領の韓国防波堤論からしますと、こうした楽観的な期待は幻に終わる可能性が高いのではないかと思うのです。
韓国防波堤論とは、‘韓国は、中国、ロシア、並びに、北朝鮮の軍事的脅威から日本国を護っている防波堤の役割を果たしているのであるから、韓国に感謝して譲歩すべき’とする文大統領の持論です。この論を最初に唱えたのは文大統領自身ではないそうなのですが、歴史を振り返れば、この論のあまりの身勝手さに唖然とさせられることでしょう。
文大統領の演説は、国内向けの反日パフォーマンスであったかもしれませんが、名指しでこの言葉を投げつけられた日本国としては、心中穏やかではないはずです。明治以降の戦争は何れも朝鮮半島が深くかかわっており、日清戦争にあっては下関条約で清国から李氏朝鮮を独立させ、日露戦争ではロシアの南下政策の脅威から朝鮮半島を護りました。両戦争を通して多くの日本人が戦地へと赴き、彼の地に斃れたのです。韓国の人々から見れば、これらの戦争は日本国の帝国主義に基づく植民地化の一環であり、かつ、日本国が自国の防衛のために朝鮮半島に介入した、否定されるべき歴史なのでしょうが、少なくとも、人的被害の側面から見れば、犠牲を払ったのは日本国側です。また、韓国併合後の第二次世界大戦にあっても、満州国を‘防波堤’としていた朝鮮半島の諸都市は日本国内のような激しい空爆は受けていないのです。
中国が軍事大国として台頭し、北朝鮮がアメリカを直接に核攻撃し得る能力を獲得した今日、この主張は、日本国にのみ向けられているのではなく、アメリカに対しても転用し得るからです。激戦となった朝鮮戦争にあっては、瀕死の韓国を護るために、米兵をはじめ‘国連軍’に参加した諸国の兵士達の多くが異国の地で若き命を落としたのですから。そして、公にはされてはいないものの、国連軍に協力した日本国でも殉職された方がおられるのです。同論は、韓国の駐留米軍経費の負担増額を求めるアメリカに対する間接的な牽制であったかもしれませんし(もっとも、仮に韓国が‘アメリカを護っているのは韓国’と主張すれば、アメリカは怒り心頭に発するのでは…)、
こうした歴史的経緯からすれば、韓国防波堤論は、日米ともに受け入れがたいのですが、過去の‘恨’は決して忘れませんが、過去の‘恩’、否 利益は気にも留めない韓国の国柄からしますと、韓国防波堤論は、自国を優位な立場に置くことができる最強のカードなのでしょう。しかも、ソ連が共通の敵であった冷戦期とは違い、軍拡著しい中国は、歴史において韓国を保護する宗主国の役割を果たしてきた国でもあります。つまり、今や韓国は、中国陣営に与するオプションを有するに至ったのであり、この中間的、否、‘蝙蝠’的なポジションこそが、日本国、並びに、同盟国であるアメリカに対する絶対的な強みであると認識されているのでしょう。GISOMIAを外交カードとして使っている文大統領の姿は、端から見ますと‘火遊び’をしているように映りますが、韓国流の思考からしますと至極当然の行動なのかもしれません。
しかしながら、相手国の思考を理解するのと、その行動を支持するのとは別問題です。たとえ韓国には韓国なりの理屈があったとしても、それを理解した国がその行動を必ずしも受け入れるとは限りません。仮に韓国の防波堤論を認めれば、日本国は、日韓請求権協定や慰安婦問題をはじめ、あらゆる分野に亘って韓国に対して譲歩を強いられ、経済的にも優遇措置をも与え続けなければならなくなりましょう。いわば、日本は韓国の‘属国’と化すのですが、日本国政府、並びに、日本国民がこの状態をよしとするはずもありません。
日本国政府が韓国の‘ホワイト国’としての資格を取り消した際に、韓国側は、規制対象となる部品の内製化を進めることで対抗しようとしました。日本国もまた、韓国が最終的にはGISOMIAを破棄し、さらには、反米感情の高まりを背景に駐留米軍が撤退する事態にまで発展した場合には、韓国抜きの防衛、並びに、安全保障体制の構築を急ぐことでしょう。白兵戦が戦争の勝敗を決した時代は過ぎ、サイバー時代を迎えた今日では、韓国の防波堤としての役割も低下してきています(日本国は、軍事衛星を多数運営しているアメリカからミサイル情報を得られますし、アメリカは、太平洋上でミサイルを迎撃すればよい…)。また、文大統領は、韓国の核武装を以って日本国を脅しておりますが、同国が核を保有すれば日本国もまた核武装を以って対抗することでしょう(朝鮮半島の核保有を以って、NPT体制も崩壊しているのでは…)。
文大統領は、対日、並びに、対米交渉の‘切り札’を切ったつもりなのでしょうが、それは、敵国への寝返りを示唆して味方を脅すという背信的な行為であり、かつ、水面下で燻ってきた日本国の疑いを確信に変えたとも言えましょう。韓国が、中国側に寝返るという…。取り繕ってきた信頼関係の建前も崩れ、韓国を見る日本国の視線も自ずと変化することでしょう。そして、たとえ明白に韓国が中ロ陣営に加わったとしても、これらの諸国からも全幅の信頼を得られるとも思えず、むしろ、自らの国の安全保障を危うくしてしまったのではないかと思うのです。
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韓国防波堤論とは、‘韓国は、中国、ロシア、並びに、北朝鮮の軍事的脅威から日本国を護っている防波堤の役割を果たしているのであるから、韓国に感謝して譲歩すべき’とする文大統領の持論です。この論を最初に唱えたのは文大統領自身ではないそうなのですが、歴史を振り返れば、この論のあまりの身勝手さに唖然とさせられることでしょう。
文大統領の演説は、国内向けの反日パフォーマンスであったかもしれませんが、名指しでこの言葉を投げつけられた日本国としては、心中穏やかではないはずです。明治以降の戦争は何れも朝鮮半島が深くかかわっており、日清戦争にあっては下関条約で清国から李氏朝鮮を独立させ、日露戦争ではロシアの南下政策の脅威から朝鮮半島を護りました。両戦争を通して多くの日本人が戦地へと赴き、彼の地に斃れたのです。韓国の人々から見れば、これらの戦争は日本国の帝国主義に基づく植民地化の一環であり、かつ、日本国が自国の防衛のために朝鮮半島に介入した、否定されるべき歴史なのでしょうが、少なくとも、人的被害の側面から見れば、犠牲を払ったのは日本国側です。また、韓国併合後の第二次世界大戦にあっても、満州国を‘防波堤’としていた朝鮮半島の諸都市は日本国内のような激しい空爆は受けていないのです。
中国が軍事大国として台頭し、北朝鮮がアメリカを直接に核攻撃し得る能力を獲得した今日、この主張は、日本国にのみ向けられているのではなく、アメリカに対しても転用し得るからです。激戦となった朝鮮戦争にあっては、瀕死の韓国を護るために、米兵をはじめ‘国連軍’に参加した諸国の兵士達の多くが異国の地で若き命を落としたのですから。そして、公にはされてはいないものの、国連軍に協力した日本国でも殉職された方がおられるのです。同論は、韓国の駐留米軍経費の負担増額を求めるアメリカに対する間接的な牽制であったかもしれませんし(もっとも、仮に韓国が‘アメリカを護っているのは韓国’と主張すれば、アメリカは怒り心頭に発するのでは…)、
こうした歴史的経緯からすれば、韓国防波堤論は、日米ともに受け入れがたいのですが、過去の‘恨’は決して忘れませんが、過去の‘恩’、否 利益は気にも留めない韓国の国柄からしますと、韓国防波堤論は、自国を優位な立場に置くことができる最強のカードなのでしょう。しかも、ソ連が共通の敵であった冷戦期とは違い、軍拡著しい中国は、歴史において韓国を保護する宗主国の役割を果たしてきた国でもあります。つまり、今や韓国は、中国陣営に与するオプションを有するに至ったのであり、この中間的、否、‘蝙蝠’的なポジションこそが、日本国、並びに、同盟国であるアメリカに対する絶対的な強みであると認識されているのでしょう。GISOMIAを外交カードとして使っている文大統領の姿は、端から見ますと‘火遊び’をしているように映りますが、韓国流の思考からしますと至極当然の行動なのかもしれません。
しかしながら、相手国の思考を理解するのと、その行動を支持するのとは別問題です。たとえ韓国には韓国なりの理屈があったとしても、それを理解した国がその行動を必ずしも受け入れるとは限りません。仮に韓国の防波堤論を認めれば、日本国は、日韓請求権協定や慰安婦問題をはじめ、あらゆる分野に亘って韓国に対して譲歩を強いられ、経済的にも優遇措置をも与え続けなければならなくなりましょう。いわば、日本は韓国の‘属国’と化すのですが、日本国政府、並びに、日本国民がこの状態をよしとするはずもありません。
日本国政府が韓国の‘ホワイト国’としての資格を取り消した際に、韓国側は、規制対象となる部品の内製化を進めることで対抗しようとしました。日本国もまた、韓国が最終的にはGISOMIAを破棄し、さらには、反米感情の高まりを背景に駐留米軍が撤退する事態にまで発展した場合には、韓国抜きの防衛、並びに、安全保障体制の構築を急ぐことでしょう。白兵戦が戦争の勝敗を決した時代は過ぎ、サイバー時代を迎えた今日では、韓国の防波堤としての役割も低下してきています(日本国は、軍事衛星を多数運営しているアメリカからミサイル情報を得られますし、アメリカは、太平洋上でミサイルを迎撃すればよい…)。また、文大統領は、韓国の核武装を以って日本国を脅しておりますが、同国が核を保有すれば日本国もまた核武装を以って対抗することでしょう(朝鮮半島の核保有を以って、NPT体制も崩壊しているのでは…)。
文大統領は、対日、並びに、対米交渉の‘切り札’を切ったつもりなのでしょうが、それは、敵国への寝返りを示唆して味方を脅すという背信的な行為であり、かつ、水面下で燻ってきた日本国の疑いを確信に変えたとも言えましょう。韓国が、中国側に寝返るという…。取り繕ってきた信頼関係の建前も崩れ、韓国を見る日本国の視線も自ずと変化することでしょう。そして、たとえ明白に韓国が中ロ陣営に加わったとしても、これらの諸国からも全幅の信頼を得られるとも思えず、むしろ、自らの国の安全保障を危うくしてしまったのではないかと思うのです。
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