万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

国連SDGs基準なら中国系はアウトでは?

2019年11月27日 16時41分33秒 | 国際政治
 最近、メディアや企業広告等でもSDGsという言葉を目にする機会が増えました。SDGsとは、Sustainable Development Goals(持続可能な発展)の頭文字をとった略語であり、国連総会が2015年9月に採択したアジェンダに基づいて2030年までに達成すべき目標等を定めた行動指針です。17の目標が設定され、各目標には具体的な達成基準も定められています。つまり、国連レベルで設定されたグローバルな共通目標なのです。

 国連が、いささかリベラルな色調を帯びた人類共通の目標や基準を事細かく一方的に定める手法にも問題がないわけではなく、特に環境分野においては、原因をめぐって議論の分かれる気候変動への関心が高いと言った難もあります。完璧なわけではないのですが、SDGsがメディア等でも持て囃される理由とは、強制力はないものの、‘同指針は、’あらゆる種類の人々、大学、政府、機関、組織’など、政府のみならず民間に対しても目標達成への協力と参加を促しているからです。乃ち、一般の民間企業も同指針に沿った行動を取ることが推奨されており、実際に、企業投資などの審査に際しても評価基準となっているケースも少なくないのです。

例えば、先進国の企業が途上国において現地の人々に対して搾取的な労働を課している場合には、SDGs基準の評価は大幅に下がり、同企業は資金調達に苦しむ可能性があります。逆に、現地のスモール・ビジネスであっても、途上国の飢餓問題の解決に貢献し、生活水準を向上させるような事業を始めようとする組織や個人に対しては、全世界から起業資金を集めるチャンスに恵まれます。SDGsに合致した事業内容や経営方針を示すほどに資金集めも容易となるため、広告などにも積極的にSDGsをアピールするようになったのです。いわばSDGsとは、自ずと全人類が豊かになるメカニズムとも言えましょう。

そして、仮にSDGsを基準として今後の全世界の経済成長を予測するとしますと、その成長や発展に赤信号が点るのは、中国となるのかもしれません。中国は、改革開放路線の選択によりSDGsの第1、並びに、第2目標に掲げられている貧困や飢餓を克服したとして自らを高く評価するのでしょうが(むしろ、統制経済が貧困や飢餓を創り出していたのでは…)、その他の目標の達成度を見る限り、低評価とならざるを得ないからです。

とりわけ第10の目標と第16の目標の達成は絶望的と言ってもよいかもしれません。まず、前者の達成基準の一つには、‘2030年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、すべての人々のエンパワーメント、および社会的、経済的、および政治的な包含を促進する’というものがあります。チベットやウイグルでの現状を見れば、現在の北京政府はSDGsの方針に逆行しています。また、後者にも、‘あらゆる場所において、すべての形態の暴力および暴力に関連する死亡率を大幅に減少させる’、‘国家および国際的なレベルでの法の支配を促進し、すべての人々に司法への平等なアクセスを提供する’、並びに、‘国内法規および国際協定に従い、情報への公共アクセスを確保し、基本的自由を保障する’といった、中国の行動様式とは正反対の達成目標が並んでいるのです。中国は、香港における民主派の抗議活動に対しては暴力を以って封じ込めようとし、南シナ海問題では法の支配を踏み躙って仲裁判決を無視しました。また、権力分立が否定される状況では全ての中国国民に司法へのアクセスが平等や基本的な自由が保障されているわけでもありません。細かく見れば中国にはさらに多くの多くのSDGs違反があるのですが、これらの二つの目標に限ったとしても、SDGs基準に照らしますと、今後、中国の企業が積極的な投資先となるとは思えないのです。

人々が、誰もが納得するような共通の行動規範を定めて社会悪を排除し、社会全体の発展を促すのは、‘モーゼの十戒’のみならず、古代文明の諸法にも見られる人類ならではの知恵です。SDGsも、幾つかの問題を残しつつも、基本的にはこの手法を踏襲していると言えましょう。そして、中国が、SDGsが定める行動規範に従わず、むしろ、共産党一党独裁体制への支持を基準に取引国や取引企業を選別しようとする時、他の諸国は、‘チャイナ・スタンダード’への適応の行き着く先を見通す必要がありましょう。それは、自由も民主主義も、そして、法の支配も失われた、腐敗と停滞が支配する暗黒の世界であるかもしれません。

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コメント (2)
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