報道によりますと、昨日6月30日、国連の人権理事会において日本国を含む27か国が共同で中国による「香港国家安全維持法」の制定を批判する声明を発表したそうです。一時期、日本国政府は、対中非難声明への参加打診を拒否したとの報道もありましたので、日本国政府の対応が注目されていたのですが、今般の共同声明を見る限り、米欧諸国と足並みを揃えたようです。予定されていた習近平国家主席の訪日も白紙に戻されたとされ、一先ず、日本国の全体主義陣営入りの危機は遠のいたのですが、今般の日本国政府の対中非難を以って安心してはならず、油断は禁物なように思えます。
同法は、本日7月1日を以って施行されます。昨日まで香港市民は自由に発言し、北京政府の監視を受けることなく行動することができたのですが、時計の針が12時を過ぎた途端、香港の様相は一変し、中国大陸から張り出してきた重苦しい灰色の雲に覆われることとなりました。香港の民主化運動をリードしてきた若者たちも、自らが結成した「香港衆志」からの脱退を表明すると共に、同党も解散されています。香港には多数の政党が乱立しているとはいうものの、かつての東欧諸国のように多党制もやがては形骸化するかもしれません。
香港のケースは、一先ずはイギリスから‘返還’された地域であり、他の諸国とは事情が異なると見なされがちですが、共産主義の特徴の一つは、世界同時革命を平然と主張するような無境界・無国境・無民族性にあります。それ故に、自由主義国もまた‘共産化’、あるいは、‘中国化’の脅威に晒されており、今日、オーストラリアが反中・抗中の方向に転じる要因となった‘間接侵略’の危機は、全ての諸国の目前に迫っているのです。日本国を含めて…。
それでは、こうした忌々しき事態を避ける手段はあるのでしょうか。一連の中国による香港の‘共産化’のプロセスを観察しますと、「一国二制度」、否、自由主義体制を潰す方法の一端を垣間見ることができます。そこで、先ずは、共産主義者の自由主義体制攻略法を知ることから始める必要がありそうです。北京の共産党本部、あるいは、世界の何れかにある共産主義勢力の本部の奥深くには、人類支配の工程表、並びに、その実現のためのマニュアルが機密文書として保管されているのでしょうが、香港情勢や最近の動向から読み取れるのは、およそ、以下のような多面的作戦です。おそらく、共産主義者は、(1)香港の統治機構、(2)経済界、(3)マスメディア、並びに、(4)市民社会の凡そ4つのレベルにおける作戦を同時展開しているのではないかと推測されるのです。
(1)の香港の統治機構は、自由主義国に当て嵌めれば国家の統治機構となり、地方自治体を含めた政府、議会、警察・検察、裁判所、官僚組織などです。このレベルでは、できる限り多くの親中派の人物を送り込むことが、至上命題となります。このためには、人事権を掌握する必要があるのですが、自由主義体制では民主的な選挙制度が設けられていますので、とりわけ政府や議会議員に関する人事権は国民にあります。そこで、共産主義者は、目的達成の邪魔となる民主的制度が機能不全となるように画策するのであり、賄賂、便宜や利権の供与、饗応など、様々な不正な手段が駆使されることとなります。もっとも、それでも全市民の懐柔が不可能であることは、先の香港における地方選挙の結果を見れば一目瞭然です。そこで次なる手としては、有権者の選択肢を狭めてしまう、つまり、有権者がどの政党に投票しても親中派となるように、市民の目の届かないルートを介して全政党を操ってしまうのです。あるいは、親中派の候補者が有利となるように選挙法を改正させるといった手法もありましょう。
(2)の経済界については、中国市場での利益の約束に尽きます。素直に北京政府の意向に沿えばビジネスが繁盛し、逆に反すれば、ビジネスが阻害されて損害が与えられるのです(‘アメとムチ’…)。中国との経済的な繋がりが深化するほどに同手法の効果が高まります。そして、中国市場に利権を有する企業が自国の政府に対して積極的にロビー活動を行うように仕向けることができれば、相手国の内側から親中政策へと誘導することができます。
(3)のマスメディアもまた、中国政府にとりましては有効な自由主義国攻略手段です。自由主義国では、中国ほどには報道規制が厳格ではありませんので、たとえそれが政治的なプロパガンダであったとしても、比較的‘自由’に発信することができます。また、日本国が中国との間に報道協定(日中記者交換協定)を結んでいるように、情報提供の見返りに中国にとりまして不都合な情報は報じないことを約束させるという方法もあります(自由主義国のメディアも中国政府の報道統制の下に…)。加えて、娯楽やエンターテインメントにつきましても、中華文明への同化政策の一環ともなり得ます。最近、テレビの画面に原色に近い赤色と黄色の配色が多々見受けられ、出演者のセンスもどこか中国風であるのは単なる気のせいなのでしょうか。さらには、大手メディアに登場するオピニオンリーダー等も予め親中派を選んでおけば、世論の反中化を抑えることができます。
そして、(4)の市民社会に対しましても、中国は、裏から魔の手を伸ばすことができます。香港では、民主化運動を潰すために香港マフィアが雇われていたそうですが、チャイナ・マネーを以ってすれば、自由主義国内でも反社会組織を暴力装置として使うことができます。また、政党のみならず、新興宗教団体なども篭絡に成功すれば、その信者たちを一般市民に対する国民監視ネットワークとして利用できます。もっとも、近年のITの急速な発展により、社会に根を張るような組織の利用をもはや必要とせず、中国企業の他国領域内でのサービス提供を介して他国の国民の個人情報を収集できるようにもなりました。
以上に共産主義勢力による自由主義国の攻略法を推測してみたのですが、何れも現実に起きている現象なのではないでしょうか(これらの他にも様々な手段が用いられている…)。そして、最後は、人々の命を人質とした暴力となるのです。香港の悲劇は他人事では決してなく、日本国、そして、全世界の諸国の未来であるかもしれないのです。相手の手法が分かれば対策も立てられるというものです。日本国政府も国民も、自国の独立の維持、並びに、中国の覇権阻止を目的として、中国の戦略分析を急ぐべきではないでしょうか。そしてこうした自由主義国のたゆまぬ努力は、やがて香港をも救うことになるのではないかと思うのです。