万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

Go Toトラベルの東京除外は致し方ないのでは?

2020年07月19日 11時28分32秒 | 日本政治

観光業は、新型コロナウイルス禍による被害を最も強く受けた産業の一つです。突然に観光客の姿が消えたのですから、廃業に追い込まれた宿泊施設やお店等も少なくなかったかもしれません。そこで、観光業存続の危機とも言える事態を救うべく、緊急事態宣言の解除を待って、日本国政府は、Go Toトラベルと命名された観光復興キャンペーンを今月22日から開始することとしました。同政策の骨子は、旅行者に対して一定の補助金を支給するというものです。

 

 ところが、宣言解除後にあって、新型コロナウイルスの感染者数は増加傾向を見せており、予断を許さない状況に至っています。とりわけ、東京都での感染者数が激増しており、解除以前の状況に戻りつつあります。もっとも、情報不足のためにこの数値がPCR等の検査数を増やした結果なのか、実際に広範囲に感染が拡大しているのか、あるいは、一部の業界のみでの感染拡大なのか判然とせず、危機のレベルについては諸説があるのですが、この事態に危機感を懐いた政府は、Go Toトラベルによる補助金支給対象者から東京都民を除くこととしたのです。この措置に対して、東京都民からの不満の声も上がっており、政府与党も、都民からの反発を警戒しているとも報じられています。

 

 都内でメディアが実施したインタヴューの様子などを見ますと、東京都除外に不満を漏らす都民も少なくないようです。しかしながら、この措置、致し方ないように思えます。何故ならば、補助金の対象は旅行者ですので、新型コロナウイルスによって不自由な生活を強いられてきた国民一般に向けた癒し系の政策のようにも見えるのですが、同政策の第一の目的が新型コロナウイルスで甚大なる損害を受けた観光業の経済的な支援にあるからです。被害者重視の観点において、政策の趣旨は地震等の自然災害に見舞われた被災地への支援に近いとも言えましょう。

 

 そして、政策の性質が被災地支援であるとしますと、観光地に同ウイルスが持ち込まれる事態は、政策目的を水泡に帰する結果を招きます。仮に、観光地がクラスターの発生地ともなれば、その被害は、自粛期間による損害を上回ることとなりましょう。しばらくの間、誰もが感染を恐れて同観光地を訪れようとはしなくなるからです。否、自粛期間にあって観光地の‘無ウイルス状態’が保たれたからこそ、今日、Go Toキャンペーンを実施できるとも言えましょう。東京都民による予約分のキャンセルは短期的には損失とはなりますが、新型コロナウイルスが持ち込まれるリスクと比較しますと、長期的には後者の方が深刻となるかもしれません。

 

 旅行者の視点からしますと、政策の受益者から外されてしまった東京都民の不満も理解に難くありませんが、流入ルートの遮断は、今なおもウイルスの持ち込み回避の有効な手段です。観光地の苦境に思い至れば、無用なリスクを負わせない配慮も必要となりましょう。日本国の観光地が荒廃してしまいますと、都民を含め全ての国民が国内旅行を楽しむこともできなくなるのですから、観光業の救済は国民的な課題とも言えるかもしれません。

 

 このように考えますと、東京都の政策対象からの除外は(感染者が比較的多い大阪等も除外すべきかもしれない…)、観光業救済と新型コロナウイルスの感染リスクの回避の両者を両立させるための苦肉の策であって、必ずしも批判すべきことではないように思えます(もっとも、より効果的な方法があるはず、といする意見も…)。そして、この観点からすれば、感染者数の少ない県に住む人々が‘旅して応援’の意味を込めて積極的に旅に出ることが、観光地を安全に回復軌道に乗せる上で最も望ましい状況なのかもしれません(県民による県内観光地の訪問も奨励すべきかもしれない…)。出入国規制が敷かれている今であれば、落ち着いた雰囲気の中で日本国の自然の美しさや旧所名跡などのすばらしさを再発見することができるかもしれません。

 

なお、支援を受ける側の観光地も、ポスト・コロナの時代にあっても、もはや中国人観光客のインバウンドは望めませんので、これまでの拡大路線を転換し、上手にサイズ・ダウンを図る必要はありましょう。Go Toトラベルの実施期間は、日本国政府、観光業、そして国民もまた、将来に向けた観光の在り方を模索する貴重な時間ともなるのではないかと思うのです。


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