万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

米中断交もあり得るのでは

2020年07月23日 11時37分08秒 | 国際政治

 アメリカと中国との関係は、日本国政府の想像を超えるスピードで悪化の一途を辿っているように思えます。中国外務省の報道官によりますと、アメリカのトランプ大統領は、今月21日に中国に対してテキサス州の州都、ヒューストンの中国総領事館を閉鎖するよう命じたそうです。この件に関し、翌22日にポンペオ国務長官は、中国による知的財産の盗取は許さないと語り、同省の報道官も「米国の知的財産と国民の個人情報を保護するため、同総領事館の閉鎖を指示した」と説明し、同措置を事実として認めています。

 

 それでは、何故、アメリカは、サンフランシスコ、シカゴ、ヒューストン、ニューヨーク、ロスアンゼルスの5つの中国の在米総領事館の内、敢えてヒューストンの総領事館を選んだのでしょうか。知的財産の保護と言えば、IT産業の中心地であるシリコンバレーの所在するカリフォルニア州のロスアンゼルス総領事館を真っ先に閉鎖しそうなものです。しかしながら、アメリカは、敢えてヒューストンの総領事館を閉鎖しており、それには、何らかの特別の理由があったはずなのです。

 

 そこで推測されるのは、新型コロナウイルスとの関連です。何故ならば、ヒューストン市には、世界最大規模を誇るテキサス医療センターがあり、同センターには49もの数に上る先端的な研究機関が軒を連ねているからです。同地は医療研究機関の集積地であり、いわば、医療分野におけるシリコンバレーなのです。同センターでは、一般向けにも同ウイルスの感染状況に関する詳細なデータを公開しており、当然に、遺伝子解析から治療薬、並びに、ワクチンの開発に至るまで、新型コロナウイルスに関する多面的な研究もおこなわれていることでしょう。

 

 報道によりますと、ヒューストンの中国総領事館では、閉鎖命令が下されたその日の夜に、敷地内の中庭から煙が上がっているのが目撃されたそうです。通報を受けて消防と警察が駆け付けたものの、構内への立ち入りは拒絶されたと伝わります。おそらく、機密書類の焼却作業を行っていたのではないか、と推測されていますが、中国側の動きからしますと、アメリカが閉鎖の理由として指摘したように、中国は、ヒューストンにあって行われていた新型コロナウイルス、並びに、その治療薬や治療技術に関するあらゆる研究の情報を、領事館を通して違法に収集していた可能性は極めて高いと言わざるを得ないのです。

 

アメリカ側も詳細を説明していないため、盗取された情報の具体的な内容は分からないのですが、新型コロナウイルス感染症のパンデミック化の責任を問われ、莫大な損害賠償を請求されかねない立場にある中国が、アメリカ側が掴んだ武漢研究所起源説を裏付ける決定的な証拠を隠滅するため、あるいは、アメリカ側が入手した関連情報のレベルや内容を確認するために、ハッキングや協力者として取り込んだ研究員等を介して情報を違法に入手した可能性があります。もしくは、同ウイルスの治療薬やワクチンの国際開発競争において自国企業が勝利するために、世界最先端を行く関連技術をテキサス医療センターから盗取したのかもしれません。何れにしましても、アメリカ政府が総領事館の閉鎖を決断する足るレベルの違法行為であったことだけは確かであり、中国の総領事館が、米国内での諜報活動の拠点となっている実態を明らかにしたとも言えましょう。

 

 この推理を裏付けるかのように、中国は、同総領事館閉鎖への対抗措置として、武漢に設置されているアメリカ総領事館の閉鎖を示唆しているそうです。同総領事館は、新型コロナウイルスの蔓延に際して採られた都市封鎖と同時に業務を停止してきましたが、6月下旬に再開されたばかりです。アメリカは、成都、瀋陽、広州、武漢、上海、香港の六ケ所に総領事館を開設していますが、中国は、‘報復’として敢えて新型コロナウイルスの震源地である武漢を選んでいるのです。

 

 今般、米中双方が総領事館の閉鎖合戦に及んだことで両国間の対立の深刻さが表面化しましたが、水面下では、両国の間で新型コロナウイルスを機に壮絶な情報戦が繰り広げられているのでしょう。今後にあっては米中の断交も否定はできず(中国の大使館や領事館の存在自体が脅威に…)、日本国政府も、中国との対峙を覚悟せざるを得ない局面を迎えることとなるのではないかと思うのです。


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