廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

西洋音楽史の絵巻物

2017年03月11日 | Jazz LP (Enja)

Alexander von Schlippenbach / Payan  ( 西独 Enja Records 2012 )


1972年2月に収録されたシュリッペンバッハのソロ・ピアノ。 独奏の作品としてはこれが初だと思う。 そのせいかもしれないし、また、エンヤという
フリー専門ではない一般レーベル向けだからそれに合わせたからかもしれないが、フリーというにはいささか大人し過ぎる内容ではないだろうか。

1曲目は、まるでバッハのフーガ小品のような作品で始まる。 2曲目、3曲目も特にフリー色の強くない曲たちが続き、どうしたんだろう、と首を傾げる
ような感じで進む。 が、A面が終わり、B面へと移っていくと、徐々に無調感や無タイム感や特殊技巧感が現れ始め、最後の曲はお手本のようなフリー
ミュージックで終わる。 なるほど、西洋音楽の歴史を1枚のアルバムの中で絵巻物的に表現しているんだな、ということが最後になって判る仕掛けになっている。
如何にもインテリらしい手の込んだ作品で、まるで歴史上の各ポイントを切り取ったスナップショットを時間の流れに沿ってコラージュした現代アートのようだ。

それは、まるで人気のない静かな資料展示館を思わせる。 入口から入って最初の部屋は最古の時代の不完全な形で発掘された欠片から始まって、王朝期、
爛熟して退廃した文化末期、やがて市民革命が起こり、新たな政権の時代、産業革命、世界大戦、そして近代化。 そういう絵巻物をゆっくりと歩きながら
眺めているような気分になる。

そういう知的に制御されたところが素晴らしくもあり、哀しくもある。 止むにやまれぬ表現衝動のようなものの希薄さの中に欧州フリージャズの暗い未来を
予感させるところがあると感じるのは穿った見方か。

尤も、そこまで先走らなくても平易で聴きやすいピアノ独奏集なので、構えることなく接すれば高名なこの演奏家の実像の一端に触れることができるだろう。



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