Stan Getz / The Sound ( 米 Roost RLP 2207 )
我々のようなマニアはレコードはできるだけオリジナルに近いもので聴きたいと思うものだけど、そんな中でも取り扱いに困るレコードというのがあって、
これなどはその最右翼かもしれない。 ディスコグラフィー的に言えば、このレコードは1956年にそれまでこま切れに散逸していた複数の音源のいくつかを
1つに纏めただけのただの編集盤であって、オリジナルアルバムではない。
蒐集家がオリジナルという場合、概念的には製造時のファーストロットのものを指すけれど、正確にはそれがファーストロットだったかどうかを判別する
手段がないので、レーベルやマトリクス番号や刻印や盤の形状などの外見上の仕様であくまでも便宜的にオリジナルかどうかを判定している。 だから、
見かけ上の仕様が同じであっても、複数の製造工場にプレスを委託していると微妙に仕上がりが違ったりして、マニアを混乱させることも出てきたりする。
ただ、そういう仕様上の条件は満たしていても、それだけではオリジナルというのに違和感のあるケースが更にあって、それは40年代末から50年代初頭の
限られた時期に録音された音源たちの多くがそれに該当する。 つまり、パーカー、パウエル、モンクなどがこの時期に録音した音源がこれにあたるけれど、
ゲッツのプレスティッジやルースト録音もそこに加わる。 レコードの規格がSP→LP(10inch)→LP(12inch)と短期間に変わる過渡期だったせいだ。
ゲッツのこの12inchには、3つのセッションが収録されている。 1番目はホレス・シルヴァーの初レコーディングでもあるA面1~2曲目、2番目はThree Dueces
というマイナーレーベルのためのセッションをルーストが買い取ったA面3~6曲目(このThree Deucesというレーベルのレコードは当然未リリース)、
3番目はよく知られたスェーデンへ演奏旅行に出た際に録音されたB面全曲。
これらの音源は、まず、ルーストのSP(北欧含む)、及びメトロノームのSP(北欧のみ)が初版で、次にルーストの10inch LP(北欧含む)、及びメトロノームの
10inchLP(北欧のみ)が第2版(英エスカイヤー盤もあるけれど、これは毛色違いなので除外)、そしてルーストのこの "The Sound" が12inch LPとして
第3版になる(但し、北欧分の数曲がカットされている)。 ただ、ルーストの10inchにも2~3種類の仕様上の形状違いがあって複数版が存在していることも
考えると、この "The Sound" についてはもはやオリジナルというにはあまりに距離が遠過ぎる。
これだけ複雑な販売形態になっている録音の場合、どこで手を打つかは個人の価値観に任せられることになるけど、オリジナルで聴きたい/持ちたいという
マニア魂を泣かせることになっているのは間違いないだろう。
私の場合は基本的に根性がないのでこの12inchでもういいし、それ以上のことは考えたくもない。 ただの編集盤に過ぎなくても、"Dear Old Stockholm"が
収録されているというこの1点だけで、オリジナルからはほど遠い版とは言え、ぎりぎり許されるところがあるよな、と思う。