廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

新年に聴く、若き日のマイルス

2018年01月02日 | Jazz LP (Prestige)

Miles Davis featuring Sonny Rollins / Dig  ( 米 Prestige PRLP 7012 )


新年最初の1枚はマイルスで、というのは日本人特有のメンタリティーかもしれない。 初夢は富士山をとか、初詣は明治神宮でとか、そういうのに似ている。
でも、それは "Kind Of Blue" とかそういうんじゃない。 もっと若い頃の、手垢に塗れていない頃のマイルスの方が「新春」には相応しい。

アーティストの自発性と作品のクォリティーを何よりも優先したアルフレッド・ライオンのブルーノートに一目を置きながらも、マイルスがボブ・ワインストックの
プレスティッジを選んだことは、当時何の後ろ盾も持たなかった一介の若いミュージシャンにとってプレスティッジの「専属契約方式」が如何に有難いものだったか、
ということを物語っている。 契約条件であるアルバム制作枚数の縛りに対してうんざりしながらも、金も名声もなかった当時の自分と契約をしてくれて、
作品制作の機会と生きていくために必要だった金を与えてくれたワインストックに対して、マイルスは晩年になっても感謝の気持ちを忘れることはなかった。
そういう無我夢中で生きていた頃の雰囲気が濃厚に漂うのが、プレスティッジのレコードだ。

初出は2枚の10インチだったが、それらをヴァン・ゲルダーがリマスターして12インチにまとめたのがこの "DIG"というアルバム。 当時、弟分として毎日
一緒につるんで可愛がっていたジャッキー・マクリーンを連れて、頭角を現していた若いロリンズと一緒に演奏した貴重な記録だ。 このレコーディングは
プレスティッジでは初めてマイクログルーヴ方式という新しい技術が採用されて、それまでのSP向けの3分間の演奏から解放されたLP向けの初レコーディング
になるということで、マイルスは入念に準備をして臨んだ。 マクリーンはまだひよっ子で、この時が初レコーディングだった上に、スタジオにはパーカーが
見学に来ていたものだから、緊張度のメーターは針が完全に振り切れていたそうだ。

マイルスも、ロリンズも、マクリーンも、すでに誰の物真似でもない彼ら自身のトーンで吹いている。 この演奏の一番の凄さはそこだ。 技術的にはまだ
たどたどしいけれど、それは時間が解決するということを我々は知っている。 若い彼らの生々しい姿がリアルな音で目の前に再現されるというこの一点に、
このレコードの他にはない価値がある。


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