Lee Morgan / Delightfulee ( 米 Blue Note BST 84243 )
リー・モーガンのディスコグラフィーの中では後ろから数えた方が早い位置にある作品で、ジョー・ヘンダーソンとのクインテットによる演奏と、管楽器を
多数集めて分厚いバッキングさせながらポピュラーソングを演奏した2つのセッションからなっていて、後者ではなんとフィル・ウッズがアルトを吹いている。
非常に明るく朗らかな雰囲気の内容で、初めて聴いた時はかなり面喰ってしまった。 やはり、ビートルズの "Yesterday" の印象が大きいけれど、これが
原曲の持つ暗さを排して、明るく希望を抱かせるようなアレンジに変えているところが意外なほどいい感じになっている。 ソロのスペースを与えられているのは
ウェイン・ショーターだけでフィル・ウッズはバッキングだけなのは残念だが、それでも豪勢なアンサンブルをバックにモーガンのトランペットの音は本当に綺麗だ。
クインテットのセッションもヘンダーソンのテナーが難解なモードは封印してなめらかでメロディアスなプレイに終始しており、アルバム全体がライト志向に
なっているのは明らか。
リー・モーガンのアルバムを聴いていて感じるのは、この人もマイルスやゲッツと同じように常に時代の流れを強く意識していて、自分の音楽をその中で
どうしていくかを真剣に考えながら、アルバムの中で試行錯誤をしていたということだ。 そして彼のいいところは、何をやるにしても常にその音楽は
バランスがよく、聴きやすいものを作ったということだった。 フリーに走ったり独りよがりには決してならず、観客が聴いて愉しめるものにこだわった。
このアルバムに収録された自作の曲はどれも非常に判りやすく、1度聴けばメロディーラインを覚えれるようなものばかりだ。
50年代は当時の主流の音楽を器にして自分が如何に上手くプレイするかというやり方だったが、ジャズ・メッセンジャーズを卒業したあたりからは自分で
音楽全体の建付けを考えるようになっている。 それはショーターからの影響かもしれないけど、この人には案外そういう才能があったんじゃないかと思う。
トランペッターとしての腕前ばかりが語られて、彼のそういうもう1つ別の才能について語られることがないのは何とも残念だ。
短い生涯だったとはいえ、幸いなことにブルーノートに後期の作品が集中しているのだから、もっとたくさん聴かれるといいと思う。 このレコードも音質は
極めて良好で、音楽をじっくりと愉しむことができる。 ステレオプレスなら安く手に入る。 このあたりになると、モノラルよりステレオの方が音場感は
ずっと自然でいいはず。