廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

新しい扉を開けたのに

2018年01月14日 | Jazz LP (Blue Note)

Lee Morgan / Lee Morgan  ( 米 Blue Note BST 84901 )


ニューヨークのクラブ "Slugs" でヘレンに撃たれる半年前に録音された最後の公式アルバム。 モーガンが新しい扉を開けた瞬間が記録されている。
あの日の"Slugs" でもこういう音楽をやっていたのかもしれない。 その音はきっと悲劇の予感をはらんで響いていたことだろう。

フルート、サックス、トロンボーンを加えた重層的なサウンドがカッコいい。 特に、ビリー・ハーパーのテナーは最高の出来だ。 こんなカッコいいテナーには
なかなかお目にかかれない。 グラチャン・モンカーのトロンボーンもシブい音色で切れ味のいいフレーズを連発する。 とにかく、管楽器がカッコいい。

リズムセクションも複雑な要素を絡めた、それでいてストレートなビートで音楽をドライヴしまくる。 各リズム楽器が一糸乱れぬ一体感で進むので、
音楽の安定感は際立ち、全体ががっしりと堅牢な作りになっていく。 この纏まり感、一体感は何だろう、聴きながらそういう驚きに襲われる。

かつての小僧っ子としてのリー・モーガンはもういない。 ここにあるのは、成熟した音楽家としての姿。 トランペット1本だけでは相手にされない
難しい時代に訴求できる音楽を見事に創り出している。  ブルーノート1500番台のアーティストの中で最も優れた70年代の音楽をやったのは、マイルスを
除けば、間違いなくこの人だろう。 近年のジャズの中にも、これと似通ったサウンドやコンセプトは至る所で見ることができる。 彼は50年後にも通用する
音楽をやれていたのだと思う。 浮気なんかせず、音楽だけに専念していればよかったのだ。 どんな時代でも生き残ることができる才能があったのに。

映画 "私が殺したリー・モーガン" の中では、モーガン本人が音楽のことを語っているシーンは出てこない。 それ以外でも、彼が音楽のことをどう考えて
いたか、という発言の類いはほとんど残っていないようだ。 これは残念なことだけど、それならば一層残されたアルバムは重要になってくる。
我々にはそれらをこれからも聴いていくしかないのだろう。







コメント (2)
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