廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

追憶と言う名の音楽

2018年01月26日 | Jazz LP (Columbia)

Duke Ellington and his Orchestra / Blue Light  ( 米 Columbia CL 663 )


1934年9月から39年3月の間に録音された音源の中から、物憂げな雰囲気を持ったミディアム~スロー・テンポの曲だけを集めてLPとして切り直して1955年に
発売された。 1日が終わり、夕暮れで赤く染まった空が深い蒼い色へと変わっていく頃、人々が思い思いの場所で寛いで耳を傾けるために編集されたのだろう。
そして、この編集の仕方がエリントンの音楽のある際立った一面を浮き彫りにすることになる。

エリントンが作る曲もエリントン楽団が演奏するスタンダードも、そこには彼だけの、そして彼らだけの独特の強い匂いがある。 なぜこんなことが起こるのかは
よくわからないけれど、それは確かにそこにある。 そして、それはこういうゆったりとした楽曲により強く立ち込めているように思う。 更にはそれが
30年代という早い時期に既に香っていたということにただただ驚いてしまうのだ。 

1曲が3分に満たない楽曲たちの中で、最後に "Reminiscing in Tempo" というかなり長い曲が置かれている。 おそらくはSP数枚分の音源を上手く
繋ぎ合わせた(途中で継ぎ目の余白箇所がある)異例の大曲だが、ミディアムテンポのリズムに下支えされながら、上部のアンサンブル群が走馬灯のように
和声を移していく様子は、旧い記憶の風景や場面の断片が切れ目なく次から次へと目の前を流れて行くかのようで、聴いていて何だか切なくなってくる。
この "reminiscinng" という言葉こそ、エリントンの音楽の核心に触れるいくつかのヒントのうちの1つなのだという気がする。

1930年代の録音、と言われると聴くに堪えない音と想像する向きもあるかもしれないが、その心配は無用である。 もちろん音域の幅は狭いけれど、そんなことが
まったく気にならないくらいクリアでしっかりとした音質で音楽が再生されることに驚かされるレコードだ。 ここでのバーニー・ビガードのクラリネットの
神々しいほどの音色と響きに鳥肌が立たない者がいるだろうか。 元々の録音が相当良かったのだろうけど、LP化に際してのコロンビアのエンジニアたちの
努力の跡も伺える。 敬意と愛情が無ければ、こんな仕事はできなかったに違いない。


コメント
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