廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

2017年のベスト作品ということなので(2)

2018年01月07日 | Jazz CD

Matt Mitchell / Forage  ( 米 Screwgun Records none )


2017年のベスト作品と推奨されたものの中で気に入ったもう1枚が、マット・ミッチェル。 師であるティム・バーンの曲をピアノ・ソロで演奏している。

マット・ミッチェルという名前は知っていたが、実際にちゃんと聴くのはこれが初めてであり、ティム・バーンに至っては聴いたことすらない。 だから、この作品の
意義や音楽的解析みたいなものは私には当然できない。 背景もわからないし、現在のニューヨークで行われている前衛音楽の状況についても何一つ知らない。
そういう状態であるにもかかわらずとても気に入って、この1週間ほどは家の中でこれが鳴りっぱなしなのだから、これは人の心にきちんと届く音楽なのだ、
ということである。 

ピアノ・ソロによるフリー・インプロという意味での衝撃みたいなものはここにはない。 少なくとも、セシル・テイラーの音楽に親しむ耳には、比較する意味は
ないとわかっていながらも、ピアニズムの観点では「かなり生ぬるい」という感想は自然と出てくる。 ただ、それはピアニストとしての力量の問題では
おそらくなく、やろうとしている音楽の種類が違うからだと説明する冷静さは必要だろう。 

この音楽から感じられる一番の印象は「知的な抒情感」であるが、これが作曲者であるティム・バーンの音楽の持つ特質からくるのか、演奏者であるミッチェルの
表現力によるものなのかはよくわからない。 読み齧りの知識によると、ティム・バーンはニューヨーク前衛音楽の重鎮と言われる人物であり、そういう人が
作り出す音楽にこういう抒情感が溢れているのだとしたら、その音楽は聴いてみなければなるまいと思う。

これを聴いていわゆる「フリー・ジャズ」だと感じる人はまずいないだろう。 また、ドビュッシー、ラヴェル、バルトークの名前を持ち出すのも不適切で、
そういう類いの音楽でもない。 私が類似例として最初に想起したのは、ブラッド・メルドーのソロ・ピアノ集なんかのほうだった。 

ゴリゴリの前衛ファンからは見れば想定外の抒情味溢れる小品ということかもしれないし、予備知識のない私のようなレベルから見れば凛とした透明感に
溢れた美しい作品、という感想になるかもしれない。 いずれにしても、何も警戒することなく聴けば、その美しさに心奪われることは間違いない。
2017年のベストに推されて当然の内容だと思う。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする