Miles Davis / Seven Steps To Heaven ( 米 Columbia CL 2051 )
バンドを再構築するための過渡期の録音でアルバムに作品としての統一性がないため、このアルバムもたいていはスルーされる。 でも、私の認識は違う。
これは非常に重要なアルバムで、且つ愛聴してやまない名演が詰まった傑作。 私自身は "王子様" なんかよりはこのアルバムのほうが遥かに好きだ。
まずは何と言っても、ヴィクター・フェルドマンとフランク・バトラーが加わった3曲の凄さ。 ある意味、マイルスが元々想い描いていたスタンダード演奏の
究極のイメージに最も近づいた瞬間がこの時だったのではないかと思える、透明度が高くキリッと冷たい空気感の中で浮遊する超・モダンな世界。
フェルドマンのバッキングのセンスは凄くて、それまでのガーランドやケリーらとは明らかに一線を画す異次元の感覚。 既定のコードを踏み外して無重力になる
瞬間が何度も出てくる。 この感覚は次のハービーに上手く引き継がれており、この西海岸のセッションは後の方向性に一定の布石を打った重要な瞬間だった。
もう1つは、次の第二期クインテットの重要なレパートリーとなる表題曲や "Joshua" がここで定義されていること。 スタジオ録音なので短い演奏ではあるが、
ジョージ・コールマンがショーターに負けない貫禄の素晴らしい演奏をしている。 そしてこの2曲はフェルドマンが作曲している、というのがミソである。
ヴィクター・フェルドマンの残した功績は大きかったと思う。
マイルスはフェルドマンをバンドに入れたかったが、ハリウッドのスタジオミュージシャンとして大金を稼いでいた彼はその席を望まなかった。
富と名声、両方手にできれば一番いいが、どちらか一方を選ばなければいけない時もある。 彼は前者を選び、マイルスは新しいピアニストを探した。
その重要な瞬間がこのアルバムには記録されている。