廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ジャズ・ギターのお手本

2017年12月10日 | Jazz LP

Joe Beck, Red Mitchell / Empathy  ( 米 Gryphon G-2 911 )


ジャズ・ギターを愛する人なら、このアルバムは堪らないはずだ。 ジャズ・ギターのお手本のような演奏がぎっしりと詰まっていて、ベースとのデュオなので
ギターの音がメインとなっているし、小さなジャズ・クラブでのライヴなので親密な雰囲気が心地いい。 とても音のいいレコードだし、全編スタンダードで
わかりやすい。 2人とも演奏が上手くて隙が無く、一体感も見事だ。 ジャズ・ギター・アルバムとしては満点の出来だろう。

ジョー・ベックという人はマイルスが最初に採用したギタリストという肩書になっているけど、実際はマイスルが一本釣りした訳ではなく、レコーデイングに
師であるギル・エヴァンスを呼んだ際に彼のオーケストラのメンバーもレコーディングに参加して、その中にベックがいたということに過ぎない。 
当時マイルスが夢中になっていたのはジミ・ヘンドリックスであり、ジョン・マクラフリンであったわけで、ジョー・ベックは残念ながら足元にも及ばない。 
と言うか、タイプが全然違う。

それでもこのライヴのベックは弾きまくっている。 グリッサンドを多用してなめらかなフレージングで音楽を構成していて、柔軟性豊かな楽曲に仕上がっている。
ミストーンも少なく、弦の音がとにかくきれいだ。 コードとシングルノートのバランスもよく、演奏としては理想的な内容だと思う。 上手くなければできない
ことだけど、上手さを感じさせずに観客に聴かせるための演奏に徹しているのが何よりも素晴らしい。 レッド・ミッチェルもここではもの静かな相棒として
寡黙で穏やかなサポートをしている。

肩に力の入ったスタジオ録音ではなく、日常的に行っている街のクラブでの演奏のひとコマを切り取ったようなアルバムで、こんな素晴らしい演奏がいつでも聴けた
アメリカという国が羨ましい。 やはり、ジャズはアメリカの音楽なんだなあと思う。 スタンダードの名曲がずらりと並ぶ中で、ベックのオリジナル作品である
"Juanabara" がひと際素晴らしい楽曲だった。 


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