Donald Byrd / Stepping Into Tomorrow ( 米 Blue Note BN-LA368-G )
先の "Places And Spaces" の半年ほど前に録音された姉妹作だが、こちらはゲイリー・バーツのサックスが前面で目立つように配置されていたり、
デヴィッド・T・ウォーカーのイカしたギターが入っていたり、ストリングス・アレンジよりもシンセサイザー処理が目立つなど、演奏の構成が
異なっている。そのためバンド感が感じられ、サウンドもずっとシンプルだ。
それにしても何だろうなあ、このなめらかさは。白人ミュージシャンが歯ぎしりして悔しがる究極の楽園的サウンド。目を閉じて聴いていると
別世界に連れて行かれて、その心地よさが罪悪感さえももたらす。そういうところに本能的に警戒心を抱く人もいるかもしれない。
表面的にはそれまでのハード・バップとは完全に別物の音楽だが、ただ、よく聴くとこの音楽もかつてのジャズがあったからこそ出来上がった
音楽なのだということに気が付く。ヴォーカルがコーラスとしてコラージュされてはいるけれど、本質的には楽器のみの演奏で音楽が構成され、
各楽器がそれぞれの立場でアドリブとして歌うことで音楽が成立しているというのは、ジャズそのものである。そして、それはドナルド・バードの
トランペットが真ん中にいるからこそ成り立っている。
やっぱり、T・ウォーカーはカッコいい。新時代のフレディ・グリーン / ジム・ホール、という感じである。こういう脇役の枠には収まり切れない
ギタリストがいると、音楽は格段に面白くなるのだ。