Joe Heendweson / Tetragon ( 米 Milestone MSP 9017 )
レコーディング・キャリア上のピーク期だった頃の録音で、これを最高傑作と言う人が最も多い。 確かに、他のサルバムにはないある種非常に独特な
艶めかしく妖しい雰囲気が漂う。
このアルバムのそういうムードを作っているのがドン・フリードマンのピアノで、まるでビル・エヴァンスが弾いているような感じなのだ。 彼のリーダー作を
聴いている時は世間が言うほどエヴァンスを感じることはないけれど、ここでのフリードマンはそのフレーズといい、翳りのある表情といい、エヴァンス
そっくりで驚いてしまう。 このアルバムはフリードマン、ディ・ジョネットのセッションとケニー・バロン、ルイス・ヘイズのセッションの2種類が収録されて
いるけれど、この2つは雰囲気がまるで違う。 バロンとの曲は明るい陽が差し込む部屋、フリードマンとの曲は暗く翳りの降りた奥の間。
ディ・ジョネットのドラムもとても良くて、シンバル・ワークはトニー・ウィリアムスのようだし、リズムの作り方も凄まじい。 ロン・カーターは・・・・、
特になし。 まあ、いつも感じだ。 いずれにしても、そういうバックの演奏の素晴らしさに支えられて、このアルバムの名声は成り立っている。
ヘンダーソンのテナー自体はこのアルバムだけが突出して出来がいいということはない。 この前後のアルバムでも素晴らしいプレイはしていて、そういう
意味では完成されたスタイルを長く維持している状態にあったと思う。 この人とショーターはよく似たフレーズと吹き方をしていて、それまでのテナーの
巨人の影響下から最初に抜け出した一群の1人だけど、ショーターはキャリアの浅い時期の録音がたくさん残っているので進化の軌跡が判りやすいのに
比べて、ヘンダーソンはいきなりブルーノートに現れてリーダー作を連発し出したから、怪物としての印象が強く、そういう印象評価が先行している。
でも、この頃の彼のテナーはフレーズのラインは独特だけれど音程の幅が狭いし、音の強弱や色彩は一定なので、他のテナー奏者の演奏と比べると
派手さに欠ける印象が少しある。 偶にテキサス・テナーのような一本調子になる場面もあったりして(つまり長い小節の途中だと息切れする時がある)、
スタイルは完成しているけれど演奏力はまだ頂点を目指した登り坂にいたんじゃないだろうか。
それでも演奏レベルは並外れていて、A面最後の "The Bead Game" の4人の凄まじさは他を寄せ付けない。 これを聴くと、コルトレーン・カルテット
の演奏なんて生ぬるく思える。 フリードマンもディ・ジョネットもまるでいつもとは別人のような圧巻の演奏を聴かせる。