James Moody / The Blues And Other Colors ( 米 Milestone MSP 9023 )
前作の "The Brass Figures" と同じコンセプト、ラージ・アンサンブルでトム・マッキントッシュのアレンジで臨んだ続編とも言うべき内容で、
ここではムーディーはソプラノとフルートを吹いている。2つのセッションが収められているがメンバーは豪華で、ジョニー・コールズ、
ジョー・ファレル、セシル・ペイン、ケニー・バロン、ロン・カーターと名うての顔ぶれが揃っている。
前作の2年後の録音で、雰囲気は少し変わっている。スタンダードが多かった前作に比べて、今回はムーディーのオリジナル楽曲がメインで
音楽はより独創的でユニーク。都会的なブルース調を軸に、よりカラフルな展開を見せる。69年のセッションはホルン、ヴィオラ、チェロ、
スキャットヴォイスも交えた凝った構成で、新しい試みを披露している。
"サウンドスケープ" 、つまり音楽はメロディーやアドリブを主眼とするのではなく、音による風景描写を目指すことがそのコンセプトとなるように
大きく変化していて、より視覚的というか、人に心象風景の映像を喚起させるような方向に舵を切っている。クラシックやジャズのような
インストを基調とする音楽は時間の経過の中で様式が発展して成熟していくとこういう風に抽象化していく。この変化は60年代後半になるとあちら
こちらで見られるようになって、例えばリーヴァーサイド後期にミルト・ジャクソンやブルー・ミッチェルもこういうアルバムを作っている。
音楽の動向や大きな流れに敏感だった演奏家は、そういう兆候のようなものをいち早く察知できたのだろう。
このアルバムはオリン・キープニューズがプロデュースに一役かっているが、彼もそういうところに敏感だったし、元々の音楽嗜好がシブいので
彼が絡んだ作品はどれもシックな仕上がりだったが、同じくその兆候を敏感にキャッチしてより大衆的にアピールしたのが先日亡くなった
クリード・テイラーだった。彼の場合はキープニューズとは対照的なアプローチと仕上げ方だったので、その俗っぽさが批判される傾向もあるが、
いずれにしても60年代のジャズの中にそういう音楽が現れてきたというのは興味深いことだったと思う。
ムーディーもおそらくはそういうサウンドスケープを表現するためにテナーではなくソプラノとフルートを吹き、アンサンブルの楽器構成を
考えたのだろう。地味で誰からも相手にされないこういうアルバムにも熟考の上設計された意図があるのだから、それをきちんと汲み取って
聴いてこそ、である。