Bill Evans / The Village Vanguard Sessions ( 米 Milestone MSP-47002 )
ビル・エヴァンスを愛する人は、大抵の場合、いろんなヴァージョンの音源を聴く。もっと聴きたい、という気持ちがそうさせるわけだ。
これは自然な感情だと思うし、私にもその気持ちは痛いほどよくわかる。だから、同様に版違いをあれこれ買い込んでは聴いている。
同一タイトルのLP、CDを問わず片っ端から揃えては聴き比べを楽しんでいる人も大勢いて、その愛の深さにはとても及ばないけれど、
それでも聴き比べするのは楽しいものだ。
それは何も聴く側だけの気持ちではなくレコードを作る側も同じだったようで、エヴァンスを生み出した張本人であるキープニューズ自身も
一度手放したリヴァーサイド音源の版権を買い戻して、73年に自ら再編集し、ファンタジー社のエンジニアにリマスタリングさせて
再発している。その際に、当時は未発表だった曲も取り込んだ。これが、その後の再発戦争に火をつける導火線になったのかもしれない。
このマイルストーン盤は何と言ってもキープニューズ自身の手で作られたものだから、無数に存在する再発盤たちのオリジナル盤と言って
いい存在で、これがある意味では鏡になるのだろう。
リヴァーサイドのオリジナル・ステレオ盤は各楽器が明確に左右のチャンネルに振り分けられているので、いわゆる「中抜け」の印象があり、
そこが欠点の1つだった。このアルバムはそこに手が入れられていていて、楽器がもう少し中央に寄った感じになっている。
そのおかげで音楽の焦点が定まり、ステレオ・オリジナルより音楽が自然な雰囲気に仕上がっている。このマイルストーン盤は音がいい、
と感じる人が多いのは、おそらくはそれが影響している要因の1つではないかと思う。聴いていて、あまりに自然な音場感なのだ。
それに、ステレオ・オリジナルよりも音圧が高い。
もう1つの聴き所は、オリジナルには収録されなかった "Porgy" が聴けるところ。おそらく "My Man's Gone Now" と曲想が重なるので、
スペースの問題もあることから、どちらかを落とそうという判断になったのだろうと思う。ドラッグ禍にあったエヴァンスの暗い内面が
映し出されたような演奏で、ある種の凄みを感じる。
このマイルストーン盤はあまり欠点らしい欠点が見当たらない、優秀なヴァージョンと言えるのではないだろうか。何より音楽が音楽らしく
鳴っていて、この至高の演奏を心行くまで楽しめるというところが素晴らしい。これを聴いていて感じるのは、これだけ聴き比べをしても
音楽の価値が擦り減ることはなく、永久的な耐性があることが凄いということだ。幸せな音楽だなと思う。
WaltzとSundayが格安で買えるから、という当時の学生の財布の理由。
最近の聴き比べ的な聴き方のなかでは、対象外でした。考えると、OJCの前哨戦的アルバムですよね。
ブログを拝見し、にやっとしました。
注意深く聴いていくとそれぞれに個性があり、面白いですね。これも結構面白いですよ。
もちろん、今でも十分安レコです。