Stan Getz / In Stockholm ( 米 Verve MG V-8213 )
ベンクト・ハルベルグのスタン・ゲッツとの2度目の録音は1955年の年末に行われている。 12月のストックホルムの街はきっと雪深かったことだろう。
このアルバムにはどこかそう思わせる空気感が漂っている。 古いレコードを好んで聴く理由の1つは、再生すると当時の空気が音と一緒に解き放たれて
こうして部屋に満たされるからだ。 それはただの錯覚かもしれないけれど、それでもそう感じるこの感覚からは逃れられない。 溝を針でこする時に
付着していた空気の粒子が削れて飛び散っているんじゃないか、という妄想を抱いてしまう。
このアルバムは冒頭の "Indiana" が圧巻の名演で、これはゲッツの最高傑作なんじゃないかという期待に胸が躍るけれど、2曲目以降を聴いていくうちに
大きく膨らんだ期待は徐々に萎んでいく。 その理由はバックの演奏の意外なほどの単調さにある。
ガンナー・ジョンソンのブラシは終始カサカサと鳴っていてとてもいいけれど、ハルベルグのピアノがどういう理由か一本調子で冴えない。
フレーズが平凡でいつもの想像力が見られないし、打鍵も強弱のコントラストに欠ける。 運指はスムーズだけれど、ピアノがどうも心に残らない。
これが原因で、音楽に精彩が無く非常に単調になってしまっているのだ。 ゲッツ自身はいつも通り快調に淀みなく吹いているけれど、バックの単調さに
引きずられて後半は切れが甘いところも出始める。 私がハルベルグをこれまであまり熱心に聴いてこなかったは、このアルバムのそういうところが
昔から引っかかっていたせいだ。
それでも、このレコードは残響豊かで当時のストックホルムの空気を丸ごと録ったような大きな音場感が素晴らしく、そういう部分では満足度は高い。
ゲッツの北欧録音の他のディスクは音質があまり芳しくないので、これはその意味では北欧物の筆頭のアルバムになるだろう。