Thelonious Monk / Misterioso ( Riverside RLP 12-279 )
ニューヨークのクーパー・スクエア五番地にあったファイヴ・スポット・カフェはとにかく狭い店だったようで、ドルフィーのレコードジャケットを見れば
それがわかるし、このレコードの観客のざわめき声の大きさからもその様子が手に取るようにわかります。 ステージに立つ演奏者の目と鼻の先に観客席の
最前列があるような感じです。
セロニアス・モンクの演奏活動のピークの1つがこの店に長期出演した時だったことは間違いなくて、1度目は57年7~12月にコルトレーンを加えたカルテット、
2度目は58年6~8月にグリフィンを加えたカルテットで、このレコードはその2度目の出演の際の演奏を収めたものです。
”セロニアス・モンクのいた風景”を読むと、当時のファイヴ・スポット・カフェが最先端の文化人たちの溜まり場になっていて、数多くの一流ジャズ
ミュージシャンたちの演奏を聴いていた熱い様子が描かれていますが、ジャズというのは本来そういう音楽だったわけです。
そこに描かれている雰囲気そのままがこのレコードには収録されています。 その時、カフェの中で起きていた事の一部始終が丸ごと、です。
そして、その中心にセロニアス・モンク・カルテットがいて、楽しそうに演奏している。 グリフィンのサックスが全面繰り広げられて、と言われることが
多いのですが、私にはそういう印象はあまりなくて、やはりモンクのあまりにモンクらしいピアノのフレーズの印象のほうがはるかに強く、目一杯モンクを
聴いたなあという深い満足感に浸れます。 グリフィンはとてもなめらかで上質な演奏をしており、この人を見直すいいきっかけになるのではないでしょうか。
”飾りのついた四輪馬車”のフレーズを挟んでみたり、とこの人がロリンズの影響を色濃く受けていることがよくわかります。
とにかく全体的な雰囲気がとても良くて抜群に素晴らしい、一生モノになるレコードです。 なぜかはかわりませんが、どの演奏にも穏やかな優しさが
溢れており、聴いていると胸にグッと来るものがあります。 PC画像ではその魅力があまり伝わりませんが、実際に初版の発色のいいジャケットで見ると、
デ・キリコの絵の雰囲気にも圧倒されます。 これぞ、ジャズです。