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Miles Davis / At Plugged Nickel, Chicago Vol.1 ( 日 CBS/SONY 25AP 1 )
1965年4月、マイルスは長年の持病である股関節の炎症が悪化して、向う脛から削り取った骨を移植する手術を行った。 でもその手術は失敗で、同年8月に
再度入院してプラスティックの人口関節に取り換える大手術を行った。 そのためバンドは活動を停止せざるを得ず、その間に若いメンバー達は普段は
できないソロ活動を始める。 ハービーは "処女航海"を、トニーは "スプリング"を、ショーターは "The All seeing Eye"他2枚を、それぞれブルーノートに
録音した。 本業の合間の余技とは思えない、すごいラインナップだ。 当時のブルーノートのレコーディングの報酬は500ドル+αだったそうだ。
マイルスが現場に復帰したのは11月のヴィレッジ・ヴァンガード(フィラデルフィアの "ショウボート・ラウンジ" という説もある)で、その翌月にシカゴの
"プラグド・ニッケル"で公演を行った。
当時のアメリカはフリージャズの動きが本格化していて、若いメンバーたちは普段からそれが気になって仕方なかった。 マイルスの入院を絶好の機会
としてブルーノートに自分たちが考える "新しいジャズ" を録音することでカタルシスを得ていたが、マイルスが復帰してバンドが再始動するとすぐに
ライヴでお馴染みの曲を演奏することに退屈さを感じ始めた。 そこで、ボスのいない時を見計らってやんちゃなトニーが "プラグド・ニッケル" に行ったら
"反音楽"(予測ができない音楽)をやらないか?と言い出した。 こうして、伝説の "プラグド・ニッケル" 公演は始まったのだ。
そういう背景もあってか、この演奏はマイルスが最もフリーに近寄ったものという向きもあるそうだが、私にはまったくそうは思えない。 取り上げられた
素材はスタンダードで、きちんとテーマ部があり、全部は鳴らされていなくてもコード進行は明確に存在し、どこを取ってもマイルスの考えるジャズだ。
日頃からマイルスが言ってきた「音数が多過ぎる、弾かないことを覚えろ」という指示を極限まで推し進めた姿がここにはある。 ハービーのピアノは
極端に音数が少なく、トニーのドラムはリズムキープを最初から放棄していて、ショーターのテナーは和音を逸脱していて、若手の悪だくみは一見成功
しているように見えるけれど、実のところは結局マイルスの目指す音楽になっている。 マイルスはこの公演での演奏をとても楽しんだそうだが、彼は
内心こう思っていたんじゃないだろうか、"すべては余の思うがままに進んでおる・・・"。 4人はマイルスの手の上で転がされていたのだ。
シカゴに着いて会場に行くと、何とテオ・マセロがステージの上でレコーディングのセッティングをしていて、トニーたちは「ヤバイ・・・」と焦ったそうだ。
この公演が終わって、4人はさすがにやり過ぎたと思ったそうで、コロンビアが発売を見送ったという話を聞いてホッとした。 でも、その後しばらく
時間を置いて日本でこのアルバムが最初に発売され、次にアメリカでも発売されると、当時思っていたよりもずっといい内容だと気が付いた。
私はこの演奏が最高に好きだ。 マイルスのライヴアルバムの中では、"Miles In Berlin" と並んで最もよく聴く。 本当はコンプリートBOXが欲しい
んだけれど、値段の高さにいつも買うのを躊躇してしまって、未だに入手できていない。 だから、普段はこの2枚の国内盤レコードで聴いている。
もちろん、これが正真正銘のオリジナル盤だ。 元がコロンビアの正規録音だから、音質も抜群に良い。
これは、フリージャズが投げかけた問いに対する、マイルスの正式な回答だったんだと思う。 別に音楽を壊さなくても、力のある若い才能を自由に
泳がせることで、主流のジャズだってここまでできるんだぞ、ということをマイルスは言いたかったんだと思う。
これは、フリージャズから最も遠い所にある音楽だ。
ジャズを死滅させないために、あまり時間を置かずに彼は次の大きな1手を打ち始めるが、そこに行く手前の最後のアコースティック・ジャズの最良の姿が
ここにある。 聴かずに死ねるか、という言葉はまさにこのレコードにこそ相応しい。
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Miles Davis / At Plugged Nickel Vol.2 ( 日 CBS/SONY 25AP 291 )