廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

スティーヴ・レイシーの存在感

2019年09月15日 | Jazz LP (ABC-Paramount)

Tom Stewart / Sextte / Quintette  ( 米 ABC-Paramount ABC-117 )


アメリカのテレビ放送局であるABCのレコード部門として1955年にスタートしたこのレーベルは後に Impulse! を設立したりして実はアメリカの
ジャズには深いゆかりのあるレーベルだが、ことレコードマニアには魅力のないレーベルらしく、レコードは総じて安レコである。 まあ、何となく
ABCが余技の一環でレコード部門を作っちゃいました的な運営だったし、カタログ内容も穏やかで中産階級向けということもあり、しかたないのかも
しれない。 ただそういう肩の力が抜けた欲の無さから、他のレーベルではあまり見られない種類のタイトルが並んでいたりする。

テナー・ホルンという珍しい楽器を扱うトム・スチュワートも唯一のリーダー作をここに残していて、これがとても趣味の良い内容で素晴らしい。
収録されている楽曲からもわかる通り、古き良き時代のノスタルジックな雰囲気に満ちた音楽だが、ちょっと驚くのがスティーヴ・レイシーが
普通の演奏をしていることで、これがすごくいい。 楽器の構成上サックスの音が大きく聴こえて目立つが、濁りの無いきれいな音色で穏やかに
フレーズを紡いでいて、演奏の核になっている。 この楽器がなければ地味な音楽のままで終わってしまっていただろうけど、レイシーの演奏が
入ることでキリッと締まり、モダン寄りの垢抜けたスマートさを纏うことができた。 楽器一つで音楽がこうも変わるのかと驚いてしまう。

スチュワートのテナー・ホルンはまるでトロンボーンのような音色で軽やかでなめらかなフレーズが心地よい。 どの楽器もそうだが、自己主張をせず
全員で気持ちを合わせるかのように演奏をしている匙加減が絶妙だ。 強く印象に残るというようなタイプの音楽ではないけれど、聴くたびにすごく
いい音楽だなと感銘を覚える。 チェット・ベイカーが歌った "Let's Get Lost" が入っているのがうれしい。

アメリカという広大な国のどこかでいつも誰かが演奏しているであろう音楽で、何もマイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンだけがジャズを
作っていった訳ではないのだということが実感できる。 ジャズは裾野の広い音楽で、レコードも無数にある。 そのすべてを聴くことは叶わない
けれど、できる範囲で名も無きアルバムを1つずつ聴いていくのは愉しい。


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