Stan Getz / The Stan Getz Quartet In Paris ( 仏 Verve 711 109 )
ボサ・ノヴァに一区切りつけて、次にゲッツが取り組んだのがゲイリー・バートンとのピアノレス・カルテットだった。 カフェ・オー・ゴー・ゴーでのライヴ録音
(ということになっている)での共演がきっかけだったのだろうけど、当時のバートンはまだ無名のミュージシャンだった。 大スターだったゲッツが無名の
バートンが書いた曲を積極的に取り上げてこのグループで演奏している。 バートンのヴィブラフォンはそれまでのこの楽器奏者たちとは感覚が全く違うので、
ゲッツはそこに目を付けたんだろう。 こういうタレントスカウトの才能はマイルスとよく似ていると思う。
全体的にヴィブラフォンの幻想的なサウンドカラーが上手く効いている。 アストラット・ジルベルトの声質やこのバートンの透き通ったシリンダーなど、
この時期のゲッツはこういう他のジャズでは決して見られない独特のサウンドカラーに敏感にこだわっていたようだ。 それはロック・ミュージシャンが
シンセサイザーを積極的に取り入れて新しいサウンドを創ろうとした姿に重なる。 このあたりが一般のジャズ・ミュージシャンとは感性が違うところだ。
ただ、こだわったのはサウンドだけなく、演奏もこれまでのジャズをベースにしながらも新しい音楽を明らかに指向しており、決して難解にはならないけれど、
それまでのアメリカのジャズにはなかった独特の浮遊感を生み出している。 そして、それはサウンド・トリックによるものというよりは、少し抽象性を持ち込んだ
ことによるものなんだろう。 このあたりの匙加減は、今聴いても絶妙だと思う。 この音楽は次の "Sweet Rain" への布石となっているのは間違いない。
そういう意味では、このバンドでやった音楽はちょうどマイルスのジョージ・コールマンがいたころの音楽と似ていて、次の時代の新しい音楽への予備段階に
あったと言っていい。
冒頭の "When The World Was Young" からいきなり幻想の国に足を踏み入れたような感覚に襲われる。 とてもライヴ演奏とは思えない幕明けだ。
最後の "The Knight Rides Again" はフランスの観客にせっかくライヴを観に来たんだからとサービス精神で行ったアクロバティックなパフォーマンスに
なっていて、レコード鑑賞としてわざわざ聴く必要のない楽曲だけど、それでもフランスの観客が熱狂して喜んでいる様子がしっかりと記録されていて、
これはこれで微笑ましい。 そこに至るまではゲッツの内的な幻想の世界が延々と展開される内容で、私はこのアルバムがとても好きだ。
会場は大きなホールだったらしく、高い天井と大きな空間を想像させるホールトーンが丸ごと録音されていて、そういう雰囲気もとてもいい感じだと思う。
録音やプレスが欧州制作だったこともあり、音質の品質もとても良い。 このアルバムはアメリカでは発売されず、リリースは欧州諸国だけだった。
所有国内盤はカヴァ・ライナーノーツがフランス語で書かれていて、道理で米国ではリリースされていないワケですね。
あくまで私見ですが、本家が認めなかった理由はdsでは?と。でも、聴衆には受けているところが・・・・・(笑)。
「次へのステップの準備」、実に的を射たキャッチですね。
でも、ゲッツらはジャズを文物として憧れるフランス人のために、頑張ってこういう感じにしたんじゃないかな、と思います。
エヴァンス・トリオもライヴの締めはこんな感じの演奏をしていますから、これがアメリカジャズ界の常識だったのかもしれませんね。
と、ゲッツ好きなので、かばってフォローしてみます。
そうですか、米盤ないのですね。
”カフェ・オー・ゴー・ゴー”は持ってまして、ゲイリー・バートンの才能をここでなるほど見出したわけですね。
その抽象性よく分かるような気がします。いいですね。
"Sweet Rain" はもう大好きですから。
このバートンを入れたバンドのあたりから、音楽的な大きな飛躍が感じられますね。 ジャズをいい具合に上位に持ち上げたような。
ライヴなのに、こんなに音楽的な特徴を出せるというはすごいよな、と思いながらいつも聴きます。