Ben Webster / The Consummate Artistry Of Ben Webster ( 米 Norgran MGN 1001 )
エリントン楽団の最初のテナーサックス・スターはベン・ウェブスターだったが、彼のプレイは同世代の人たちと同様、バラードは絶品だけどアップテンポの
演奏は下品なブローで聴くに堪えないという評価が一般的で、まあそうだよな、と思う。 この世代のこの分野の人たちはみんなビッグ・バンドが主戦場
だったから、大勢の演奏の中で目立つにはそういう吹き方をせざるを得なかっただけで、やがてそれが自身のスタイルとして定着したということなんだろうけど、
レコードを聴く側からすればそんなの聴く気にはなれないよ、ということになる。
ただ、吹き方の話しだけではなく、彼らの演奏する音楽自体、どれも皆似たような古風なスタイルで退屈だという問題もある。 ビッグ・バンドでの生活は
毎日毎晩同じ曲を同じように演奏し続ける。 決められた枠からはみ出すのはNGで、定型を維持することが最重要ミッションになる。 そんな生活を長年
やっていると自身の音楽性は固定されて時代の流れからは完全に取り残されるし、音楽を発展させていくという発想そのものがなくなる。 だから、ソロで
仕事をやる際も、結局はビッグ・バンドでやっている音楽の縮小版みたいな音楽しかできなくなる。 安定した収入と生活の代償は大きかった。
エリントンはパーカーやマイルスにも自身のオーケストラに加わらないかと声をかけている。 でも、パーカーは法外なギャラを要求し(もちろんドラッグを
買うために)、マイルスはその頃心血を注いでいた "クールの誕生" に専念したい、ということでどちらも破談になっているけれど、2人の本音は毎晩毎晩
同じ演奏をし続けるような生活や生き方は自分にはとうてい出来っこない、というものだった。
ベン・ウェブスターがエリントン楽団にいた時期は比較的短く、1943年には退団してその後はフリーで活動したこともあり、残されたレコードにはそういう
ビッグ・バンド的停滞からは何とか逃れているものが多いように思う。 ノーグランに残したこの演奏も、アップテンポの曲でもブローは抑えてサブトーンを
効かせたマイルドなプレイでうまく乗り切っていて、捨て曲のないとてもいい仕上がりになっている。
そして、ここには "Danny Boy" の決定的名演が最後に置かれている。 まるで優しく歌われる子守歌を聴いているような演奏で、これは忘れ難い。
最後にこの演奏を聴くためだけに、私はこのレコードを頭からかける。 そして、早くダニー・ボーイが来ないかな、と想いながらその時を待つのだ。
ヴォーカルですが、ジャシンタの「トリビュート トゥ ベン 」も最高です。テナーのテディ エドワーズもなかなかいいですよ。
ジシャンタは以前CDを聴きましたが、音があまり良くなくて、音楽を愉しめませんでした。
確かレコードがあったような印象があります。 見かけたら、再度聴いてみますね。