廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

違和感の正体

2020年04月04日 | Jazz LP (Verve)

Bill Evans / Alone  ( 米 Verve V6-8792 )


正直に言うと、評価の難しいアルバムではないか。手放しで「これは素晴らしい!」とは言えない、何か引っかかるものがある。
それが何か、がよくわからない。

最初に気になるのは、左手のバッキングの単調さ。リズムセクションがいないので、曲のテンポを産み出すために左手にその役割を担わせているけど、
これが単調な添え物で終わっている。そのせいで、音楽に重層性が欠けている。この傾向は "Never Let Me Go" で顕著で、右手が優美なメロディーを
紡いでいる背景で、左手はポロン、ポロン、と気のない打鍵に終始している。そのせいで、音楽に生気がない。

A面は似たような曲想の楽曲を同じようなテンポで演奏するので曲の切れ目が曖昧で、A面全体で大きな一つの楽曲になっているような印象が残る。
トップの "Here's That Rainy Days" は素晴らしい演奏で、ここでは明確なハーモニーへの意志が感じられて、一番みずみずしい感じがある。
次の "A Time For Love" もジョニー・マンデルの美しいメロデイーをうまく処理していて、魅力ある楽曲として仕上げている。ところが "Midnight mood"
あたりから少し混濁し始め、最後の "On A Clear Day" では主旋律の間の取り方に苦戦している跡が見られる。これは選曲ミスだったかもしれない。

ビル・エヴァンスのソロ・ピアノ集、ということで聴く前から期待は最高ラインへ押し上げられるけれど、聴き終えた後に残る印象は想像したものとは
少し違う、という感覚だ。エヴァンスのことをよく知っていればいるほど、その違和感は大きいのではないか。

この時期にはそれまでのジャズやスタンダードの解釈を乗り越えようとしていた形跡があって、これは丁度その途中経過の時期だったように思える。
叙情的なアプローチは不変でも、音楽を自身の力で自らの下へと引き寄せて、彼の大きな手で塗り替えようとしていたような感じがある。
それはまだ道半ばで、完成されていない。私が感じる違和感は、敢えて言えば、そういうまだ「工事中」であることへの戸惑いかもしれない。
音楽家としての苦悩の軌跡が記録として残っているのは素晴らしいことだと思うし、そこを理解しながら聴いていくべきなんだと思う。

このレコーデイングはヴァン・ゲルダーではなく、 "Wht's New" と同様、レイ・ホールが担当している。おかげで、大きな不満なく音楽を聴くことが
できる。時代相応の音場感で高音質と言えるほどではないけれど、これがヴァン・ゲルダーだったらグラミーの受賞はなかったかもしれない。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 蘇ったエヴァンスのピアノ | トップ | 国内盤の底ヂカラ(その7) »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Jazz LP (Verve)」カテゴリの最新記事