報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「ボカロのストライキ」

2015-06-01 19:20:12 | アンドロイドマスターシリーズ
[6月3日14:48.天候:晴 JR東北新幹線“やまびこ”140号8号車内 平賀太一、エミリー、七海]

 上野駅新幹線ホームの地下深いトンネルを抜けると、再び車内には日差しが差し込んで来た。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、東京です。東海道新幹線は、14番線から19番線。東海道線は9番線、10番線。中央線、新宿、立川方面は1番線、2番線。京浜東北線、王子、赤羽方面は3番線。川崎、横浜方面は6番線。山手線内回り、秋葉原、池袋方面は4番線。外回り、品川、渋谷方面は5番線。総武線、横須賀線は総武地下ホーム。京葉線、舞浜、蘇我方面は京葉地下ホームに、それぞれお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

「東京に来るのも久しぶりだな」
 平賀は大きく伸びをして、そう呟いた。

〔「ご利用頂きまして、ありがとうございました。まもなく終点、東京、東京です。23番線到着、お出口は右側です。……」〕

 2体のメイドロボットとマルチタイプが荷棚から荷物を下ろしている。
「えーと……ここでは、プロデューサーの井辺さんが迎えに来てくれるらしいな」
「敷島社長は・官庁へ・出向かれて・いるようです」
 エミリーが応えた。
「政府からの質疑応答も大変だ。いつまでも、敷島さんに任せていられない。自分も、東京に滞在する限りは尽力しなきゃな」

 列車がホームに滑り込む。
 すぐ隣に東海道新幹線ホームがあるが、それと雰囲気が全く違うのは、“やまびこ”と“つばさ”の併結編成だからだろう。
 西へ向かう新幹線が頑なに固定編成にこだわり続けるのに対し、北へ向かう新幹線は平気で2台連結の列車を運行させている。
 先ほども、同じ行き先ながら、8両編成の2階建て新幹線が2台連結の16両編成で出て行ったばかりだ。

〔「ご乗車ありがとうございました。東京、東京、終点です。お忘れ物の無いよう、お降りください。23番線の電車は折り返し、15時ちょうど発の“やまびこ”143号、仙台行きと“つばさ”143号、山形行きとなります。……」〕

「お疲れさまです。平賀先生」
 井辺の姿はすぐに分かる。
 これといって特徴の無い風体が、却って特徴があるパターンだ。
「お迎え頂き、ありがとうございます」
 応える平賀。
 だがお互い、
(相変わらず、アンドロイドみたいな人だなぁ……)
 と、平賀は思い、井辺は、
(年老いたマッドサイエンティストの、若かりし頃といった感じだ。油断はできそうにない)
 と、思ったという。
「あいにくと社長は経済産業省の方へ、会議に出向かれております。私めが代理でお迎えに上がらせて頂きました」
「いいえ、とんでもない。却って恐縮です」
「まずは事務所へ、ご案内させて頂きます」
「よろしくお願いします」
「! ……あれ?」
 その時、七海が反応した。
「どうした、七海?」
「姉妹機から緊急連絡です」
「何だと!?」
「えーっと……六海からです」
「六海ってどこだ?」
「新宿の・元財団本部の・あったビルに・入居している・カフェです」
 平賀の質問に、エミリーが答えた。
「ああ、あそこですか。確か、結月さんのフィールドテストの際に立ち寄ったことがあります」
「で、そこがどうした?」
「カフェが占拠されたとのことです!」
「なにっ!?テロか!?」
「そ、それが……そのカフェを占拠しているのが……」

[同日15:30.東京都新宿区西新宿 元・財団本部のあったビル1Fカフェ Lily、鏡音リン・レン、六海、その他ボカロなど]

 カフェの入口が、山積みになった椅子やテーブルで塞がれてしまっている。
 その向こうにいるのは……。
「我々はーっ!……何だっけ?」
 拡声器を持ったレンが外に向かって何か言おうとしたが、レン自身は双子の姉に付き合わされているだけなので、肝心のセリフが思いつかない。
 すぐにリンがレンから拡声器を奪い取り、
「大人の仕事を要求するーっ!」
 と、叫んだ。
「勝手なこと言っちゃダメ!」
 Lilyがすぐに窘めた。
 ピケの外では、心配したボカロ仲間や、相変わらずビル自体の警備は任されたままの警備ロボットや、清掃などを任されているメイドロボットも遠巻きに見ている。
「リンちゃん!レン君!Lilyちゃん!もうやめよう!みんな困ってるよ!」
 そのうち、未夢が中のボカロ達に呼び掛けた。
「あのー、困るんですけど……」
 中にいる、巻き込まれたメイドロボット六海が困った顔でLilyに言った。
「注文は!?」
「えっ!?……えーっと、エンジンオイル250ccが1つ……」
「OK!」
 人間だけでなく、ロイドも訪れるカフェなのだ。
「はい」
 Lilyが代わりにオイルを入れて、六海の持つトレイの上に載せた。
「た、助かります……」
 六海はきょとんとした顔で、そのまま行ってしまった。
 その様子を外側で見ていた巡音ルカもポカンとして、
「いいんだ?」
 そしてMEIKOが、
「お前達は完全に包囲されている!無駄な抵抗はやめて、おとなしく投降しろーっ!」
「しないもーん!べーっ!」
 アッカンベーをするリン。
「霞ケ関の社長が泣くぞ!同行の“鬼軍曹”は怒るぞーっ!?」
「ええーっ!?……や、やっぱりボク、やめる……」
「ええーっ!?」
 元々が姉に付き合わされていただけのレン、シンディの名前こそ出てこなかったものの、その影がちらつき、早々のリタイヤ。
 しかし、すぐに気を取り直し、
「こうなったら、2人で頑張りましょう!」
「我々の正義の為に!」
 Lilyは拡声器を持って、
「私達のデビューを約束してください!童謡でも何でも歌いますから!」
 との言葉に、ざわつくボカロ達。
 で、リンは、
「ふえっ!?子供の……?じゃあ、リンも降りるよ〜」
「リンちゃんまで!?」
 するとその時だった。
「警告・する!直ちに・この・フザけたマネを・中止しないと・強制排除を・行う!」
「エミリー!?」
 エミリーが両目をハイビームに光らせ、左手を突き出していた。
 マルチタイプの左手は有線ロケットパンチと、そこから高圧電流を放出することができる。
「うわっ!出たーっ!鬼軍曹1号機!」
 右往左往する鏡音姉弟。
「やるならやりなさいよ!舌を噛み千切ってやるんだから!」
 Lilyも応酬した。
 舌を実際に出す。
「ええーっ!?」
 舌を噛み千切るという行為は、ロイドの自爆装置の起動を意味する。
「ちょ、ちょっとエミリーさん!」
 七海がエミリーの左手を掴む。
「『歌えないボーカロイドはただのガラクタ』、今の私はガラクタと同じ!財団が無くなって……劇場も無くなって……もう私、廃棄処分になるのかと思ってた……。だけど、敷島エージェンシーに拾われて……やっと歌えると思ったのに、ほとんどそういう仕事が無くて……。何で?何で歌えないの?もっと待ってくれ?どのくらい?もっと頑張れ?どのくらい?私、全然分かんない!歌うことが使命だって言われたのに、それをさせてもらえない!私もボーカロイドとしてもっと歌いたい!デビューしたい!!」
 そこへ、ようやく追いついた井辺が息せき切ってやってきた。
「も、申し訳ありません!Lilyさん!」
「! プロデューサー……!」
 Lilyは涙ながらに井辺をキッと見据えた。
「実はLilyさんを始め、結月さんと未夢さんには……今月中のCDデビューを考えています!」
「えっ!?」
 井辺の言葉に、未夢やゆかりも驚いた。
「それまで決定ではなかったので話せませんでしたが、つい先ほど、それが決定したので、今日中にお話しするつもりでした!」
「そ、そうなの?」
「はい」
 井辺の言葉を聞いたLilyは、
「な、何だ……早く言ってよ……」
 と、へたり込んだ。
「全くだよ」
 ルカも腕組みをして同調した。
 しかしリンだけは、
「リンは?リンのお仕事に関しては!?」
「企画検討中です」
「こうなったら、メーデー!メーデーだ……うぁあぁぁっ?!」
 リンが片手で首根っこを掴まれ、持ち上げられてしまった。
 無論そんな芸当ができるのは数少ない。
「鏡音リン。いい加減に・しないと、電気ショック・行くぞ?」
「ご、ごごご……ごめんなさい……!!」
 被害の無い屋外テラス席にいた六海は、
「若いっていいですねぇ……。って!いえ、六海も若いんですけどね!設定年齢にじゅうは……じゃなくて!製造年月日は2012年の……!」
 エンジンオイルを出した客は、R2-D2と芋掘りロボット・ゴンスケみたいなロボット。
 キュルキュルキュルとR2-D2が電子音で笑っていた。

[同日16:30.JR新宿駅・中央快速線ホーム 井辺、平賀、Lily、ゆかり、未夢、リン、レン、ルカ、MEIKO、エミリー、七海]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の8番線の電車は、16時35分発、快速、東京行きです。次は、四ツ谷に止まります〕

「先にホテルに荷物を置いてから、事務所にお邪魔しますよ」
「本当にお騒がせして、申し訳ありませんでした」
 井辺の謝罪にLilyも、
「ごめんなさい……」
 小さく謝った。
「まあ、ボーカロイドの感情レイヤーの作動具合が見れて、自分的には得でしたが」
 平賀はコホンと咳払いした。
 騒動の後、皆でカフェの片付けをし、関係各所へ一緒に謝罪して回った井辺達。
 幸いにも、やれ補償だ何だという騒ぎは無かった。
 ただ、さすがにツイッターの拡散は防ぎ切れなかったが。
「事務所では、マスコミがLilyさんにインタビューしたいとの申し出がきているようです」
「別の意味で目立ってしまいましたなぁ〜」
 リンはクスクスと笑った。
「お前も・共犯だ」
 ガシッとその肩を掴むエミリー。
「ご、ごめんなさい!」
「と、とにかく……。我々は、事務所に戻りましょう。それから、CDデビューについてのご説明を申し上げたいと思います」
 井辺はコホンと咳払いした。

 いずれにせよ、敷島エージェンシーの社史上、記録に残る出来事だったことに変わりは無かった。
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“新アンドロイドマスター” 「黄色いボカロの不満」

2015-06-01 14:19:49 | アンドロイドマスターシリーズ
[6月2日14:00.天候:晴 都内某所・写真スタジオ 結月ゆかり、Lily、未夢]

「はい!じゃあ、行きまーす!」
 衣装を着て撮影に及ぶのは、別の人間のアイドル。
 ゆかり達は着ぐるみを着て、モブキャラに扮するだけの役だった。
「休憩入りまーす!」
「メイクさん、入ります!」
 スタジオの脇に固まるボカロ達。
「はー……こんな仕事ばっかり……」
 Lilyは体育座りをしながら溜め息をついた。
「劇場時代の方が歌えてたよ……」
 すると未夢が、
「こういうお仕事も大事だよ。ハンターさん、かわいいね」
 ……何の撮影だろう。
「何だったら、プロデューサーさんに曲欲しいって言ってみましょうか?」
 と、ゆかり。
「ああ!それ、いいかもね!」
 未夢も乗り気だが、Lilyはまたもや溜め息。
「言ったところで、『検討中』とか言われるだけよ」
「じゃあ、どうするの?」
「……あっ、そうだ」

[同日15:00.敷島エージェンシー ボーカロイド・オールスターズ]

「ただいまぁ!」
 帰って来る初音ミク。
「あれ?今日は皆さん、お仕事ですか?」
 事務室に一海が1人だけいたので、ミクは首を傾げた。
「皆さん、奥で“会議”をやっていますよ」
 一海はクスクス笑いながら答えた。
「えっ?」
 ミクは首を傾げながら、奥の休憩室に行ってみた。
「みんなー、何してるのー?」
 ヒョイと顔を覗かせてみると、ルカが腕組みをして微笑を浮かべている。
「後輩のコ達がデビュー案を考えてるのよ」
「デビュー案?」
「最近のプロデューサー、あのコ達だけじゃなく、私達のマネージメントもやるようになったでしょ?それで、忙しいあの人に代わって、デビュー案を考えてるんだって」
「へえ……。わたし達には無かったよね、それ?」
「まあね」
「でも、面白そう。わたしもお手伝いしようかな!」
「ちょっとミク!」
 しかしミクは後輩達の上に顔を覗かせた。
「みんなー!どんなアイディアを考えたの?」
「ミク先輩!……私は、こんなのです!」
 ゆかりがスケッチブックに絵を書いた。
「……渋谷でゲリラライブ!?スゴいスゴーい!わたし、それやったことない!」
「いや、普通やんないって」
 ミクがはしゃぐのを見て、ルカが苦笑い。
「Lilyちゃんは?」
「私は劇場時代の初心に戻りつつ、やっぱり大きく武道館でライブなんかいいと思います」
「確か、前、MEIKOさんが通った道だね」
 ミクが頷いた時、ふとルカが気づいた。
「ってかアンタ、その時、MEIKOのバックダンサーやってなかった?」
「……まあ、そうなんですけどね」
「それからずっと劇場で?」
「……ええ!そうですけど、何か!?」
 Lilyは最初、下を向いていたが、半ば逆ギレした様子になった。
「り、Lilyさん!ルカ先輩に……」
 ゆかりがびっくりした。
「ご、ゴメン。ま、まあ、この事務所に入ったからには、何も心配は無いと思うけど……」
「そ、そうですよ!たかお社長もプロデューサーさんも動いてくれてますし!……未夢さんは、どういう感じですか?」
「私はディナーショーなんかいいと思います」
「ディナーショー?」
「たまにKAITOが行ったりしてるね。未夢なら元マルチタイプなんだし、楽器とかもできそうだね」
「そうそう!弾き語り、なんてできそうですよ」
「ありがとうございます」
 Lilyが難しい顔しながらミク達に行った。
「良かったら、先輩方も一緒に考えてもらえませんか?先輩方の一言も大きいと思います」
「え、ええっ?」
「うーん……私達が言ったところで、何も変わらないと思うけど……」
 ルカが首を傾げた。

[同日16:00.同場所 井辺翔太]

 ピンポーン♪
〔5階です。下へ参ります〕

 ケータイ片手にエレベーターを降りる井辺。
「……はい。それで、お迎えの方は……?はい、分かりました。では、明日の……。……はい。では、失礼致します」
 電話をしながら事務所に入る。
「お疲れさまです。……皆さんは、どちらへ?」
 一海が、
「あっ、プロデューサーさん。お待ちしてたんですよ、皆が」
「えっ?」
「奥へ行ってあげてください」
「は?はあ……」
 井辺は首を傾げながら、言われた通り、奥の休憩室へ向かった。
「皆さん、何をされて……」
「プロデューサーさん、お帰りなさい!皆で私達のデビュー案を考えたんです。是非、参考にしてください!」
「リンの今後のプロデュースについても考えたYo!」
 ゆかりとリンが駆け寄ってきた。
「!」
 拒否権は無さそうだったので、井辺は早速、スケッチブックに描かれたボカロ達の案を1つ1つ見てみた。
 リンの場合、やっぱり『大人の仕事』が描かれている。
「……えー、皆さん、ありがとうございます。一応、参考にさせて頂きます」
「おお〜!?」
「やったやった!」
「……が、恐らく、ほぼ通らないものと思ってください」
 井辺の言葉にガックリ肩を落とす新人ボーカロイド達(と、鏡音リン)だった。

[同日18:00.同場所 結月ゆかり、Lily、未夢、鏡音リン・レン]

「あーあ……。残念だったねぇ……」(ゆかり)
「この分だと、デビューはもう少し先みたいね」(未夢)
「じゃあ、リンの『大人の女性』の仕事はーっ!?」(リン)
「い、いや、リンはこのままでいいと思うけど……」(レン)
「むーっ!レンはリンの大人の魅力を見たくないの!?」(リン)
「い、いや、だからさ……。プロデューサーも言ってたように、リンにはリンならではの魅力があって……。あっ、うわっ!?」(レン)
 Lilyはレンの頭を取り外した。
「頭、返してください!」
 レンだけミュージカルに出演していた関係で、頭と胴体を切り離すことができる。
 ミュージカルで首をギロチンで刎ねられる役があったのだが、実際にそれができたのはボーカロイドだけだ。
「私は諦めない!こうなったら……!!」
 Lilyの叫びに、リンだけが(恐らく意味がよく分かっていないせいか)ノリノリだったという。
 Lilyは何を企んだのだろうか。
 監視盤にはLilyの所に、“注意”の表示が出たのだが、多忙な敷島と井辺は気が付かなかったという。
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