[6月3日14:48.天候:晴 JR東北新幹線“やまびこ”140号8号車内 平賀太一、エミリー、七海]
上野駅新幹線ホームの地下深いトンネルを抜けると、再び車内には日差しが差し込んで来た。
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、東京です。東海道新幹線は、14番線から19番線。東海道線は9番線、10番線。中央線、新宿、立川方面は1番線、2番線。京浜東北線、王子、赤羽方面は3番線。川崎、横浜方面は6番線。山手線内回り、秋葉原、池袋方面は4番線。外回り、品川、渋谷方面は5番線。総武線、横須賀線は総武地下ホーム。京葉線、舞浜、蘇我方面は京葉地下ホームに、それぞれお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
「東京に来るのも久しぶりだな」
平賀は大きく伸びをして、そう呟いた。
〔「ご利用頂きまして、ありがとうございました。まもなく終点、東京、東京です。23番線到着、お出口は右側です。……」〕
2体のメイドロボットとマルチタイプが荷棚から荷物を下ろしている。
「えーと……ここでは、プロデューサーの井辺さんが迎えに来てくれるらしいな」
「敷島社長は・官庁へ・出向かれて・いるようです」
エミリーが応えた。
「政府からの質疑応答も大変だ。いつまでも、敷島さんに任せていられない。自分も、東京に滞在する限りは尽力しなきゃな」
列車がホームに滑り込む。
すぐ隣に東海道新幹線ホームがあるが、それと雰囲気が全く違うのは、“やまびこ”と“つばさ”の併結編成だからだろう。
西へ向かう新幹線が頑なに固定編成にこだわり続けるのに対し、北へ向かう新幹線は平気で2台連結の列車を運行させている。
先ほども、同じ行き先ながら、8両編成の2階建て新幹線が2台連結の16両編成で出て行ったばかりだ。
〔「ご乗車ありがとうございました。東京、東京、終点です。お忘れ物の無いよう、お降りください。23番線の電車は折り返し、15時ちょうど発の“やまびこ”143号、仙台行きと“つばさ”143号、山形行きとなります。……」〕
「お疲れさまです。平賀先生」
井辺の姿はすぐに分かる。
これといって特徴の無い風体が、却って特徴があるパターンだ。
「お迎え頂き、ありがとうございます」
応える平賀。
だがお互い、
(相変わらず、アンドロイドみたいな人だなぁ……)
と、平賀は思い、井辺は、
(年老いたマッドサイエンティストの、若かりし頃といった感じだ。油断はできそうにない)
と、思ったという。
「あいにくと社長は経済産業省の方へ、会議に出向かれております。私めが代理でお迎えに上がらせて頂きました」
「いいえ、とんでもない。却って恐縮です」
「まずは事務所へ、ご案内させて頂きます」
「よろしくお願いします」
「! ……あれ?」
その時、七海が反応した。
「どうした、七海?」
「姉妹機から緊急連絡です」
「何だと!?」
「えーっと……六海からです」
「六海ってどこだ?」
「新宿の・元財団本部の・あったビルに・入居している・カフェです」
平賀の質問に、エミリーが答えた。
「ああ、あそこですか。確か、結月さんのフィールドテストの際に立ち寄ったことがあります」
「で、そこがどうした?」
「カフェが占拠されたとのことです!」
「なにっ!?テロか!?」
「そ、それが……そのカフェを占拠しているのが……」
[同日15:30.東京都新宿区西新宿 元・財団本部のあったビル1Fカフェ Lily、鏡音リン・レン、六海、その他ボカロなど]
カフェの入口が、山積みになった椅子やテーブルで塞がれてしまっている。
その向こうにいるのは……。
「我々はーっ!……何だっけ?」
拡声器を持ったレンが外に向かって何か言おうとしたが、レン自身は双子の姉に付き合わされているだけなので、肝心のセリフが思いつかない。
すぐにリンがレンから拡声器を奪い取り、
「大人の仕事を要求するーっ!」
と、叫んだ。
「勝手なこと言っちゃダメ!」
Lilyがすぐに窘めた。
ピケの外では、心配したボカロ仲間や、相変わらずビル自体の警備は任されたままの警備ロボットや、清掃などを任されているメイドロボットも遠巻きに見ている。
「リンちゃん!レン君!Lilyちゃん!もうやめよう!みんな困ってるよ!」
そのうち、未夢が中のボカロ達に呼び掛けた。
「あのー、困るんですけど……」
中にいる、巻き込まれたメイドロボット六海が困った顔でLilyに言った。
「注文は!?」
「えっ!?……えーっと、エンジンオイル250ccが1つ……」
「OK!」
人間だけでなく、ロイドも訪れるカフェなのだ。
「はい」
Lilyが代わりにオイルを入れて、六海の持つトレイの上に載せた。
「た、助かります……」
六海はきょとんとした顔で、そのまま行ってしまった。
その様子を外側で見ていた巡音ルカもポカンとして、
「いいんだ?」
そしてMEIKOが、
「お前達は完全に包囲されている!無駄な抵抗はやめて、おとなしく投降しろーっ!」
「しないもーん!べーっ!」
アッカンベーをするリン。
「霞ケ関の社長が泣くぞ!同行の“鬼軍曹”は怒るぞーっ!?」
「ええーっ!?……や、やっぱりボク、やめる……」
「ええーっ!?」
元々が姉に付き合わされていただけのレン、シンディの名前こそ出てこなかったものの、その影がちらつき、早々のリタイヤ。
しかし、すぐに気を取り直し、
「こうなったら、2人で頑張りましょう!」
「我々の正義の為に!」
Lilyは拡声器を持って、
「私達のデビューを約束してください!童謡でも何でも歌いますから!」
との言葉に、ざわつくボカロ達。
で、リンは、
「ふえっ!?子供の……?じゃあ、リンも降りるよ〜」
「リンちゃんまで!?」
するとその時だった。
「警告・する!直ちに・この・フザけたマネを・中止しないと・強制排除を・行う!」
「エミリー!?」
エミリーが両目をハイビームに光らせ、左手を突き出していた。
マルチタイプの左手は有線ロケットパンチと、そこから高圧電流を放出することができる。
「うわっ!出たーっ!鬼軍曹1号機!」
右往左往する鏡音姉弟。
「やるならやりなさいよ!舌を噛み千切ってやるんだから!」
Lilyも応酬した。
舌を実際に出す。
「ええーっ!?」
舌を噛み千切るという行為は、ロイドの自爆装置の起動を意味する。
「ちょ、ちょっとエミリーさん!」
七海がエミリーの左手を掴む。
「『歌えないボーカロイドはただのガラクタ』、今の私はガラクタと同じ!財団が無くなって……劇場も無くなって……もう私、廃棄処分になるのかと思ってた……。だけど、敷島エージェンシーに拾われて……やっと歌えると思ったのに、ほとんどそういう仕事が無くて……。何で?何で歌えないの?もっと待ってくれ?どのくらい?もっと頑張れ?どのくらい?私、全然分かんない!歌うことが使命だって言われたのに、それをさせてもらえない!私もボーカロイドとしてもっと歌いたい!デビューしたい!!」
そこへ、ようやく追いついた井辺が息せき切ってやってきた。
「も、申し訳ありません!Lilyさん!」
「! プロデューサー……!」
Lilyは涙ながらに井辺をキッと見据えた。
「実はLilyさんを始め、結月さんと未夢さんには……今月中のCDデビューを考えています!」
「えっ!?」
井辺の言葉に、未夢やゆかりも驚いた。
「それまで決定ではなかったので話せませんでしたが、つい先ほど、それが決定したので、今日中にお話しするつもりでした!」
「そ、そうなの?」
「はい」
井辺の言葉を聞いたLilyは、
「な、何だ……早く言ってよ……」
と、へたり込んだ。
「全くだよ」
ルカも腕組みをして同調した。
しかしリンだけは、
「リンは?リンのお仕事に関しては!?」
「企画検討中です」
「こうなったら、メーデー!メーデーだ……うぁあぁぁっ?!」
リンが片手で首根っこを掴まれ、持ち上げられてしまった。
無論そんな芸当ができるのは数少ない。
「鏡音リン。いい加減に・しないと、電気ショック・行くぞ?」
「ご、ごごご……ごめんなさい……!!」
被害の無い屋外テラス席にいた六海は、
「若いっていいですねぇ……。って!いえ、六海も若いんですけどね!設定年齢にじゅうは……じゃなくて!製造年月日は2012年の……!」
エンジンオイルを出した客は、R2-D2と芋掘りロボット・ゴンスケみたいなロボット。
キュルキュルキュルとR2-D2が電子音で笑っていた。
[同日16:30.JR新宿駅・中央快速線ホーム 井辺、平賀、Lily、ゆかり、未夢、リン、レン、ルカ、MEIKO、エミリー、七海]
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の8番線の電車は、16時35分発、快速、東京行きです。次は、四ツ谷に止まります〕
「先にホテルに荷物を置いてから、事務所にお邪魔しますよ」
「本当にお騒がせして、申し訳ありませんでした」
井辺の謝罪にLilyも、
「ごめんなさい……」
小さく謝った。
「まあ、ボーカロイドの感情レイヤーの作動具合が見れて、自分的には得でしたが」
平賀はコホンと咳払いした。
騒動の後、皆でカフェの片付けをし、関係各所へ一緒に謝罪して回った井辺達。
幸いにも、やれ補償だ何だという騒ぎは無かった。
ただ、さすがにツイッターの拡散は防ぎ切れなかったが。
「事務所では、マスコミがLilyさんにインタビューしたいとの申し出がきているようです」
「別の意味で目立ってしまいましたなぁ〜」
リンはクスクスと笑った。
「お前も・共犯だ」
ガシッとその肩を掴むエミリー。
「ご、ごめんなさい!」
「と、とにかく……。我々は、事務所に戻りましょう。それから、CDデビューについてのご説明を申し上げたいと思います」
井辺はコホンと咳払いした。
いずれにせよ、敷島エージェンシーの社史上、記録に残る出来事だったことに変わりは無かった。
上野駅新幹線ホームの地下深いトンネルを抜けると、再び車内には日差しが差し込んで来た。
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、東京です。東海道新幹線は、14番線から19番線。東海道線は9番線、10番線。中央線、新宿、立川方面は1番線、2番線。京浜東北線、王子、赤羽方面は3番線。川崎、横浜方面は6番線。山手線内回り、秋葉原、池袋方面は4番線。外回り、品川、渋谷方面は5番線。総武線、横須賀線は総武地下ホーム。京葉線、舞浜、蘇我方面は京葉地下ホームに、それぞれお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
「東京に来るのも久しぶりだな」
平賀は大きく伸びをして、そう呟いた。
〔「ご利用頂きまして、ありがとうございました。まもなく終点、東京、東京です。23番線到着、お出口は右側です。……」〕
2体のメイドロボットとマルチタイプが荷棚から荷物を下ろしている。
「えーと……ここでは、プロデューサーの井辺さんが迎えに来てくれるらしいな」
「敷島社長は・官庁へ・出向かれて・いるようです」
エミリーが応えた。
「政府からの質疑応答も大変だ。いつまでも、敷島さんに任せていられない。自分も、東京に滞在する限りは尽力しなきゃな」
列車がホームに滑り込む。
すぐ隣に東海道新幹線ホームがあるが、それと雰囲気が全く違うのは、“やまびこ”と“つばさ”の併結編成だからだろう。
西へ向かう新幹線が頑なに固定編成にこだわり続けるのに対し、北へ向かう新幹線は平気で2台連結の列車を運行させている。
先ほども、同じ行き先ながら、8両編成の2階建て新幹線が2台連結の16両編成で出て行ったばかりだ。
〔「ご乗車ありがとうございました。東京、東京、終点です。お忘れ物の無いよう、お降りください。23番線の電車は折り返し、15時ちょうど発の“やまびこ”143号、仙台行きと“つばさ”143号、山形行きとなります。……」〕
「お疲れさまです。平賀先生」
井辺の姿はすぐに分かる。
これといって特徴の無い風体が、却って特徴があるパターンだ。
「お迎え頂き、ありがとうございます」
応える平賀。
だがお互い、
(相変わらず、アンドロイドみたいな人だなぁ……)
と、平賀は思い、井辺は、
(年老いたマッドサイエンティストの、若かりし頃といった感じだ。油断はできそうにない)
と、思ったという。
「あいにくと社長は経済産業省の方へ、会議に出向かれております。私めが代理でお迎えに上がらせて頂きました」
「いいえ、とんでもない。却って恐縮です」
「まずは事務所へ、ご案内させて頂きます」
「よろしくお願いします」
「! ……あれ?」
その時、七海が反応した。
「どうした、七海?」
「姉妹機から緊急連絡です」
「何だと!?」
「えーっと……六海からです」
「六海ってどこだ?」
「新宿の・元財団本部の・あったビルに・入居している・カフェです」
平賀の質問に、エミリーが答えた。
「ああ、あそこですか。確か、結月さんのフィールドテストの際に立ち寄ったことがあります」
「で、そこがどうした?」
「カフェが占拠されたとのことです!」
「なにっ!?テロか!?」
「そ、それが……そのカフェを占拠しているのが……」
[同日15:30.東京都新宿区西新宿 元・財団本部のあったビル1Fカフェ Lily、鏡音リン・レン、六海、その他ボカロなど]
カフェの入口が、山積みになった椅子やテーブルで塞がれてしまっている。
その向こうにいるのは……。
「我々はーっ!……何だっけ?」
拡声器を持ったレンが外に向かって何か言おうとしたが、レン自身は双子の姉に付き合わされているだけなので、肝心のセリフが思いつかない。
すぐにリンがレンから拡声器を奪い取り、
「大人の仕事を要求するーっ!」
と、叫んだ。
「勝手なこと言っちゃダメ!」
Lilyがすぐに窘めた。
ピケの外では、心配したボカロ仲間や、相変わらずビル自体の警備は任されたままの警備ロボットや、清掃などを任されているメイドロボットも遠巻きに見ている。
「リンちゃん!レン君!Lilyちゃん!もうやめよう!みんな困ってるよ!」
そのうち、未夢が中のボカロ達に呼び掛けた。
「あのー、困るんですけど……」
中にいる、巻き込まれたメイドロボット六海が困った顔でLilyに言った。
「注文は!?」
「えっ!?……えーっと、エンジンオイル250ccが1つ……」
「OK!」
人間だけでなく、ロイドも訪れるカフェなのだ。
「はい」
Lilyが代わりにオイルを入れて、六海の持つトレイの上に載せた。
「た、助かります……」
六海はきょとんとした顔で、そのまま行ってしまった。
その様子を外側で見ていた巡音ルカもポカンとして、
「いいんだ?」
そしてMEIKOが、
「お前達は完全に包囲されている!無駄な抵抗はやめて、おとなしく投降しろーっ!」
「しないもーん!べーっ!」
アッカンベーをするリン。
「霞ケ関の社長が泣くぞ!同行の“鬼軍曹”は怒るぞーっ!?」
「ええーっ!?……や、やっぱりボク、やめる……」
「ええーっ!?」
元々が姉に付き合わされていただけのレン、シンディの名前こそ出てこなかったものの、その影がちらつき、早々のリタイヤ。
しかし、すぐに気を取り直し、
「こうなったら、2人で頑張りましょう!」
「我々の正義の為に!」
Lilyは拡声器を持って、
「私達のデビューを約束してください!童謡でも何でも歌いますから!」
との言葉に、ざわつくボカロ達。
で、リンは、
「ふえっ!?子供の……?じゃあ、リンも降りるよ〜」
「リンちゃんまで!?」
するとその時だった。
「警告・する!直ちに・この・フザけたマネを・中止しないと・強制排除を・行う!」
「エミリー!?」
エミリーが両目をハイビームに光らせ、左手を突き出していた。
マルチタイプの左手は有線ロケットパンチと、そこから高圧電流を放出することができる。
「うわっ!出たーっ!鬼軍曹1号機!」
右往左往する鏡音姉弟。
「やるならやりなさいよ!舌を噛み千切ってやるんだから!」
Lilyも応酬した。
舌を実際に出す。
「ええーっ!?」
舌を噛み千切るという行為は、ロイドの自爆装置の起動を意味する。
「ちょ、ちょっとエミリーさん!」
七海がエミリーの左手を掴む。
「『歌えないボーカロイドはただのガラクタ』、今の私はガラクタと同じ!財団が無くなって……劇場も無くなって……もう私、廃棄処分になるのかと思ってた……。だけど、敷島エージェンシーに拾われて……やっと歌えると思ったのに、ほとんどそういう仕事が無くて……。何で?何で歌えないの?もっと待ってくれ?どのくらい?もっと頑張れ?どのくらい?私、全然分かんない!歌うことが使命だって言われたのに、それをさせてもらえない!私もボーカロイドとしてもっと歌いたい!デビューしたい!!」
そこへ、ようやく追いついた井辺が息せき切ってやってきた。
「も、申し訳ありません!Lilyさん!」
「! プロデューサー……!」
Lilyは涙ながらに井辺をキッと見据えた。
「実はLilyさんを始め、結月さんと未夢さんには……今月中のCDデビューを考えています!」
「えっ!?」
井辺の言葉に、未夢やゆかりも驚いた。
「それまで決定ではなかったので話せませんでしたが、つい先ほど、それが決定したので、今日中にお話しするつもりでした!」
「そ、そうなの?」
「はい」
井辺の言葉を聞いたLilyは、
「な、何だ……早く言ってよ……」
と、へたり込んだ。
「全くだよ」
ルカも腕組みをして同調した。
しかしリンだけは、
「リンは?リンのお仕事に関しては!?」
「企画検討中です」
「こうなったら、メーデー!メーデーだ……うぁあぁぁっ?!」
リンが片手で首根っこを掴まれ、持ち上げられてしまった。
無論そんな芸当ができるのは数少ない。
「鏡音リン。いい加減に・しないと、電気ショック・行くぞ?」
「ご、ごごご……ごめんなさい……!!」
被害の無い屋外テラス席にいた六海は、
「若いっていいですねぇ……。って!いえ、六海も若いんですけどね!設定年齢にじゅうは……じゃなくて!製造年月日は2012年の……!」
エンジンオイルを出した客は、R2-D2と芋掘りロボット・ゴンスケみたいなロボット。
キュルキュルキュルとR2-D2が電子音で笑っていた。
[同日16:30.JR新宿駅・中央快速線ホーム 井辺、平賀、Lily、ゆかり、未夢、リン、レン、ルカ、MEIKO、エミリー、七海]
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の8番線の電車は、16時35分発、快速、東京行きです。次は、四ツ谷に止まります〕
「先にホテルに荷物を置いてから、事務所にお邪魔しますよ」
「本当にお騒がせして、申し訳ありませんでした」
井辺の謝罪にLilyも、
「ごめんなさい……」
小さく謝った。
「まあ、ボーカロイドの感情レイヤーの作動具合が見れて、自分的には得でしたが」
平賀はコホンと咳払いした。
騒動の後、皆でカフェの片付けをし、関係各所へ一緒に謝罪して回った井辺達。
幸いにも、やれ補償だ何だという騒ぎは無かった。
ただ、さすがにツイッターの拡散は防ぎ切れなかったが。
「事務所では、マスコミがLilyさんにインタビューしたいとの申し出がきているようです」
「別の意味で目立ってしまいましたなぁ〜」
リンはクスクスと笑った。
「お前も・共犯だ」
ガシッとその肩を掴むエミリー。
「ご、ごめんなさい!」
「と、とにかく……。我々は、事務所に戻りましょう。それから、CDデビューについてのご説明を申し上げたいと思います」
井辺はコホンと咳払いした。
いずれにせよ、敷島エージェンシーの社史上、記録に残る出来事だったことに変わりは無かった。