[6月5日13:30.天候:曇 東京都心某所 東京都心大学 敷島孝夫、平賀太一、エミリー、シンディ]
「……というわけで、彼女の動力としては最新型のバッテリーを使用していますが、駆動部分には……」
平賀が今度はシンディを使って、特別講義を行っている。
エミリーとは基本設計とスペックは同じであるが、ディテールでは違いが見受けられる。
エミリーの新型ボディは、平賀の師である南里志郎が遺した設計図を基に、独自のアレンジが加えられている部分があるが、シンディに関してはウィリアム・フォレストの意向のままに設計・製造された部分が多い。
敷島は応接室のテレビで中継を見ていたが、途中で井辺と電話を始める。
「……ユニット名をそのボーカロイド達に決めさせるか。いいアイディアだ」
{「はい。まだ時間もありますし、彼女達にじっくり考えて頂こうと思います」}
「平賀先生やアリスが納得する思考をしてくれればいいがな」
{「はい。そうですね」}
[同日同時刻 東京都墨田区菊川 敷島エージェンシー 結月ゆかり、Lily、未夢]
CDデビューを控えた新人3人は、会議室と称する小部屋で、早速“宿題”をこなしていた。
「“レモンティー”ってのはどう?」
と、未夢。
「いいですねー!」
ゆかりがそれに讃嘆する。
だが、Lilyが渋った。
「悪くはないと思うけど、私達のユニット名としてはちょっと……関連性も無いし」
「分かった。じゃあ、“ストレートティー”にしよう」
「いや、それもちょっと……。因みに未夢は、あとどれくらいのストックがあるの?この際だから、全部書き出してよ」
「了解!」
バババッとホワイトボードに書き込む未夢。
『レモンティー』『ストレートティー』『隅田川』『かいじ101号』『ジンジャーエール』『えね☆おすおっす』『ロマンス母ちゃん』『ブースター』『LEDズ』『箱根山』『ロケットアーム』『ムーディ☆アポ山』『真空管ANP』『ポテンヒット単勝』『ナナシノゴンベ』『愛国清澄☆流れ星』『ヤンデレラガールズ』『青春桜』『人間ボカロ革命』
「……ざっと、こんなもんかな」
「スゴいスゴーい!さすが未夢さん!」
ゆかりは感心したが、Lilyの表情は硬いままだ。
「で、どれがイチオシなの?」
「『ブースター』」
「却下!」
「ミクさんのライブで窮地を救ってくれたブースター様に何てことを……」
ミクのライブでバックダンサーとして出演することで、初めてステージデビューを飾った3人だったが、未夢だけジャンプ力が足りなかった。
これは未夢が鈍重なマルチタイプとして製作されたことの弊害であり、エミリーとシンディはその為ブースターを着用している。
たまたまライブの警備にやってきたシンディにブースターを借りて、足りないジャンプ力をカバーし、事無きを得た。
「Lilyは何かいいアイディアがあるの?」
ゆかりに聞かれ、Lilyは少し俯き加減で何かを言った。
「え?なに?聞こえないよ」
井辺が会議室に入るのと、そこから未夢の笑い声がしたのは同時だった。
「“スーパーサイレント”って!全然喋ってないじゃん!きゃはははははははは!!」
「わ、私じゃない!劇場の支配人が……!」
「あ……プロデューサーさん」
ゆかりが気づいて振り返る。
きょとんとする井辺。
「お、お疲れさまです!」
「……お疲れ様です」
[同日20:00.同場所 井辺翔太、ゆかり、Lily、未夢]
ホワイトボードに次々書き込まれる候補名。
しかし、その上にバツが引かれている。
『月極駐車場』『虚構新聞』『参詣エクスプレス』『けんちん汁』『きゃりーばっく』『バリウム』『アシッド』『アルカリィ』『飛鳥山鉄道』『ミュータント』『ウィルス・ゼロ』『プログラムのバグ』『ブレーキオイル』『パワーアップ・キノコ(ベニテングタケ)』『千年幻想郷』『ラクトガール』『サーロインステーキ』『コンソメスープ』
割と本気そうなものから、明らかにフザけているものまで様々だ。
「あー……ダメだ。頭がオーバーヒートしちゃう……」
椅子にもたれて、力無くペンを落とす未夢。
ゆかりは既に頭に氷嚢を乗せていた。
「まだ時間はありますから、そう慌てずに」
井辺がフォローするように言った。
「良かったら、プロデューサーも一緒に考えてくれない?」
Lilyがラジエーターの水を飲みながら申し出た。
「分かりました」
井辺は右手を自分の首に手をやって頷いた。
[同日同時刻 東京都千代田区内某所 居酒屋 敷島孝夫&平賀太一]
「……これで、表向きの活動は終わりですかね?」
「大学での出張講義はそうですね」
「少なくとも大学の内外に、怪しい人物はいませんでしたね」
「ということは、研究者の中にテロリストがいるわけではないということです」
平賀は煙草に火を点けた。
「恐らく、元々はロボットをテロに使う組織ではなかったのでしょう。しかしそこへ十条博士が転がり込み、彼の技術提供を受けて、一気にロボット・テロ組織になったと考えられます」
「KR団。人間で言うところのKKKみたいな組織ですね。進み行くロボット技術に反対していたが故に、逆にロボットをテロに使うことなど有り得ないと考えていたが、自分達の手を汚さずにテロできるので、見事に十条の爺さんに唆されてしまったというわけですか」
「まだ決めつけは軽率ですよ。ただ、もし敷島さんの推理が正しかったら、やはり許すことはできません」
「『機械が……機械がオラ達の仕事さ奪うだーっ!』と叫んでいた連中が……」
「昔はそういう弊害もあったのかもしれません。しかし、今は超少子高齢化による人口減の時代です。各種、様々な所でそれによるシステム障害が起きている。年金問題も将来的にはそうですが、今目の前に起きているのは、機械化できない職種における人材不足ですね」
「確かに。タクシーとかは昔から乗務員募集なんてやってるけど、今じゃ、バスや鉄道職員まで広告を掲示する有り様です」
「介護職員の不足も取り沙汰されています。しかし移民政策に走らなくても、ロボット技術の進行によって、ある程度の問題は解決できると考えています。何故ならその移民達もまた人間であり、当然歳を取るわけですから、今度は彼らの介護を考えなくてはならない。しかし、ロボットならその心配は無いんです」
「実験的にとはいえ、アイドルもロイドの時代ですからなぁ……」
敷島はビールを口に運んだ。
「セクサロイドも作ってくださいよ。非モテの童貞の人達にバカ売れできますよ?」
「それはまた別の問題ですから……。余計に晩婚化・非婚化を推進するとして、政府からストップ食らいそうです」
「よーし!じゃ来週、また霞ケ関回りしてこよう!」
「セクサロイドの言葉を出した時点で、出入り禁止になる恐れがありますよ」
それより原発除染ロボットを作れと言われるのがオチであろう。
「……というわけで、彼女の動力としては最新型のバッテリーを使用していますが、駆動部分には……」
平賀が今度はシンディを使って、特別講義を行っている。
エミリーとは基本設計とスペックは同じであるが、ディテールでは違いが見受けられる。
エミリーの新型ボディは、平賀の師である南里志郎が遺した設計図を基に、独自のアレンジが加えられている部分があるが、シンディに関してはウィリアム・フォレストの意向のままに設計・製造された部分が多い。
敷島は応接室のテレビで中継を見ていたが、途中で井辺と電話を始める。
「……ユニット名をそのボーカロイド達に決めさせるか。いいアイディアだ」
{「はい。まだ時間もありますし、彼女達にじっくり考えて頂こうと思います」}
「平賀先生やアリスが納得する思考をしてくれればいいがな」
{「はい。そうですね」}
[同日同時刻 東京都墨田区菊川 敷島エージェンシー 結月ゆかり、Lily、未夢]
CDデビューを控えた新人3人は、会議室と称する小部屋で、早速“宿題”をこなしていた。
「“レモンティー”ってのはどう?」
と、未夢。
「いいですねー!」
ゆかりがそれに讃嘆する。
だが、Lilyが渋った。
「悪くはないと思うけど、私達のユニット名としてはちょっと……関連性も無いし」
「分かった。じゃあ、“ストレートティー”にしよう」
「いや、それもちょっと……。因みに未夢は、あとどれくらいのストックがあるの?この際だから、全部書き出してよ」
「了解!」
バババッとホワイトボードに書き込む未夢。
『レモンティー』『ストレートティー』『隅田川』『かいじ101号』『ジンジャーエール』『えね☆おすおっす』『ロマンス母ちゃん』『ブースター』『LEDズ』『箱根山』『ロケットアーム』『ムーディ☆アポ山』『真空管ANP』『ポテンヒット単勝』『ナナシノゴンベ』『愛国清澄☆流れ星』『ヤンデレラガールズ』『青春桜』『
「……ざっと、こんなもんかな」
「スゴいスゴーい!さすが未夢さん!」
ゆかりは感心したが、Lilyの表情は硬いままだ。
「で、どれがイチオシなの?」
「『ブースター』」
「却下!」
「ミクさんのライブで窮地を救ってくれたブースター様に何てことを……」
ミクのライブでバックダンサーとして出演することで、初めてステージデビューを飾った3人だったが、未夢だけジャンプ力が足りなかった。
これは未夢が鈍重なマルチタイプとして製作されたことの弊害であり、エミリーとシンディはその為ブースターを着用している。
たまたまライブの警備にやってきたシンディにブースターを借りて、足りないジャンプ力をカバーし、事無きを得た。
「Lilyは何かいいアイディアがあるの?」
ゆかりに聞かれ、Lilyは少し俯き加減で何かを言った。
「え?なに?聞こえないよ」
井辺が会議室に入るのと、そこから未夢の笑い声がしたのは同時だった。
「“スーパーサイレント”って!全然喋ってないじゃん!きゃはははははははは!!」
「わ、私じゃない!劇場の支配人が……!」
「あ……プロデューサーさん」
ゆかりが気づいて振り返る。
きょとんとする井辺。
「お、お疲れさまです!」
「……お疲れ様です」
[同日20:00.同場所 井辺翔太、ゆかり、Lily、未夢]
ホワイトボードに次々書き込まれる候補名。
しかし、その上にバツが引かれている。
『月極駐車場』『虚構新聞』『参詣エクスプレス』『けんちん汁』『きゃりーばっく』『バリウム』『アシッド』『アルカリィ』『飛鳥山鉄道』『ミュータント』『ウィルス・ゼロ』『プログラムのバグ』『ブレーキオイル』『パワーアップ・キノコ(ベニテングタケ)』『千年幻想郷』『ラクトガール』『サーロインステーキ』『コンソメスープ』
割と本気そうなものから、明らかにフザけているものまで様々だ。
「あー……ダメだ。頭がオーバーヒートしちゃう……」
椅子にもたれて、力無くペンを落とす未夢。
ゆかりは既に頭に氷嚢を乗せていた。
「まだ時間はありますから、そう慌てずに」
井辺がフォローするように言った。
「良かったら、プロデューサーも一緒に考えてくれない?」
Lilyがラジエーターの水を飲みながら申し出た。
「分かりました」
井辺は右手を自分の首に手をやって頷いた。
[同日同時刻 東京都千代田区内某所 居酒屋 敷島孝夫&平賀太一]
「……これで、表向きの活動は終わりですかね?」
「大学での出張講義はそうですね」
「少なくとも大学の内外に、怪しい人物はいませんでしたね」
「ということは、研究者の中にテロリストがいるわけではないということです」
平賀は煙草に火を点けた。
「恐らく、元々はロボットをテロに使う組織ではなかったのでしょう。しかしそこへ十条博士が転がり込み、彼の技術提供を受けて、一気にロボット・テロ組織になったと考えられます」
「KR団。人間で言うところのKKKみたいな組織ですね。進み行くロボット技術に反対していたが故に、逆にロボットをテロに使うことなど有り得ないと考えていたが、自分達の手を汚さずにテロできるので、見事に十条の爺さんに唆されてしまったというわけですか」
「まだ決めつけは軽率ですよ。ただ、もし敷島さんの推理が正しかったら、やはり許すことはできません」
「『機械が……機械がオラ達の仕事さ奪うだーっ!』と叫んでいた連中が……」
「昔はそういう弊害もあったのかもしれません。しかし、今は超少子高齢化による人口減の時代です。各種、様々な所でそれによるシステム障害が起きている。年金問題も将来的にはそうですが、今目の前に起きているのは、機械化できない職種における人材不足ですね」
「確かに。タクシーとかは昔から乗務員募集なんてやってるけど、今じゃ、バスや鉄道職員まで広告を掲示する有り様です」
「介護職員の不足も取り沙汰されています。しかし移民政策に走らなくても、ロボット技術の進行によって、ある程度の問題は解決できると考えています。何故ならその移民達もまた人間であり、当然歳を取るわけですから、今度は彼らの介護を考えなくてはならない。しかし、ロボットならその心配は無いんです」
「実験的にとはいえ、アイドルもロイドの時代ですからなぁ……」
敷島はビールを口に運んだ。
「セクサロイドも作ってくださいよ。非モテの童貞の人達にバカ売れできますよ?」
「それはまた別の問題ですから……。余計に晩婚化・非婚化を推進するとして、政府からストップ食らいそうです」
「よーし!じゃ来週、また霞ケ関回りしてこよう!」
「セクサロイドの言葉を出した時点で、出入り禁止になる恐れがありますよ」
それより原発除染ロボットを作れと言われるのがオチであろう。