[6月15日17:00.天候:雷 埼玉県さいたま市西区 デイライト・コーポレーション 初音ミク]
デイライト・コーポレーション・ジャパン(株)は外資系企業の日本法人である。
ロボット技術の最先端を行く民間企業で、その一環として研究所にはセキュリティ・ロボットが配置されている。
アリスがここで主任研究員として働いており、マルチタイプの開発に力を入れている企業でもある。
そこに配置されている全ロボットに、こういう通達が流れた。
『さいたま市全域に雷注意報発令。全てのロボットは屋内に待避せよ』
というものである。
実は落雷による高圧電流に対しては、あのマルチタイプですら大ダメージを与えるものである。
その為、全ロボットは屋内へ待避させるのである。
しかし、どういうわけだか、研究所の屋上から歌声が聞こえて来た。
「強くはかない〜♪色んなこと〜♪全て受け入れても〜♪いいんじゃないかな♪」
ミクの歌声である。
ミクは系統が違うため、指令が行かなかったのである。
[同日同時刻 同研究所屋内 井辺翔太&アリス・シキシマ]
「初音ミクはどこ?」
「は?研究室で充電中では?」
リフレッシュコーナーで待機していた井辺。
窓の外では雷鳴と雷光、そして強くなったり弱くなったりの雨が降っている。
「いないのよ。記録を見たら、16時48分に充電が終わってる」
「所内を出歩いているのでは?鏡音さん達を除けば、他のボーカロイドは比較的自由に歩き回れると伺いましたが?」
「とにかく、呼んでくれる?」
「分かりました。初音さんに何が?」
「いや、ちょっと人工知能の機能テストもしたいし」
「それはちょっとで済む話なのですか?」
井辺は社長夫人にツッコミを入れながらも、スマホを取り出した。
通話ではなく、『ロイド通信』と書かれたアプリをタップする。
ボーカロイドやマルチタイプなどに搭載されている通信機とリンクさせるアプリだ。
ドカーン!
「うわっ!」
「Oh!」
すぐ近くに落雷したようだ。
幸い、それによる停電は無かった。
「もう!ビックリしたわよ!」
「どうやら、大丈夫みたいですね。……初音さん、初音さん。こちら、井辺です。応答願います」
「まるで、インカムね」
「初音さん、初音さん。こちら、井辺です。応答願います」
井辺が何度も呼び掛けるが、応答しない。
「お、奥様……?」
「……すぐにGPSでミクの位置を確認して!」
「は、はい!」
今度は手持ちのノートPCを起動させ、それでミクの位置を洗う。
「は?『計測不能』!?」
「何か、嫌な予感がする……」
と、アリス。
「嫌な予感と言いますと?」
アリスは左耳に着けているインカムで、呼び掛けた。
それは英語だったが、英会話のできる井辺には分かるものだった。
日本語にすると、
「館内セキュリティロボット全機に通達。ボーカロイド01号機、初音ミクの捜索に当たれ。シリアル番号は……」
といった感じのもの。
試作型でナンバリングされていないMEIKOは0号機、KAITOは00号機と呼ばれている。
[同日同時刻 同研究所・通用口と納品業者用駐車場 リネンサプライ業者&管理室警備員]
「巡回、戻りました。外は雷雨です。外部配置セキュリティロボットの待避を確認、外溝の詰まりによる水漏れはありません」
「はい、ご苦労さん」
人間の警備員も常駐していて、一応ちゃんと巡回している。
巡回警備員が戻ってくるのと、仮眠室や医務室から出た使用済みリネンの交換に来た業者が出て来るのは同時だった。
「毎度どうもー!交換作業終わりました!退館します!」
「ご苦労さん。何か外は今、雷雨だよー?」
受付に座っていたベテランの警備員は、この業者と顔なじみになっているのか、受付簿に退館時間記入と入館カード返却手続きをさせながら言った。
「ポテンヒットさんの競輪予想外してから、踏んだり蹴ったりっスよ」
ドカーン!
「うわっ!?」
「うおっ!?」
大きな落雷音は、1Fバックヤードにも当然響いた。
「……こっわ!」
「雷収まるまで、しばらく様子みた方がいいんじゃないの?一服でもしに行くか?」
「あっ、いいっスねー!」
「菊地君、ちょっと一服しに行ってくるからー!」
「堀崎さん、またっスか……」
菊地警備員は仕方なく受付の椅子に座る。
「全く。非喫煙者が仕事押し付けられるんだよなぁ……」
その時、外から何かが落ちて来る音がした。
それは、豪雪地帯で屋根に降り積もった雪が落ちて来る音に似ていた。
「何だ?」
菊地警備員は受付の外、引いては通用口の外に出てみた。
そこにはリネンサプライ業者の車しか止まっていない。
ワンボックスの屋根の上には、使用済みのリネンが大きなナイロン製の巾着袋に入れられた状態で積み上がっている。
雨で濡れるだろうが、どうせそれは使用済み。
クリーニング工場に持って行って洗えば問題は無いのだろう。
もちろん、使用前のクリーニング済みの物は車内に積まれている。
「……気のせいか」
菊地警備員は落下物を確認できず、しかも受付の電話が鳴ったので、そのまま管理室に戻ってしまった。
「はい、もしもし。管理室の菊地です。……え?初音ミクさん?……って、ボーカロイドの?……ああ、今修理で入ってる……。は?いえ、こちらからは出ていませんよ?だいたい、ボーカロイドが通用口から出るわけが……ええ。ちょっと、待ってください」
菊地警備員は管理室内の監視カメラのモニタを全て確認した。
「こちらで確認できる限り、どこにも映っていませんよ?あの緑の髪ですから、目立つとは思いますけどね」
菊地警備員が電話でやり取りをしている間、一服から戻って来たリネンサプライ業者が出て行った。
「……分かりました。それでは、こちらでも録画した映像を確認してみます」
電話を切って、ふと窓の外を見る。
ちょうど件の業者の車が出て行くところだった。
「!?……いや、気のせいか……」
公道を左折で出て行った業者。
一瞬、屋根の上に積まれた緑色の巾着袋の山の中に、赤くキラッとしたものが見えたような気がした。
「取りあえず、西棟のカメラを確認しよう」
ミクが修理を受けていた部屋は西棟にあるからだ。
そこで分かったのは、ミクが屋上に行ったこと。
ちょうどその時、屋上は梅雨時の長雨や豪雨に備えて、雨水排水口の臨時清掃の為に開錠されていたため、間違い無く屋上に出たであろう。
だが、そこに駆け付けた関係者達は、意外な物を発見する。
デイライト・コーポレーション・ジャパン(株)は外資系企業の日本法人である。
ロボット技術の最先端を行く民間企業で、その一環として研究所にはセキュリティ・ロボットが配置されている。
アリスがここで主任研究員として働いており、マルチタイプの開発に力を入れている企業でもある。
そこに配置されている全ロボットに、こういう通達が流れた。
『さいたま市全域に雷注意報発令。全てのロボットは屋内に待避せよ』
というものである。
実は落雷による高圧電流に対しては、あのマルチタイプですら大ダメージを与えるものである。
その為、全ロボットは屋内へ待避させるのである。
しかし、どういうわけだか、研究所の屋上から歌声が聞こえて来た。
「強くはかない〜♪色んなこと〜♪全て受け入れても〜♪いいんじゃないかな♪」
ミクの歌声である。
ミクは系統が違うため、指令が行かなかったのである。
[同日同時刻 同研究所屋内 井辺翔太&アリス・シキシマ]
「初音ミクはどこ?」
「は?研究室で充電中では?」
リフレッシュコーナーで待機していた井辺。
窓の外では雷鳴と雷光、そして強くなったり弱くなったりの雨が降っている。
「いないのよ。記録を見たら、16時48分に充電が終わってる」
「所内を出歩いているのでは?鏡音さん達を除けば、他のボーカロイドは比較的自由に歩き回れると伺いましたが?」
「とにかく、呼んでくれる?」
「分かりました。初音さんに何が?」
「いや、ちょっと人工知能の機能テストもしたいし」
「それはちょっとで済む話なのですか?」
井辺は社長夫人にツッコミを入れながらも、スマホを取り出した。
通話ではなく、『ロイド通信』と書かれたアプリをタップする。
ボーカロイドやマルチタイプなどに搭載されている通信機とリンクさせるアプリだ。
ドカーン!
「うわっ!」
「Oh!」
すぐ近くに落雷したようだ。
幸い、それによる停電は無かった。
「もう!ビックリしたわよ!」
「どうやら、大丈夫みたいですね。……初音さん、初音さん。こちら、井辺です。応答願います」
「まるで、インカムね」
「初音さん、初音さん。こちら、井辺です。応答願います」
井辺が何度も呼び掛けるが、応答しない。
「お、奥様……?」
「……すぐにGPSでミクの位置を確認して!」
「は、はい!」
今度は手持ちのノートPCを起動させ、それでミクの位置を洗う。
「は?『計測不能』!?」
「何か、嫌な予感がする……」
と、アリス。
「嫌な予感と言いますと?」
アリスは左耳に着けているインカムで、呼び掛けた。
それは英語だったが、英会話のできる井辺には分かるものだった。
日本語にすると、
「館内セキュリティロボット全機に通達。ボーカロイド01号機、初音ミクの捜索に当たれ。シリアル番号は……」
といった感じのもの。
試作型でナンバリングされていないMEIKOは0号機、KAITOは00号機と呼ばれている。
[同日同時刻 同研究所・通用口と納品業者用駐車場 リネンサプライ業者&管理室警備員]
「巡回、戻りました。外は雷雨です。外部配置セキュリティロボットの待避を確認、外溝の詰まりによる水漏れはありません」
「はい、ご苦労さん」
人間の警備員も常駐していて、一応ちゃんと巡回している。
巡回警備員が戻ってくるのと、仮眠室や医務室から出た使用済みリネンの交換に来た業者が出て来るのは同時だった。
「毎度どうもー!交換作業終わりました!退館します!」
「ご苦労さん。何か外は今、雷雨だよー?」
受付に座っていたベテランの警備員は、この業者と顔なじみになっているのか、受付簿に退館時間記入と入館カード返却手続きをさせながら言った。
「ポテンヒットさんの競輪予想外してから、踏んだり蹴ったりっスよ」
ドカーン!
「うわっ!?」
「うおっ!?」
大きな落雷音は、1Fバックヤードにも当然響いた。
「……こっわ!」
「雷収まるまで、しばらく様子みた方がいいんじゃないの?一服でもしに行くか?」
「あっ、いいっスねー!」
「菊地君、ちょっと一服しに行ってくるからー!」
「堀崎さん、またっスか……」
菊地警備員は仕方なく受付の椅子に座る。
「全く。非喫煙者が仕事押し付けられるんだよなぁ……」
その時、外から何かが落ちて来る音がした。
それは、豪雪地帯で屋根に降り積もった雪が落ちて来る音に似ていた。
「何だ?」
菊地警備員は受付の外、引いては通用口の外に出てみた。
そこにはリネンサプライ業者の車しか止まっていない。
ワンボックスの屋根の上には、使用済みのリネンが大きなナイロン製の巾着袋に入れられた状態で積み上がっている。
雨で濡れるだろうが、どうせそれは使用済み。
クリーニング工場に持って行って洗えば問題は無いのだろう。
もちろん、使用前のクリーニング済みの物は車内に積まれている。
「……気のせいか」
菊地警備員は落下物を確認できず、しかも受付の電話が鳴ったので、そのまま管理室に戻ってしまった。
「はい、もしもし。管理室の菊地です。……え?初音ミクさん?……って、ボーカロイドの?……ああ、今修理で入ってる……。は?いえ、こちらからは出ていませんよ?だいたい、ボーカロイドが通用口から出るわけが……ええ。ちょっと、待ってください」
菊地警備員は管理室内の監視カメラのモニタを全て確認した。
「こちらで確認できる限り、どこにも映っていませんよ?あの緑の髪ですから、目立つとは思いますけどね」
菊地警備員が電話でやり取りをしている間、一服から戻って来たリネンサプライ業者が出て行った。
「……分かりました。それでは、こちらでも録画した映像を確認してみます」
電話を切って、ふと窓の外を見る。
ちょうど件の業者の車が出て行くところだった。
「!?……いや、気のせいか……」
公道を左折で出て行った業者。
一瞬、屋根の上に積まれた緑色の巾着袋の山の中に、赤くキラッとしたものが見えたような気がした。
「取りあえず、西棟のカメラを確認しよう」
ミクが修理を受けていた部屋は西棟にあるからだ。
そこで分かったのは、ミクが屋上に行ったこと。
ちょうどその時、屋上は梅雨時の長雨や豪雨に備えて、雨水排水口の臨時清掃の為に開錠されていたため、間違い無く屋上に出たであろう。
だが、そこに駆け付けた関係者達は、意外な物を発見する。