[6月14日10:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 敷島家 敷島孝夫、アリス・シキシマ、シンディ]
「こりゃまた面白い動画が撮れたわねぇ……」
アリスは貨物船スター・オブ・イースタン号に潜入したシンディが撮影した動画を見て言った。
面白そうに観ていたものだから、敷島は苦い顔をした。
「映画じゃないんだぞ。……てか、俺もエミリーと行動していたから、シンディがどんな行動していたか知らないんだ」
「ほら、ここで“クリムゾン・ヘッド”と交戦してる」
「はあ!?俺、聞いてねーぞ!?」
クリムゾン・ヘッドとは、敷島達が勝手に付けたイレギュラー・ロボットのことである。
多くはバージョン・シリーズが攻撃を受けて完全に機能停止する前、自己修復機能の暴走で、人間でいうゾンビ化した現象のことを言う。
血のように真っ赤なオイルを頭部から吹き出し、それで頭部が赤くなるので、“クリムゾン・ヘッド”と呼ぶことにした。
人間のゾンビとは違い、彼らは強化・高速化して何の制御も効かなくなる。
普通の人間が走るくらいのスピードで追い掛けて来る上、人工知能の精度は落ちているのか、装備している銃火器を使わない代わり、何の制御も掛かっていない腕力で殴りかかって来たり、抱きしめて胴体を引きちぎるといった攻撃をしてくる。
バージョン・シリーズに限らず、東京決戦の終盤で、シンディがこの現象を引き起こし、敷島とエミリーを執拗に追い掛け回したことがある。
装備していた銃火器やナイフは使わず、素手で敷島達に攻撃してきた。
その時のことは、基本前期型からのメモリーを引き継いでいるシンディも『覚えていない』という。
で、そのシンディがクリムゾン・ヘッド現象を起こしたバージョン・シリーズと戦うと、
「……まあ、大して変わらないね」
素早く動くようになった分、銃の照準を合わせにくくはなったが、別に直接攻撃が効かないわけでもなく、結局シンディの敵ではないという。
「この現象を防ぐには?」
「自己修復機能の暴走が原因だから、それ自体を破壊……まあ、つまり頭脳自体を破壊してやればいいのよ」
と、アリス。
「なるほど」
「でも、普段は動きの遅いヤツが、どうやったら速く動けるようになるのか興味深いわねぇ……」
「まあ、普通は逆だよな。ゾンビ化したら足の損傷が激しくて、逆に動きが遅くなるものだ。人間はな」
“バイオハザード”でも、たまに走って追いかけて来るゾンビがいるが、それは発症初期の段階で、まだ足がそんなに腐敗していないゾンビだからだ。
「タカオ。今度潜入したら、クリムゾン・ヘッドを捕まえてきて。サンプルにするから」
「アホか!命が持たんわ!」
「だったらドクター。普通に4.0捕まえてきて、わざとそういう現象を起こさせてやるというのは?」
と、シンディ。
「それだ!その手があった!」
「じゃあ、今度潜入してきたら4.0捕まえてきて」
「5.0で良かったら、すぐそこにいるけどね」
シンディは薄笑いを浮かべ、庭を指さした。
今の敷島達はマンション住まいであるが、マリオ達の性能にマンション管理会社も驚き、マリオ達にマンション管理の一部を任せるという実験に協力してくれている。
今、マリオ達はマンション敷地内の庭木の手入れを行っていた。
「ダメよ、シンディ。あれでもまだ実験の段階なんだから、実験に実験を重ねるわけにはいかないわ」
「ですよね。かしこまりました。今度の潜入作戦に参加した際、可能な限り、4.0を捕獲してきます」
シンディは恭しく応えた。
オーナーの命令は絶対なのである。
が、ユーザーの命令は相対という……。
「……で、新しく見つけてきた8号機ってのは?」
「もうすぐ出て来るよ」
ちょうどシンディとエミリーが、件の木箱をこじ開けるシーンが出て来た。
「確かに……完全なフルモデルチェンジね。何か……シンディ達より小型化したみたい」
「リン……いや、ミクくらいの大きさじゃないか。より一層、人間に近づいていると思わないか?」
「そうね」
ここにいるシンディも、人間と見紛うほどの姿だ。
だが、どうもよく見ると人形が動いている感も拭えない所がある。
映像で見ると、まるで本物の人間の少女がそこで寝ているような感じがするのだ。
それは何故だろう。
「タカオ。このコがこちらでも調査できるようになるまで、あとどれくらい?」
「平賀先生は1週間くらいじゃないかって言ってるよ」
「遅いね。シンディに連れて来てもらおうかしら?」
「御命令でしたら、いつでも」
「やめなさい、2人とも!国家権力にケンカ売ってもロクなことないよ!」
敷島はツッコみを入れた。
「はーい」
シンディは首を縦に振ったが、それはユーザーである敷島の指示を聞いて頷いたものなのかは分からなかった。
尚、エミリーもまたオーナーとユーザーの命令には忠実に従うべきと考えているのだが、シンディのようにオーナーとユーザーを差別化するのではなく、そのどちらの意向にも反しないよう考えることが多い。
その為、行動力はシンディに劣ることが多い(考えてから行動するため)。
[同日17:00.埼玉県さいたま市中央区内ライブハウス 敷島孝夫、シンディ、井辺翔太、MEGAbyte]
「よっ、陣中見舞に来たぞー」
「うーっス!皆、頑張ってるー?」
敷島とシンディが控え室にやってきた。
「社長!」
「シンディさん!」
デビューしたばかりの新人ボカロユニット“MEGAbyte”がいた。
「昨日はライブを見てやれなくて申し訳無い。その代わり、今日はしっかり舞台裏からキミ達の活躍ぶりを見させてもらう」
「はい!」
井辺も頷いて言った。
「このように、あなた達の活躍ぶりは会社も大きく期待しているということです。小さなライブハウスでのライブですが、全力で頑張ってください」
「はい!」
「だーいじょーぶだって。あの初音ミクも巡音ルカも、最初はこういうライブハウスから始めたんだから。ね?社長?」
シンディが言った。
「まあ、そうだな。ルカの場合は元からツテがあったみたいだけど、ミクの場合はライブに出すのも大変だったんだ」
MEGAbyteが小さく、都外とはいえライブハウスでライブができるのも、敷島達の事務所の営業によるものだ。
あの初音ミク達を抱えている事務所の!ということで、ライブハウスの外では意外にもファンが集まっていた。
それまでのポスターや雑誌広告、ラジオによる告知も大きかっただろう。
それから1時間後……MEGAbyteのライブ自体は、何の問題も無く行われた。
だが、護衛役のシンディが慌ただしく会場の外に出て行くのを井辺は見ている。
その後で、敷島も。
「井辺君は彼女達を見ててくれ!」
会場の外に飛び出したシンディは、そこではっきりと信号を受信した。
「やっぱりあの8号機は敵みたい!」
ケータイ片手に敷島も慌てる。
「何ですって!?8号機が警察署から脱走!?……警察署が損壊ですって!?……シンディ!こっちに来る恐れがある!警戒に当たってくれ!」
「了解!」
「こりゃまた面白い動画が撮れたわねぇ……」
アリスは貨物船スター・オブ・イースタン号に潜入したシンディが撮影した動画を見て言った。
面白そうに観ていたものだから、敷島は苦い顔をした。
「映画じゃないんだぞ。……てか、俺もエミリーと行動していたから、シンディがどんな行動していたか知らないんだ」
「ほら、ここで“クリムゾン・ヘッド”と交戦してる」
「はあ!?俺、聞いてねーぞ!?」
クリムゾン・ヘッドとは、敷島達が勝手に付けたイレギュラー・ロボットのことである。
多くはバージョン・シリーズが攻撃を受けて完全に機能停止する前、自己修復機能の暴走で、人間でいうゾンビ化した現象のことを言う。
血のように真っ赤なオイルを頭部から吹き出し、それで頭部が赤くなるので、“クリムゾン・ヘッド”と呼ぶことにした。
人間のゾンビとは違い、彼らは強化・高速化して何の制御も効かなくなる。
普通の人間が走るくらいのスピードで追い掛けて来る上、人工知能の精度は落ちているのか、装備している銃火器を使わない代わり、何の制御も掛かっていない腕力で殴りかかって来たり、抱きしめて胴体を引きちぎるといった攻撃をしてくる。
バージョン・シリーズに限らず、東京決戦の終盤で、シンディがこの現象を引き起こし、敷島とエミリーを執拗に追い掛け回したことがある。
装備していた銃火器やナイフは使わず、素手で敷島達に攻撃してきた。
その時のことは、基本前期型からのメモリーを引き継いでいるシンディも『覚えていない』という。
で、そのシンディがクリムゾン・ヘッド現象を起こしたバージョン・シリーズと戦うと、
「……まあ、大して変わらないね」
素早く動くようになった分、銃の照準を合わせにくくはなったが、別に直接攻撃が効かないわけでもなく、結局シンディの敵ではないという。
「この現象を防ぐには?」
「自己修復機能の暴走が原因だから、それ自体を破壊……まあ、つまり頭脳自体を破壊してやればいいのよ」
と、アリス。
「なるほど」
「でも、普段は動きの遅いヤツが、どうやったら速く動けるようになるのか興味深いわねぇ……」
「まあ、普通は逆だよな。ゾンビ化したら足の損傷が激しくて、逆に動きが遅くなるものだ。人間はな」
“バイオハザード”でも、たまに走って追いかけて来るゾンビがいるが、それは発症初期の段階で、まだ足がそんなに腐敗していないゾンビだからだ。
「タカオ。今度潜入したら、クリムゾン・ヘッドを捕まえてきて。サンプルにするから」
「アホか!命が持たんわ!」
「だったらドクター。普通に4.0捕まえてきて、わざとそういう現象を起こさせてやるというのは?」
と、シンディ。
「それだ!その手があった!」
「じゃあ、今度潜入してきたら4.0捕まえてきて」
「5.0で良かったら、すぐそこにいるけどね」
シンディは薄笑いを浮かべ、庭を指さした。
今の敷島達はマンション住まいであるが、マリオ達の性能にマンション管理会社も驚き、マリオ達にマンション管理の一部を任せるという実験に協力してくれている。
今、マリオ達はマンション敷地内の庭木の手入れを行っていた。
「ダメよ、シンディ。あれでもまだ実験の段階なんだから、実験に実験を重ねるわけにはいかないわ」
「ですよね。かしこまりました。今度の潜入作戦に参加した際、可能な限り、4.0を捕獲してきます」
シンディは恭しく応えた。
オーナーの命令は絶対なのである。
が、ユーザーの命令は相対という……。
「……で、新しく見つけてきた8号機ってのは?」
「もうすぐ出て来るよ」
ちょうどシンディとエミリーが、件の木箱をこじ開けるシーンが出て来た。
「確かに……完全なフルモデルチェンジね。何か……シンディ達より小型化したみたい」
「リン……いや、ミクくらいの大きさじゃないか。より一層、人間に近づいていると思わないか?」
「そうね」
ここにいるシンディも、人間と見紛うほどの姿だ。
だが、どうもよく見ると人形が動いている感も拭えない所がある。
映像で見ると、まるで本物の人間の少女がそこで寝ているような感じがするのだ。
それは何故だろう。
「タカオ。このコがこちらでも調査できるようになるまで、あとどれくらい?」
「平賀先生は1週間くらいじゃないかって言ってるよ」
「遅いね。シンディに連れて来てもらおうかしら?」
「御命令でしたら、いつでも」
「やめなさい、2人とも!国家権力にケンカ売ってもロクなことないよ!」
敷島はツッコみを入れた。
「はーい」
シンディは首を縦に振ったが、それはユーザーである敷島の指示を聞いて頷いたものなのかは分からなかった。
尚、エミリーもまたオーナーとユーザーの命令には忠実に従うべきと考えているのだが、シンディのようにオーナーとユーザーを差別化するのではなく、そのどちらの意向にも反しないよう考えることが多い。
その為、行動力はシンディに劣ることが多い(考えてから行動するため)。
[同日17:00.埼玉県さいたま市中央区内ライブハウス 敷島孝夫、シンディ、井辺翔太、MEGAbyte]
「よっ、陣中見舞に来たぞー」
「うーっス!皆、頑張ってるー?」
敷島とシンディが控え室にやってきた。
「社長!」
「シンディさん!」
デビューしたばかりの新人ボカロユニット“MEGAbyte”がいた。
「昨日はライブを見てやれなくて申し訳無い。その代わり、今日はしっかり舞台裏からキミ達の活躍ぶりを見させてもらう」
「はい!」
井辺も頷いて言った。
「このように、あなた達の活躍ぶりは会社も大きく期待しているということです。小さなライブハウスでのライブですが、全力で頑張ってください」
「はい!」
「だーいじょーぶだって。あの初音ミクも巡音ルカも、最初はこういうライブハウスから始めたんだから。ね?社長?」
シンディが言った。
「まあ、そうだな。ルカの場合は元からツテがあったみたいだけど、ミクの場合はライブに出すのも大変だったんだ」
MEGAbyteが小さく、都外とはいえライブハウスでライブができるのも、敷島達の事務所の営業によるものだ。
あの初音ミク達を抱えている事務所の!ということで、ライブハウスの外では意外にもファンが集まっていた。
それまでのポスターや雑誌広告、ラジオによる告知も大きかっただろう。
それから1時間後……MEGAbyteのライブ自体は、何の問題も無く行われた。
だが、護衛役のシンディが慌ただしく会場の外に出て行くのを井辺は見ている。
その後で、敷島も。
「井辺君は彼女達を見ててくれ!」
会場の外に飛び出したシンディは、そこではっきりと信号を受信した。
「やっぱりあの8号機は敵みたい!」
ケータイ片手に敷島も慌てる。
「何ですって!?8号機が警察署から脱走!?……警察署が損壊ですって!?……シンディ!こっちに来る恐れがある!警戒に当たってくれ!」
「了解!」