報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「255系“しおさい”11号」

2015-06-12 21:45:31 | アンドロイドマスターシリーズ
[6月12日20:00.天候:雨 JR東京駅・総武快速線ホーム 敷島孝夫、平賀太一、シンディ、エミリー]

 平賀達を乗せた新幹線は無事、定刻通りに東京駅に到着した。
 そこで待ち構えていた敷島達と合流し、今度は総武快速線ホームに向かうことにしたのだが、何分まだ時間があった。
 東京駅の地下には喫煙所や待合所があり、そこで少し時間を潰した。
 喫煙者の平賀は、ここぞとばかりに煙を浴びて来た。
 そしてようやく、地下総武線ホームへ。
「東京から千葉の方へ行く特急というと、ついつい京葉線に向かいそうな所ですが、自分達はここでいいんですね?」
 平賀が聞いて来た。
「そうです。まあ、千葉駅を通る特急は、総武線ホームからと思えばよろしいかと」
 新幹線ホームから京葉線ホームへの乗り換えも行脚を強いられるが、同じ地下ホームの総武線ホームもそうだ。
 昔は大量の荷物を持った乗客の為に赤帽と呼ばれるポーターがいたが、現在では廃止されている。
 鉄道ミステリーで著名な西村京太郎先生の御作で、旧・国鉄時代を背景にしたものだと、たまに赤帽が登場することがあるくらいだ。
 昭和50年代半ばには既に斜陽だったらしく、その時代を背景にした作品でそれが語られている。
 軽トラック運送で有名な“赤帽”も、創業者が駅で働く赤帽のその働きぶりに感銘を受けてその名前を付けたと言われている。
(そのうち、高齢化社会で、また需要が出るかもしれない……)
 敷島は捜査で使う荷物を運ぶ鋼鉄姉妹達を見て、そんなことを考えていた。
 彼女らが持つ荷物は、海外旅行にでも行くのかと思うくらいの大型のスーツケース。
 その中身は……まあ、中には超法規的な措置で輸送が認められている物も含まれていることは認めよう。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。2番線に停車中の列車は、20時10分発、特別急行“しおさい”11号、銚子行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕

 ようやく地下ホームに辿り着くと、黄色が目立つ特急列車が停車していた。
 既に乗車が始まっており、自由席車両は旅行客と通勤客がものの見事に混在している。
 今日が金曜日ゆえの現象、そして混雑ぶりだろう。
 敷島達は悠々と、4号車のグリーン車に乗り込んだ。
 費用はどこから出ているのかは、【禁則事項です】。
 こういう特急列車だと、車端部に荷物置き場があるので助かる。
「敷島さん。自分、着くまで少し寝てようかと思います」
「その方がいいですよ。ヘタすりゃ、徹夜になりそうですからね。……新幹線でも?」
「そうですね。新幹線では普通車でしたが、一応少し寝てきましたよ」
「なるほど」
 平賀の乗った“やまびこ”152号は新型のE5系(“はやぶさ”車両)を使用しているので、普通車であっても旧型のE2系より広く、ピローも付いているので寝やすかっただろう。
「じゃあ、先生は窓側にどうぞ」
「すいませんね。敷島さんは?」
「私は井辺君とかともやり取りがあるので……電話したりするので、逆の通路側の方がいいかしれません」
「分かりました」
 平賀や敷島のすぐ後ろに、鋼鉄姉妹も座る。
「井辺さんは、まだお仕事を?」
 平賀が聞いて来た。
 敷島は頷きながら、
「明日から、例の新人達のミニライブなど、色々とやることがあるので、その準備に追われているんです。何か、全て彼に丸投げしているみたいで、申し訳無い気持ちだ」
「テロリスト共は、そんな事情など知りませんからね。いや、知った所で、何とも思わんでしょう。そういう連中ですから」
「ええ……。それは、そうかもしれません」
「早く敷島さんも自分も、本来の仕事に戻れるように、この作戦は成功させないといけませんからね」
「私もそう思います。……着いたら、起こしますので」
「ああ、いや……」
「?」
「1つ手前の停車駅に着いたら、起こしてください。寝ぼけた状態で降りるのも、アレですから」
「分かりました」
 平賀はグリーン席の深々と倒れる座席を倒し、上下式のブラインドを降ろした。

 20時10分。
 列車はアップテンポの発車メロディが何コーラスか流れた後、ほぼ定刻通り東京駅を発車した。
 車両の造りは特急列車だが、発車した場所や客層が通勤客だったりするものだから、特急というより通勤ライナーに乗ってる気分だ。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は総武本線、特別急行“しおさい”11号、銚子行きです。途中の停車駅は錦糸町、千葉、佐倉、八街(やちまた)、成東(なるとう)、横芝、八日市場(ようかいちば)、旭、飯岡です。【中略】次は、錦糸町です〕

「うーん……」
 平賀は眼鏡を外して、テーブルの上に置いた。
 車内の照明は間接照明で、はっきり言って薄暗い。
 地下だから、もしくは夜間だからわざと照度を落としているのかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。
 目の悪い人は、電車の外が暗い場合、座席の上にある読書灯を点けた方が良いくらいだ。
 但し、平賀のように仮眠したい者には向いているだろうと思うが、実際寝ようとすると、やっぱりそれでも眩しいらしい。
「あー、そうだ。シンディ」
「はい?」
「お前、確かフェイスタオル持ってたよな?」
「ええ」
「それ濡らしてきて、平賀先生の顔の上に載せて差し上げて。いいアイマスク代わりになるし、起きた時に目元もスッキリするだろう」
「なるほど。さすが社長」
 シンディは立ち上がって、荷棚に置いた方の荷物からフェイスタオルを出すと、それを持って洗面所へ向かった。
「……おっと。俺も、井辺君に電話してこないと」
 敷島はケータイを片手に、シンディが向かった後を追うようにしてデッキに出た。

「あー、もしもし。井辺君か?さっき、東京駅を出発したところだ」
{「お気をつけて。私は今、明日のミニライブに向けて準備を進めている所です」}
「申し訳無い。せっかくの新人達の晴れ舞台だというのに、全部キミに押し付けてるみたいで、この責任は……」
{「いえ、問題ないです。社長は社長で、作戦の方をお願いします」}
「偉い!さすが俺が見込んだだけのことはある。キミに仕事を押し付けてしまった責任は、今度行く先でテロリスト達に取らせるから」
「どうやって!?」
 ↑たまたまタオルを絞って戻る最中、敷島の横を通ったシンディ。突っ込みは忘れない。
「それで……新人達の調子はどうかな?」
{「はい。調整は進んでいます。かつて未夢さんが混乱してしまったような事態は防ぎます」}
「新人達のデビューライブだから、大して観客が多いわけではないのは当たり前だ。問題は、その少ない観客をどれだけ喜ばせられるかなんだ」
{「はい。彼女達に、改めて伝えておきます」}
「今は、何でもネットで情報が広まる時代だ。彼女達で喜んだ観客達が、自分のツールで拡散してくれるよ」
{「はい」}

 その他、色々なことを話しているうちに列車は地下区間を出た。
 窓に、雨粒が叩き付けられる音がするのが分かる。
 錦糸町駅に到着して、そこでも多くの乗客を乗せた。
 グリーン車でさえ、窓側席は全部埋まったくらいだ。
 錦糸町駅を出た頃、ようやく電話を終えた。

〔この電車は総武本線、特別急行“しおさい”11号、銚子行きです。次は、千葉です。【以下略】〕

 デッキから客室に入り、自分の座席に戻った敷島は、
「お、おい!シンディ……!」
 隣に座って寝ている平賀の状態を見て、言わずにはおれなかった。
「なに?」
「何じゃない!お、お前……これ、なぁ……」
 平賀の顔には、まるで臨終を迎えた患者のように、顔全体にタオルが掛けられていた。
「こうして欲しかったんだよっ!」
 敷島はタオルを畳み、ちょうど平賀の両目と鼻の上を覆うくらいの幅にして、改めて置いた。
「こう!」
「それならそうと早く言ってよ〜」
「俺が悪いのかよ……」
 ちゃんと自分の命令が理解できたか確認しなかった敷島にも落ち度はある。
 が、一応シンディのやり方には問題はあったものの、けして命令を完遂できなかったわけではない。

 列車は降りしきる雨の中、東に向かって複々線区間を突き進んだ。
コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“新アンドロイドマスター” 「雨の出発」

2015-06-12 00:07:51 | アンドロイドマスターシリーズ
[6月12日17:25.天候:雨 JR仙台駅・新幹線ホーム 平賀太一&エミリー]

 外は傘が必要な程の雨が降っていた。
 それでも新幹線のダイヤに乱れは無く、平賀とエミリーを乗せた“やまびこ”152号は、ほぼ定刻通りに発車した。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、東北新幹線“やまびこ”号、東京行きです。次は、福島に止まります。……〕

「夕食は駅弁か……。旅情はあるけど、味気無いなぁ……」
 平賀はそう呟きながら、仙台駅で購入した駅弁を開けた。
 こういう時、シンディとか敷島なら何か気の利いたセリフでも飛んでくるのだろうが、基本的に必要なことしか喋らないエミリーは黙って頷くだけだ。
 マルチタイプ1号機のエミリーこそ、南里志郎博士の若かりし頃に愛した女性を最もよく再現しているとされている。
 それなのに、頑なにロボット喋りのままにさせているのは、“不気味の谷現象”を越えた彼女に間違いを起こさない為だと平賀は思っている。
 思っている、というのは、ついに南里はその理由を明かさないまま急逝してしまったからだ。
 1番近くにいた弟子として、そう考えただけである。

〔「……終点、東京には19時24分、午後7時24分の到着です。尚、次の福島で、後から参ります“はやぶさ”“こまち”26号の通過待ち合わせを行います。……」〕

 何も無い時、エミリーなどはバッテリー温存の為、スリープ状態に入る。
 今、正にエミリーが目を閉じてその状態に入っているということは、逆に今は異状が発生していないということだ。
 これもまた、安心感の1つである。

[同日18:45.東京都江東区菊川 敷島孝夫&シンディ]

「社長、下にタクシーが着きましたよ」
 窓の外、新大橋通りを見ていた一海が敷島に声を掛けた。
「おーう。じゃあ、行ってくる」
「お気を付けて」
 すぐ近くではシンディが、
「行って来るからねぇ……。仲良くしてるのよー」
 リンのトレードマークである、頭の大きな白いリボンを結び直していた。
「もっちろん!」
 リンは片目を瞑って、右手の親指を挙げた。
 敷島とシンディはビルの1階に下りると、すぐ目の前に止まっていたタクシーに乗り込んだ。
「東京駅までお願いします」
「はい」
 タクシーが走り出す。
「平賀先生達は順調かな?」
「ええ。姉さんのGPSと列車ダイヤと照合してみると、秒単位での誤差しか出ていないね」
「そうか。そういえば、久しぶりじゃないか?エミリーと一緒に行動するのって?」
「そうねぇ……。一緒に歩くくらいならそんなブランクも無いけど、何か作戦で動くのは……そうだねぇ……。メモリーはあると思うけど、検索だけで数分掛かりそうだね」
「そんなに?」
「まあ、前期型からのメモリーもあるから……」
「それもそうか」
 前期型と見た目の設計は殆ど変わっていないのだが、心なしか目付きが変わったと言う者もいる。
 前期型が殺人も厭わない冷たい目をしていたのだが、後期型である今はだいぶ穏やかな目付きになったと。
 敷島にはどちらかというと、前期型は快楽殺人者のような、イッちゃった目をしていたというイメージなのだが。
 前期型のシンディはどちらかというと、あまり銃火器は使わず、接近戦によるナイフを使用した攻撃法を取ることが多かった。
 どうしても間合いが取れないという時だけ、離れた所から右手に仕込まれたライフルを使う程度だ。
 これは彼女が旧ソ連時代、政敵などの暗殺を主に引き受けていた頃の名残だ。
 対してエミリーは、マシンガンやショットガンをよく使う。
 エミリーの昔の役目は、反乱分子の粛清だからだ。
 一応、右足の脛には大型ナイフを収納できるスペースが後期型になってもあるが、エミリーはそこに折り畳み傘なんか入れている。
 シンディの場合は……。
「はい」
「何で、ダーツが入ってるんだ???」
 ダーツが何本か入っていた。
 敷島は、それ以上突っ込まないことにした。
 確か、アリスがナイフの代わりに仕込んだと言っていたのを思い出したからだ。
(あいつの発明か何かだろうから、ロクでもない物且つとんでもない効果をもたらすと見た)
 そう思ったので、話題を変えた。
「そういえば、相変わらずボーカロイドの中ではリンとレン……特にリンを気に掛けてるな?何か気になることでもあるのか?」
「別に。ただ、あのコ達、姉弟でしょう?私もエミリーとは姉妹だから、何となく親近感があるだけよ」
「なるほど。南里所長がサプライズで作ったのがレンだからな。確か、リンとレンだけは平賀先生も手伝っているはずだな……」
「というより、殆ど助手でしょう?ドクター南里の作る所をほぼ見学していて、部品や工具の手渡しくらいしかやってなかったって話よ?」
 その頃の平賀はもちろん既に大学院を卒業し、博士号を取得していた。
 すぐに引き続き南里に師事し続けたわけだが、その気になればボーカロイドを1人で作れる技術は持ち合わせていたとされる。
 積極的に制作に関わらなかったのは、ボーカロイドの存在意義について見出せなかったからだと敷島はかつて本人から聞いた。
 メイドロボットのような実用的なものを優先的に制作するべきで、歌って踊るだけのボーカロイドを制作する意味は無いという考えだった。
 その後、リンとレンのプロデュースをしていた奈津子、更にその後やってきた敷島のプロデュースのおかげで、考えを改めている。
「ロイドの存在を世間にもっと良く知ってもらう為に、ボーカロイドというのもまた有りなのだろう」
 といった感じに。

 これから海に向かうが、今のマルチタイプ達は海水に対する耐性はあるし、一応現地でそれなりの装備をしていくつもりである。
「まだドクター平賀、私のことを全部信用してくれていない。前期型の所業からしてみれば、しょうがないけど。だから、この任務で信用勝ち取らないと、だよね」
 シンディはこのように、目標を語った。
「? ああ、そうだな」
 この時は、どうしてシンディがそんなこと言ったのか、敷島には理解できなかった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする