[6月12日22:30.天候:風雨 千葉県銚子市・銚子漁港 敷島孝夫、平賀太一、エミリー、シンディ、村中課長]
雨風叩きつける銚子漁港に、1台のパトカーが止まる。
警らなどに使われるセダンタイプではなく、ワンボックスタイプだ。
そこから降りてきたのは、敷島達。
「遅かったな、キミ達……」
レインコートを着用した村中が敷島達を出迎えた。
「バックレるよりマシでしょう?電車がこの天候で遅れたんですよ。佐倉から先が単線区間だったこと、すっかり忘れてましたよ」
敷島は肩を竦めて答えた。
「鷲田警視は?」
平賀は答えた。
「警視庁の大幹部は、ここまで来ませんよ」
村中は苦笑して答えた。
「いやいやいや!あなたも幹部でしょう?」
平賀は村中より強い苦笑で返した。
スーツ姿でいることが多い鷲田警視に対して、村中は制服でいることが多い。
帽子までは被っていることは少ないが、そこは庁舎内で会うことが多いからだろうか。
今は帽子まで被っているようだが、レインコートのフードで隠れている。
制服の階級章を見ると、警部に見えるが……。
「それより、漁船をチャーターしているので、早く乗ってください」
「了解、行きましょう」
村中がセパレートタイプの白いレインコートに対して(警察支給品か)、敷島と平賀は半透明ビニールタイプのロングコートである。
連れて来たマルチタイプ達はレインコートではなく、ウェットスーツを着ていた。
足元のブーツも超小型ジェットエンジンではなく、水中戦も考えて、超小型スクリューに換えている。
[同日23:30.天候:風雨 千葉県・太平洋沖 上記メンバー]
船は遊漁船であった。
即ち、海釣り客を乗せて、1日かけて釣りポイントを回る釣り船である。
これならテロリスト達の乗る貨物船に接近しても、向こうからは地元の漁船が漁業に来ているようにカモフラージュするわけだ。
まさか、警察関係の船とは思うまいと。
この天候だ。
船は大きく揺れ、乗り物に弱い人間はたちまち船酔いを起こすことだろう。
しかし乗り物に強い2人、特に敷島は臆することなく、平賀は若干テンションが低くなったものの、大した酔いをしているようには見えなかった。
「村中課長も、この揺れは平気みたいですね」
船室の中で敷島が呟いた。
「村中課長、どこかの漁村の出身らしいですよ。子供の頃から、こういった荒波を走る船によく乗っていたそうで」
と、平賀。
「凄い経歴だ……」
敷島は肩を竦めた。
その敷島もウェットスーツに着替えていた。
テロリスト達の乗る貨物船に、彼女らと同行する為だ。
平賀はこの船に残る為、せいぜいライフジャケットしか身に着けていない。
机の上には衝撃や水没にも耐えられるような、見た目にゴツいノートPCが広げられていて、そこに船の情報が出ていた。
外国船籍の貨物船はベタな法則だが、意外と大きな船のようだ。
PCの情報によると、どこかの船会社が老朽化によって廃船にしようとした所をテロ組織が引き取ったらしい。
廃船寸前だから、引き取り額は二束三文だったか。
「キミ達」
外から船室のドアを叩く音がした。
レインコートの上にライフジャケットを羽織った村中だった。
外に出てみると、遠くに大きな船が見えた。
「見えてきたよ。あれがテロ組織KR団が航行していると見られる貨物船、“スター・オブ・イースタン”号だ」
「日本語にすると、“東方之星”か。縁起悪いな」
と、敷島は首を傾げながら言った。
「えっ、どうしてです?」
平賀は眼鏡を掛け直して聞いた。
「中国・長江で沈んだ船と、和名が同じです」
「あっ!」
「村中課長、もし沈没しそうになったら救助を頼みますよ?」
「もちろんそれについては考えている。だが、なるべくならその事態が無いようにして頂きたい。あの船には組織の全容……とまでは行かなくても、必ず何かしらの手かがりがあるはずだ。できることならテロリスト全員を捕縛して、船ごと押収したいところなんだがね。まあ、まずは船内の調査と、あの船に積まれていると思われるマルチタイプを押さえてください」
「分かりました。俺とエミリーは船尾から潜入する。シンディは船首から潜入してくれ」
「分かったわ」
船の大きさは豪華客船ほどではない。
この近くに航路を持つ太平洋フェリーよりも小さいように思われた。
だが、東京湾フェリーよりは明らかに大きい。
そんな感じの船だ。
[6月13日00:00.天候:風雨 貨物船“スター・オブ・イースタン”号・船尾付近 敷島孝夫&エミリー]
{「こちらシンディ。船首甲板に潜入。付近に人影は無いもよう」}
「了解だ。こちらも船尾に潜にゅ……うわっ!」
ザッパーン!(高波を受けて大きく揺れる船。足を取られて転倒する敷島)
ゴーン!ゴーン!ゴーン!
「うわっ、びっくりした!」
船の大きな揺れで、船尾にある銅鑼が鳴りまくっている。
豪華客船が出航時にそれを鳴らすのは敷島も知っているが、貨物船も付いているのか?
それとも、元々は客船だった?
「……とにかく、中に入ろう」
扉は施錠されておらず、中に入ることができた。
中はとても薄暗い。
老朽化しているせいなのか、それとも貨物船だから地味なせいなのか、雰囲気も不気味だ。
「何か出そうな感じだな……」
次の部屋に向かう。
「こんな時間だから、多くのクルーは寝ているだろうが……」
しかし、荷物室の通路の先に人の気配を感じた。
壁に向かって座り込んでいる。
「あんな所で寝てるのか?気づかずに通るのは難しそうだな……」
「私に・お任せ・ください」
エミリーが左手を出した。
左手からは高圧電流を流すことができる。
その強さは自由に調節することができ、相手を感電死させることもできるし、スタンガンのように気絶させるだけということもできる。
エミリーは対象者にゆっくり近づいたが、ピタッと立ち止まった。
「どうした、エミリー?」
「敷島・社長、生命反応が・ありません」
「はあ?」
振り向いて答えたエミリーに、敷島は素っ頓狂な声を上げた。
そして、敷島が警戒棒を片手に対象者に近づいた。
敷島も一応は一般人である為、銃の所持は認められていないが、さすがに危険なので、警備員と同様の警戒棒だけ持つことが許されている。
トンファーを片手に、ゆっくりと近づく。
「おい」
座り込んでいる対象者の肩を叩くと、それはドサッと崩れ落ちた。
よく見ると、周辺に血が飛び散っている。
「本当に死んでる。何だぁ?」
敷島は目を丸くした。
武装していることから、ただの船員ではなく、テロリストの1人と見ていいだろうが……。
調べてみたが、出て来たのは弾が空になったハンドガンだけだった。
予備の弾も無い。
「何か、内ゲバでもあったのかな?それで応戦したものの、弾切れになり、射殺された?」
敷島は首を傾げて推理した。
しかし、それでもしっくり来ない。
その時、シンディから無線が飛んできた。
{「こちらシンディ。船橋に到着。だけど、クルーが誰もいないわ」}
「何だって?」
{「今、自動航行になってるけど、どうする?」}
「ああ、一応止めてくれ」
{「了解」}
「クルーが誰もいないだぁ?いくら自動航行機能付きとはいえ、見張りくらいいるだろ?やっぱりこの船、何かあったみたいだな」
ほどなくして、船が止まるような感じがした。
敷島達のいる貨物室から外は見えないので、確認はできないが。
「とにかく、先へ進もう」
「はい」
敷島達は、次のドアを開けた。
そこは非常口の誘導灯や消火栓の赤ランプしか点灯していないほど暗い共用廊下になっていた。
「……夜中だから静かなのは当たり前だが、静まり返り過ぎているな」
バァン!(突然、近くのドアが勢い良く開けられる)
「!!!」
「何者・だ?」
敷島とエミリーは同時に、その方向を見た。
そこにいたのは……!
雨風叩きつける銚子漁港に、1台のパトカーが止まる。
警らなどに使われるセダンタイプではなく、ワンボックスタイプだ。
そこから降りてきたのは、敷島達。
「遅かったな、キミ達……」
レインコートを着用した村中が敷島達を出迎えた。
「バックレるよりマシでしょう?電車がこの天候で遅れたんですよ。佐倉から先が単線区間だったこと、すっかり忘れてましたよ」
敷島は肩を竦めて答えた。
「鷲田警視は?」
平賀は答えた。
「警視庁の大幹部は、ここまで来ませんよ」
村中は苦笑して答えた。
「いやいやいや!あなたも幹部でしょう?」
平賀は村中より強い苦笑で返した。
スーツ姿でいることが多い鷲田警視に対して、村中は制服でいることが多い。
帽子までは被っていることは少ないが、そこは庁舎内で会うことが多いからだろうか。
今は帽子まで被っているようだが、レインコートのフードで隠れている。
制服の階級章を見ると、警部に見えるが……。
「それより、漁船をチャーターしているので、早く乗ってください」
「了解、行きましょう」
村中がセパレートタイプの白いレインコートに対して(警察支給品か)、敷島と平賀は半透明ビニールタイプのロングコートである。
連れて来たマルチタイプ達はレインコートではなく、ウェットスーツを着ていた。
足元のブーツも超小型ジェットエンジンではなく、水中戦も考えて、超小型スクリューに換えている。
[同日23:30.天候:風雨 千葉県・太平洋沖 上記メンバー]
船は遊漁船であった。
即ち、海釣り客を乗せて、1日かけて釣りポイントを回る釣り船である。
これならテロリスト達の乗る貨物船に接近しても、向こうからは地元の漁船が漁業に来ているようにカモフラージュするわけだ。
まさか、警察関係の船とは思うまいと。
この天候だ。
船は大きく揺れ、乗り物に弱い人間はたちまち船酔いを起こすことだろう。
しかし乗り物に強い2人、特に敷島は臆することなく、平賀は若干テンションが低くなったものの、大した酔いをしているようには見えなかった。
「村中課長も、この揺れは平気みたいですね」
船室の中で敷島が呟いた。
「村中課長、どこかの漁村の出身らしいですよ。子供の頃から、こういった荒波を走る船によく乗っていたそうで」
と、平賀。
「凄い経歴だ……」
敷島は肩を竦めた。
その敷島もウェットスーツに着替えていた。
テロリスト達の乗る貨物船に、彼女らと同行する為だ。
平賀はこの船に残る為、せいぜいライフジャケットしか身に着けていない。
机の上には衝撃や水没にも耐えられるような、見た目にゴツいノートPCが広げられていて、そこに船の情報が出ていた。
外国船籍の貨物船はベタな法則だが、意外と大きな船のようだ。
PCの情報によると、どこかの船会社が老朽化によって廃船にしようとした所をテロ組織が引き取ったらしい。
廃船寸前だから、引き取り額は二束三文だったか。
「キミ達」
外から船室のドアを叩く音がした。
レインコートの上にライフジャケットを羽織った村中だった。
外に出てみると、遠くに大きな船が見えた。
「見えてきたよ。あれがテロ組織KR団が航行していると見られる貨物船、“スター・オブ・イースタン”号だ」
「日本語にすると、“東方之星”か。縁起悪いな」
と、敷島は首を傾げながら言った。
「えっ、どうしてです?」
平賀は眼鏡を掛け直して聞いた。
「中国・長江で沈んだ船と、和名が同じです」
「あっ!」
「村中課長、もし沈没しそうになったら救助を頼みますよ?」
「もちろんそれについては考えている。だが、なるべくならその事態が無いようにして頂きたい。あの船には組織の全容……とまでは行かなくても、必ず何かしらの手かがりがあるはずだ。できることならテロリスト全員を捕縛して、船ごと押収したいところなんだがね。まあ、まずは船内の調査と、あの船に積まれていると思われるマルチタイプを押さえてください」
「分かりました。俺とエミリーは船尾から潜入する。シンディは船首から潜入してくれ」
「分かったわ」
船の大きさは豪華客船ほどではない。
この近くに航路を持つ太平洋フェリーよりも小さいように思われた。
だが、東京湾フェリーよりは明らかに大きい。
そんな感じの船だ。
[6月13日00:00.天候:風雨 貨物船“スター・オブ・イースタン”号・船尾付近 敷島孝夫&エミリー]
{「こちらシンディ。船首甲板に潜入。付近に人影は無いもよう」}
「了解だ。こちらも船尾に潜にゅ……うわっ!」
ザッパーン!(高波を受けて大きく揺れる船。足を取られて転倒する敷島)
ゴーン!ゴーン!ゴーン!
「うわっ、びっくりした!」
船の大きな揺れで、船尾にある銅鑼が鳴りまくっている。
豪華客船が出航時にそれを鳴らすのは敷島も知っているが、貨物船も付いているのか?
それとも、元々は客船だった?
「……とにかく、中に入ろう」
扉は施錠されておらず、中に入ることができた。
中はとても薄暗い。
老朽化しているせいなのか、それとも貨物船だから地味なせいなのか、雰囲気も不気味だ。
「何か出そうな感じだな……」
次の部屋に向かう。
「こんな時間だから、多くのクルーは寝ているだろうが……」
しかし、荷物室の通路の先に人の気配を感じた。
壁に向かって座り込んでいる。
「あんな所で寝てるのか?気づかずに通るのは難しそうだな……」
「私に・お任せ・ください」
エミリーが左手を出した。
左手からは高圧電流を流すことができる。
その強さは自由に調節することができ、相手を感電死させることもできるし、スタンガンのように気絶させるだけということもできる。
エミリーは対象者にゆっくり近づいたが、ピタッと立ち止まった。
「どうした、エミリー?」
「敷島・社長、生命反応が・ありません」
「はあ?」
振り向いて答えたエミリーに、敷島は素っ頓狂な声を上げた。
そして、敷島が警戒棒を片手に対象者に近づいた。
敷島も一応は一般人である為、銃の所持は認められていないが、さすがに危険なので、警備員と同様の警戒棒だけ持つことが許されている。
トンファーを片手に、ゆっくりと近づく。
「おい」
座り込んでいる対象者の肩を叩くと、それはドサッと崩れ落ちた。
よく見ると、周辺に血が飛び散っている。
「本当に死んでる。何だぁ?」
敷島は目を丸くした。
武装していることから、ただの船員ではなく、テロリストの1人と見ていいだろうが……。
調べてみたが、出て来たのは弾が空になったハンドガンだけだった。
予備の弾も無い。
「何か、内ゲバでもあったのかな?それで応戦したものの、弾切れになり、射殺された?」
敷島は首を傾げて推理した。
しかし、それでもしっくり来ない。
その時、シンディから無線が飛んできた。
{「こちらシンディ。船橋に到着。だけど、クルーが誰もいないわ」}
「何だって?」
{「今、自動航行になってるけど、どうする?」}
「ああ、一応止めてくれ」
{「了解」}
「クルーが誰もいないだぁ?いくら自動航行機能付きとはいえ、見張りくらいいるだろ?やっぱりこの船、何かあったみたいだな」
ほどなくして、船が止まるような感じがした。
敷島達のいる貨物室から外は見えないので、確認はできないが。
「とにかく、先へ進もう」
「はい」
敷島達は、次のドアを開けた。
そこは非常口の誘導灯や消火栓の赤ランプしか点灯していないほど暗い共用廊下になっていた。
「……夜中だから静かなのは当たり前だが、静まり返り過ぎているな」
バァン!(突然、近くのドアが勢い良く開けられる)
「!!!」
「何者・だ?」
敷島とエミリーは同時に、その方向を見た。
そこにいたのは……!