報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「ロイドのお医者さん」

2015-06-02 19:33:06 | アンドロイドマスターシリーズ
[6月3日17:30.敷島エージェンシー 平賀太一]

 秋葉原のホテルに荷物を置いてきた後、敷島の事務所を訪れた平賀は、そこでボカロ達の体調チェックなんかを始めた。
 実は意外にも、ボカロの製作に平賀は関わっていない。
 平賀が一手に製作してきたのはメイドロボットであり、アリス・オリジナルのバージョン・シリーズであるマリオとルイージに関してはノータッチ(但し、整備の様子などは見学したことがある)、マルチタイプもエミリーを相続したというだけで、オリジナルの物を作ったことはない。
 それでもメイドロボットの設計から製作、そしてエミリーの新ボディを作れる技術を持ち合わせているだけあって、ボカロの整備なら簡単にできる。
「レンはそろそろ、頭の取り外しができないようにしておくか?もう、そういうミュージカルには出ないんだろう?」
「そうですねぇ……。ボクの一存では……」
「改造は誰がしたんだっけ?」
「南里博士です」
「南里先生か。それじゃ、敷島夫人の所に、その時の資料があるかもしれないな。後で問い合わせよう。……はい、腕の補修終わり」
「ありがとうございます!」
「はい、次!」
「め、巡音ルカです。よ、よろしくお願いします。えーと……」
「うん?右足の付け根が軋んでいるみたいだな」
「そ、そうなんです」
「じゃ、そこに横になって。……あ?もしかしてダンスの時とか、右足をヤッたりしなかったか?」
「そ、そうかもしれません」
「しょうがないな。……七海、電動ドライバーとエアブラシ。それから……」
「はい!」

「まるで、医者と患者だな。で、七海は看護師か」
 霞ケ関から戻って来た敷島は、整備室と化したロイドの休憩室を覗いて、そう呟いた。
「しっかし、東京に着いて早々、ボカロの整備なんて凄い博士だ」
「平賀博士は、好きでやってるのよ。ねえ?姉さん」
「イエス」
 シンディは右手を腰にやりながら、横にいる姉機に振った。

「先生、そろそろ夕食会に行きませんかー?」
 敷島が声を掛ける。
「おー、こりゃすいません。後はリンだけなんですが……」
「じゃあ、リンが終わったら行きましょう」
「鏡音リンでーす!よろしくお願いします!」
「良かったな?新宿のカフェのオーナーがいい人で。普通だったら、事務所としてそんな迷惑掛けたタレントは干すぞ?」
「ゴメンなさーい……」
「で、調子の悪い所はどこだ?」
「最近、充電すると“眠くなる”んですけどぉ……」
「それでいいんだよ!」
「仕様だ!過充電防止の為の!」
 人間の健康診断みたいに、目(カメラ)の作動状況を調べたり、集音器(耳)の作動状況を調べたり……。
「はい、口開けて」
「あん……」
 人間だったらアイスの棒みたいなヤツで口の中を調べるところだが、ロイドの場合は普通にドライバーで調べている。
 が、ライトで照らす辺りは人間と一緒。
「……奥のシャフトに若干の歪みと、周辺の基盤に緩みがあるな。もしかして最近、感情レイヤーの動作に怪しい所があったが、これのせいか?」
「どうもおかしいと思ったんです。いきなり、『大人の仕事がしたい』なんて言い出して、Lilyの暴走に付き合ったりして……」
 平賀の診断に、敷島も頷いた。
「Lilyの場合、特に異常はありませんよ。あの感情レイヤーの動作は、当然の結果です」
「井辺君、早いとこ彼女達にCDデビューの話を……」
「すいません。手遅れでした」
「……って、おい!七海なにやってんだ!?」
「ふえっ!?」
 七海は電動ドライバーをリンの頭上に向けていた。
 リンも驚く。
「あの……頭の基盤が緩んでるって……?」
「リンの口の中だYo!?頭じゃないYo〜!」
「お前はまた頭のネジを締め直した方が良さそうだなっ、ああっ!?」

[同日19:00.JR錦糸町駅ビル・テルミナ 敷島、平賀、井辺、シンディ、エミリー]

「ここからなら、お戻りは総武線1本で大丈夫です」
「そこまで考えて下さるとは……。しかも、ヨドバシカメラまである」
「エミリーの改造パーツでも探します?」
「深いものでしたら、秋葉原の方がいいかもですね」
「じゃあ、ここで2人を“解放”しますか」
「はい。2人とも、俺達は5階のレストラン街で夕食会を行う。ここのヨドバシでパーツに使えそうなものがあったら、探して購入していい」
「イエス。ドクター平賀」
「ありがとうございます」
(最終日は、もっと店舗のデカい新宿本店かアキバのどっちかを漁りそうだな、この博士は……)
 と、敷島は思い、井辺は井辺で、
(シンディさん達の部品の一部は、家電製品の部品を流用しているのでしょうか……?)
 と、思ったという。
「じゃ、行くぞ、井辺君」
「はい」
「私達も“燃料補給”と行きますか」
「お手柔らかに……」

[同日19:15.テルミナ5F・飲食店 敷島、平賀、井辺]

「それじゃ、乾杯!」
「カンパーイ!」
「お疲れさまです」
 取りあえずビールは、ベタ過ぎる法則だ。
「そういえばこの店、まだ十条の爺さんがまともだった頃に入ったことがあるな」
「そういえば十条博士が借りていたマンションは、敷島さんの事務所のすぐ近くでしたね」
「その隣のマンションですよ。私が、マンスリー契約してるのは」
「凄い縁だ……。あれ?井辺プロデューサーは、どちらにお住まいなんですか?」
「実家は岩槻です。今は、さいたま市岩槻区になりましたが」
「そこから通うのも大変ですね」
「ええ。ですので、この近くにアパートを借りました」
「……はい?」
「この近くにアパートを借りて、事務所まで都バスで通っています」
「そうなんですよ、平賀先生。井辺君の親戚が、スカイツリー周辺でアパートやマンションをいくつか経営しているって話で、安く入ったらしいんですよ」
「凄いコネですね。……それで敷島さん、霞ケ関の方はどうでした?」
「経産省は、やっぱりマルチタイプよりボーカロイド推しが凄いですね。あれによる利権を狙ってるんだか何だか知らないけど……」
「マルチタイプは?経産省だと、原発関係も含まれてるのでは?」
「ダメですね。原発除染作業に打ってつけだとプレゼンしたんですが、元が結局テロ推進ロボットだったり、そもそも旧ソ連で開発されたものというのが気に入らないみたいで。『いつ暴走して、余計事態が悪化した際の責任はどうするんだ?』の1点張りで……」
「まあ、気持ちは分からなくはないです。でもエミリーならボディも自分が作りましたし、多分大丈夫だと思うんですが……」
「その『多分』というのが、もっと気に入らないみたいです」
「これじゃ、いつまで経っても解決できるわけがない……」
「今度は防衛省に行ってきます。多分、マルチタイプを尖閣諸島辺りに配置させたいとでも言ってくるでしょうが」
「旧ソ連製なんだから、エミリー達を北方領土に向けて、多いなる嫌味を持ってロシア政府にPRするという手もアリだと思いますがね」
「プーチン大統領がプチッとキレて、『よろしい。ならぱ戦争だ』と言ってくるかも……」
「どこかで聞いたセリフですなぁ……」
「いや、しかし!マジで、皮肉どころの騒ぎじゃないですよ!エミリーとシンディはKGBが保有していたんでしょう?」
「KGBだったり、旧ソ連軍の兵器としての扱いだったりと、いくつか所属が変わっていたようですが……」
「プーチン大統領はKGB出身だから、尚更イヤミにも程があるでしょうなぁ……」
「日露の架け橋どころか、その橋を落とす存在か……。怖いな」

 旧ソ連時代の黒歴史過ぎる存在の為、現ロシア政府もマルチタイプのことには何も言及してこないという……。
コメント (8)
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