[6月20日10:29.JR藤野駅 敷島孝夫、初音ミク、シンディ]
〔まもなく藤野、藤野。お出口は、右側です〕
〔「お降りの際、電車のドアは自動では開きませんので、ドア横のボタンを押してお降りください」〕
断続的に続くトンネルを出て、ようやく電車は目的地の駅に到着した。
高尾から西は、電車のドアは半自動ドアとなる。
東北地方などでは当たり前だが、東京側しか利用しない乗客には用途不明のドアボタンが、この辺りから使われるわけだ。
尚、都内でも上野駅始発の宇都宮線と高崎線が夏期に冷房効果維持の為、半自動にしていることがある(冬期も暖房効果維持の為に行うことがある)。
〔ふじの〜、藤野〜。ご乗車、ありがとうございます〕
「はあ……。ここ?」
「ここみたいね」
「ここですね」
敷島は電車を降りて呆気に取られた。
電車はそんな敷島などお構いなく、すぐにドアを閉めて発車していった。
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(JR藤野駅ホーム。セマーイ!)
ホームが狭いのは、北側は崖、南側は段々畑のような所に家が建っている。
つまり、駅のある場所も平坦な所がギリギリだということだ。
「と、とにかく、行こう!」
駅のホームは狭く、土地もギリギリなせいか、改札口への階段も東京側に偏った所に1ヶ所あるだけ。
エスカレーターは無いが、エレベーターはあった。
何とかこれで、バリアフリーの体裁を取っているのだろう。
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(藤野駅の正面。背後は緑に覆われているが、崖になっているのが分かる)
駅を出ても目の前には急な階段がある。
「こんなお年寄りには住みにくそうな場所をよく選んだもんだ、達夫の爺さんはァ……」
敷島は感心というか、半ば呆れた様子で駅前の階段を下りた。
「逆に、そういう所にまさか住んでいるわけがないって狙いなのかもね」
と、シンディ。
「うーん……。そんなもんかなぁ……って、タクシーも居やがらねぇ……」
「ちょっと待って。バス路線が無いか、検索してみる」
「あっ、わたし、やってみます」
ミクが右手を挙げた。
ミクがまだデビューする前、フィールドテストの際にはそれで敷島と長距離を移動したものだ。
今でこそミクは他のメンバーと同じく敷島を社長と呼ぶが、その前は一貫して『たかおさん』であった。
敷島がプロデューサーとなる前からの付き合いだった名残だ。
つまり、ミクが1番の古参なのである。
だが、そんなミクの提案をブチ破る者が現れた。
「! 誰!?」
シンディが両目をギラッと光らせて右側を向いた。
さすがに右手をいきなり銃火器に変化させることは、場所柄控えたが。
「お、驚かせてしまって、申し訳ありません」
そこにいたのは黒いスーツを着た長身の男だった。
見た目20代前半だから、井辺くらいの歳か。
サラリーマンとか就活生とかいうよりは、どこかのホテルのフロントマンといった感じだが……。
「私は十条達夫博士の言い付けでお迎えに上がりました、リカルド・ブラウンと申します。以後、お見知り置きのほどを……」
恭しく頭を下げるリカルドと名乗る男。
名字の通り、髪の色は焦げ茶色だ。
長くは伸ばしておらず、ソフトモヒカンに近い。
「……ロイドね。用途は何なの?」
シンディは警戒を解かずに問うた。
「執事です」
「ああ!それで、名字が色なのか!キール・ブルーみたいに」
「はい」
「……まあ、いいわ。よろしく」
シンディは右手の青い手袋を取った。
エミリーのは運転手やホテルマンなどが付けているような白手袋だが、シンディは肘まで保護されているものだ。
右手の掌の中央には、赤外線通信のレンズがある。
「よろしくお願いします」
リカルドも白手袋を取って、同じく右手を付き合わせた。
見た目はまるでハイタッチである。
しかし、これでロイド同士の挨拶、名刺交換のようなものである。
犬が互いに尻の臭いを嗅ぎ合うのと同じというか……。
マルチタイプ(女性型)はメイドロボットの用途もできる為、似た仕事を行う執事ロボットとも通じる物があるのだろう。
「では、こちらです」
「……え?歩き?」
「車を御用意しています」
「何だ」
といっても、それはタクシー。
達夫がどうせ駅前にタクシーがいないのを見越して、家からタクシーを呼んリカルドを向かわせたのだろう。
[同日10:50.神奈川県相模原市緑区 敷島孝夫、初音ミク、シンディ、リカルド・ブラウン、十条達夫]
山梨県に入ったのかと思った敷島だったが、実際の住所は神奈川県だというから驚きだ。
もっとも、すぐそこが山梨県であり、県境に住んでいるとのことだ。
実はマルチタイプにしろ、他のロイドにしろ、GPSの都合上、県を越えると地図更新のため、幾ばくかの検索ブランクが発生するという。
つまり、一瞬の足止めだ。
もし仮に達夫がマルチタイプやバージョン・シリーズを送り込まれても、隣の山梨県や東京都に逃げ込めば、多少の雲隠れができるという算段だそうだ。
よく考えたものだ。
東京都まで電車で2駅、山梨県へは電車で1駅なのだから。
「そういえば相模湖駅に着くまでの間、『No Data』になっちゃったねぃ……」
と、シンディ。
トンネルが断続的に続く場所、つまり電波の入りにくい場所ということもあり、データが取得できた場所は何とか開けた所にある相模湖駅に接近してから。
7〜8分くらいだ。
その間、達夫に対しては目視でしか追跡できなくなるため、上手い事隠れられれば、逃げおおせると考えたのだろう。
(もっとも、アタシなら見失った場所に弾幕を張って、いぶり出してやるけどね……)
シンディは“心の中”で笑った。
「もう、まもなくですよ」
助手席に座るリカルドは、後ろに座る3人に向かって言った。
「ほお……。ん?ここは……」
十条達夫の新しい居宅兼研究所(?)。
その佇まいは……。
〔まもなく藤野、藤野。お出口は、右側です〕
〔「お降りの際、電車のドアは自動では開きませんので、ドア横のボタンを押してお降りください」〕
断続的に続くトンネルを出て、ようやく電車は目的地の駅に到着した。
高尾から西は、電車のドアは半自動ドアとなる。
東北地方などでは当たり前だが、東京側しか利用しない乗客には用途不明のドアボタンが、この辺りから使われるわけだ。
尚、都内でも上野駅始発の宇都宮線と高崎線が夏期に冷房効果維持の為、半自動にしていることがある(冬期も暖房効果維持の為に行うことがある)。
〔ふじの〜、藤野〜。ご乗車、ありがとうございます〕
「はあ……。ここ?」
「ここみたいね」
「ここですね」
敷島は電車を降りて呆気に取られた。
電車はそんな敷島などお構いなく、すぐにドアを閉めて発車していった。
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(JR藤野駅ホーム。セマーイ!)
ホームが狭いのは、北側は崖、南側は段々畑のような所に家が建っている。
つまり、駅のある場所も平坦な所がギリギリだということだ。
「と、とにかく、行こう!」
駅のホームは狭く、土地もギリギリなせいか、改札口への階段も東京側に偏った所に1ヶ所あるだけ。
エスカレーターは無いが、エレベーターはあった。
何とかこれで、バリアフリーの体裁を取っているのだろう。
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(藤野駅の正面。背後は緑に覆われているが、崖になっているのが分かる)
駅を出ても目の前には急な階段がある。
「こんなお年寄りには住みにくそうな場所をよく選んだもんだ、達夫の爺さんはァ……」
敷島は感心というか、半ば呆れた様子で駅前の階段を下りた。
「逆に、そういう所にまさか住んでいるわけがないって狙いなのかもね」
と、シンディ。
「うーん……。そんなもんかなぁ……って、タクシーも居やがらねぇ……」
「ちょっと待って。バス路線が無いか、検索してみる」
「あっ、わたし、やってみます」
ミクが右手を挙げた。
ミクがまだデビューする前、フィールドテストの際にはそれで敷島と長距離を移動したものだ。
今でこそミクは他のメンバーと同じく敷島を社長と呼ぶが、その前は一貫して『たかおさん』であった。
敷島がプロデューサーとなる前からの付き合いだった名残だ。
つまり、ミクが1番の古参なのである。
だが、そんなミクの提案をブチ破る者が現れた。
「! 誰!?」
シンディが両目をギラッと光らせて右側を向いた。
さすがに右手をいきなり銃火器に変化させることは、場所柄控えたが。
「お、驚かせてしまって、申し訳ありません」
そこにいたのは黒いスーツを着た長身の男だった。
見た目20代前半だから、井辺くらいの歳か。
サラリーマンとか就活生とかいうよりは、どこかのホテルのフロントマンといった感じだが……。
「私は十条達夫博士の言い付けでお迎えに上がりました、リカルド・ブラウンと申します。以後、お見知り置きのほどを……」
恭しく頭を下げるリカルドと名乗る男。
名字の通り、髪の色は焦げ茶色だ。
長くは伸ばしておらず、ソフトモヒカンに近い。
「……ロイドね。用途は何なの?」
シンディは警戒を解かずに問うた。
「執事です」
「ああ!それで、名字が色なのか!キール・ブルーみたいに」
「はい」
「……まあ、いいわ。よろしく」
シンディは右手の青い手袋を取った。
エミリーのは運転手やホテルマンなどが付けているような白手袋だが、シンディは肘まで保護されているものだ。
右手の掌の中央には、赤外線通信のレンズがある。
「よろしくお願いします」
リカルドも白手袋を取って、同じく右手を付き合わせた。
見た目はまるでハイタッチである。
しかし、これでロイド同士の挨拶、名刺交換のようなものである。
犬が互いに尻の臭いを嗅ぎ合うのと同じというか……。
マルチタイプ(女性型)はメイドロボットの用途もできる為、似た仕事を行う執事ロボットとも通じる物があるのだろう。
「では、こちらです」
「……え?歩き?」
「車を御用意しています」
「何だ」
といっても、それはタクシー。
達夫がどうせ駅前にタクシーがいないのを見越して、家からタクシーを呼んリカルドを向かわせたのだろう。
[同日10:50.神奈川県相模原市緑区 敷島孝夫、初音ミク、シンディ、リカルド・ブラウン、十条達夫]
山梨県に入ったのかと思った敷島だったが、実際の住所は神奈川県だというから驚きだ。
もっとも、すぐそこが山梨県であり、県境に住んでいるとのことだ。
実はマルチタイプにしろ、他のロイドにしろ、GPSの都合上、県を越えると地図更新のため、幾ばくかの検索ブランクが発生するという。
つまり、一瞬の足止めだ。
もし仮に達夫がマルチタイプやバージョン・シリーズを送り込まれても、隣の山梨県や東京都に逃げ込めば、多少の雲隠れができるという算段だそうだ。
よく考えたものだ。
東京都まで電車で2駅、山梨県へは電車で1駅なのだから。
「そういえば相模湖駅に着くまでの間、『No Data』になっちゃったねぃ……」
と、シンディ。
トンネルが断続的に続く場所、つまり電波の入りにくい場所ということもあり、データが取得できた場所は何とか開けた所にある相模湖駅に接近してから。
7〜8分くらいだ。
その間、達夫に対しては目視でしか追跡できなくなるため、上手い事隠れられれば、逃げおおせると考えたのだろう。
(もっとも、アタシなら見失った場所に弾幕を張って、いぶり出してやるけどね……)
シンディは“心の中”で笑った。
「もう、まもなくですよ」
助手席に座るリカルドは、後ろに座る3人に向かって言った。
「ほお……。ん?ここは……」
十条達夫の新しい居宅兼研究所(?)。
その佇まいは……。