[6月13日04:50.天候:晴 JR銚子駅・総武本線ホーム 敷島孝夫、平賀太一、エミリー、シンディ]
〔「1番線に停車中の電車は4時55分発、総武本線、旭、八日市場、成東回りの普通列車、千葉行きです。途中の成東で、特急“しおさい”2号、東京行きに接続しております。発車までご乗車になり、お待ちください」〕
「本当に始発電車ですな……」
「意外とすんなり帰れるとは……」
敷島達は意外そうな顔で、朝一の電車に乗り込んだ。
警察署に着いてからは簡単な事情聴取と、今後の予定を聞かされただけで終わった。
敷島達の行動についてはエミリーやシンディが録画した動画を解析すれば良いし、そもそも警視庁幹部の肝煎り捜査とあれば、隣県の県警はあまり……というのもあった。
始発電車の時間まで、しょうがないからエミリーやシンディの整備やバッテリーの交換で時間を潰した。
ほとんど損傷など無く、バッテリーも1つ交換すればそれで良いだけであった。
『化け物としか言いようがありませんね』
とは、敷島達の対応をした千葉県警の刑事の言。
「子供の頃に見た、近未来のロボットアニメみたいになってきましたなー……」
「技術だけそうするはずが、悪用する人間まで出て来るとは……」
先頭車に乗り込むと、向かい合わせのボックスシートには既に先客がいたので、ドア横の2人席に座った。
その前と横にエミリーとシンディが立つことで、一応の護衛となる。
「合体ロボが出てくるわけでもないし、何かロボットを操作して敵を倒す正義の少年みたいなのも登場しない。こんなR35のオッサン達ばかりだ」
「あのバージョン400でも捕らえて、こちらで改造しちゃいますか?敷島さんが乗って操作できるように」
「カンベンしてくださいよー。『不死身の敷島』も、あれでは命がいくつあっても足りない」
敷島は慌てて手を振った。
「実は合体ロボほど、非現実且つ不経済なものは無いんです。まだ、こっちのマルチタイプの方が使い勝手がいい」
と、平賀。
「もっとも、自分はあまり積極的には作りたくないんですが……」
エミリーの新しいボディを作ったのは、前のボディの耐用年数が過ぎてしまったため、仕方なく作ったという感じだ。
敷島は平賀の発言の意味を知っている為、ただ頷くだけだった。
「それより、この電車代、あとで請求して出してくれますかね?」
敷島は銚子駅で買ったキップを出してみた。
「出すでしょう。村中課長も、『今回の捜査における費用は、全てこちらで負担する』と言ってましたから。……そのつもりで、領収証出したんでしょう?」
「た、確かに……」
指定席券売機で特急のグリーン券まで買った上、しっかり領収証も発行した敷島だった。
電車は聴いたことのある発車メロディの後、定刻通りに発車した。
隣の車両からインバータの音がする。
〔「おはようございます。今日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。4時55分発、総武本線、普通列車の千葉行きです。八日市場、成東回りで参ります。……」〕
「今やすっかり改造されていますが、元々は京浜東北線を走っていた電車です。大日本電機時代はこれで通勤していたから、懐かしいですよ」
と、敷島は言った。
「そうですか……」
大日本電機の名前を聞いた平賀は眉を潜めた。
〔「……途中、成東には5時43分、佐倉には6時11分、終点千葉には6時31分の到着です。……」〕
大日本電機は敷島が大卒後に入社した大手電機メーカーだった。
そこの不良社員(?)だった敷島は南里研究所に出向させられ、そこで初めてエミリーというマルチタイプ、初音ミクというボーカロイドに関わることになった。(第1作目“ボーカロイドマスター”より)
終盤で、実は敷島が産業スパイで、南里の研究成果を横取りする目的で派遣されていたことがばれる。
この事件により、南里が憤死。
普段は感情を表立って出すことの無かったエミリーに、リロードしたマシンガンの銃口を向けられたが、土下座して危うく命は助かる。
M&Aで敷島の出向元が消滅した、というのは大きかった。
「……全部成り行きで行動していますが、何とか南里所長に許してもらえるよう頑張ります」
「そうしてください」
南里亡き後、エミリーも稼働を停止するはずだったが、所有権を引き継いだ平賀が稼働継続の意向を示した為、今現在も稼働している。
[同日05:43.JR成東駅・総武本線ホーム 上記メンバー]
成東駅には定刻通りに到着。
少し寝落ちしていた2人だったが、そこは鋼鉄姉妹にちゃんと起こしてもらう。
1番線ホームに到着した電車。
既に隣の2番線には、当駅始発の特急が停車している。
眠い目をこすり、欠伸をしながら跨線橋を渡る敷島達。
他にも特急乗り換え客がいるせいか、ちょっとした集団行動である。
因みにウェットスーツは既に警察署で脱いで、今は普通の恰好なので念のため。
特急に乗り込むと、敷島達は早々に寝る体勢に入った。
往路と同じ車両なので、寝るには好都合だ。
「じゃあ、悪いけど着いたら起こしてくれ」
「分かりました」
敷島達は後ろの席に座るマルチタイプ達に伝えると、ブラインドを下ろして座席を深々と倒した。
復路は往路と違い、四街道駅にも停車するようである。
「平賀先生は、このままお帰りに?」
「いや、上野のサウナで少し休んで行きますよ。エミリーは都心大学の客員研究室に置いておきます」
「いいですなぁ……」
「どうせ、あのマルチタイプは千葉県警で数日、その後警視庁で数日調査された後、こちらの手に渡るのがオチですから、やっぱり1週間ですか。また仙台に帰りますよ。大学の教壇にも立たないといけないし」
「大変ですねぇ……」
[同日06:08.JR総武本線特急“しおさい”2号4号車内 上記メンバー]
敷島達を乗せた特急は定刻通りに発車した。
平日は長距離通勤客の姿が目立つのだろうが、週末のこの時間帯となると、グリーン車はガラガラである。
ま、これから乗って来るのだろうが。
特急“しおさい”号は、基本的に255系と呼ばれるグリーン車付き9両編成が使用される。
デッキに出るドアの上には、右から左に流れる電光表示板があって、そこに停車駅だの車内の案内だのと流れるわけだが、その後はたまに文字ニュースが流れて来ることがある。
『◯×新聞ニュース 昨夜未明、新潟県の日本海沖で不審な無人貨物船を地元海上保安庁が拿捕。北朝鮮からの漂流船か』
と、流れていたのだが、寝ていた敷島達が気づくことは無かった。
〔「1番線に停車中の電車は4時55分発、総武本線、旭、八日市場、成東回りの普通列車、千葉行きです。途中の成東で、特急“しおさい”2号、東京行きに接続しております。発車までご乗車になり、お待ちください」〕
「本当に始発電車ですな……」
「意外とすんなり帰れるとは……」
敷島達は意外そうな顔で、朝一の電車に乗り込んだ。
警察署に着いてからは簡単な事情聴取と、今後の予定を聞かされただけで終わった。
敷島達の行動についてはエミリーやシンディが録画した動画を解析すれば良いし、そもそも警視庁幹部の肝煎り捜査とあれば、隣県の県警はあまり……というのもあった。
始発電車の時間まで、しょうがないからエミリーやシンディの整備やバッテリーの交換で時間を潰した。
ほとんど損傷など無く、バッテリーも1つ交換すればそれで良いだけであった。
『化け物としか言いようがありませんね』
とは、敷島達の対応をした千葉県警の刑事の言。
「子供の頃に見た、近未来のロボットアニメみたいになってきましたなー……」
「技術だけそうするはずが、悪用する人間まで出て来るとは……」
先頭車に乗り込むと、向かい合わせのボックスシートには既に先客がいたので、ドア横の2人席に座った。
その前と横にエミリーとシンディが立つことで、一応の護衛となる。
「合体ロボが出てくるわけでもないし、何かロボットを操作して敵を倒す正義の少年みたいなのも登場しない。こんなR35のオッサン達ばかりだ」
「あのバージョン400でも捕らえて、こちらで改造しちゃいますか?敷島さんが乗って操作できるように」
「カンベンしてくださいよー。『不死身の敷島』も、あれでは命がいくつあっても足りない」
敷島は慌てて手を振った。
「実は合体ロボほど、非現実且つ不経済なものは無いんです。まだ、こっちのマルチタイプの方が使い勝手がいい」
と、平賀。
「もっとも、自分はあまり積極的には作りたくないんですが……」
エミリーの新しいボディを作ったのは、前のボディの耐用年数が過ぎてしまったため、仕方なく作ったという感じだ。
敷島は平賀の発言の意味を知っている為、ただ頷くだけだった。
「それより、この電車代、あとで請求して出してくれますかね?」
敷島は銚子駅で買ったキップを出してみた。
「出すでしょう。村中課長も、『今回の捜査における費用は、全てこちらで負担する』と言ってましたから。……そのつもりで、領収証出したんでしょう?」
「た、確かに……」
指定席券売機で特急のグリーン券まで買った上、しっかり領収証も発行した敷島だった。
電車は聴いたことのある発車メロディの後、定刻通りに発車した。
隣の車両からインバータの音がする。
〔「おはようございます。今日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。4時55分発、総武本線、普通列車の千葉行きです。八日市場、成東回りで参ります。……」〕
「今やすっかり改造されていますが、元々は京浜東北線を走っていた電車です。大日本電機時代はこれで通勤していたから、懐かしいですよ」
と、敷島は言った。
「そうですか……」
大日本電機の名前を聞いた平賀は眉を潜めた。
〔「……途中、成東には5時43分、佐倉には6時11分、終点千葉には6時31分の到着です。……」〕
大日本電機は敷島が大卒後に入社した大手電機メーカーだった。
そこの不良社員(?)だった敷島は南里研究所に出向させられ、そこで初めてエミリーというマルチタイプ、初音ミクというボーカロイドに関わることになった。(第1作目“ボーカロイドマスター”より)
終盤で、実は敷島が産業スパイで、南里の研究成果を横取りする目的で派遣されていたことがばれる。
この事件により、南里が憤死。
普段は感情を表立って出すことの無かったエミリーに、リロードしたマシンガンの銃口を向けられたが、土下座して危うく命は助かる。
M&Aで敷島の出向元が消滅した、というのは大きかった。
「……全部成り行きで行動していますが、何とか南里所長に許してもらえるよう頑張ります」
「そうしてください」
南里亡き後、エミリーも稼働を停止するはずだったが、所有権を引き継いだ平賀が稼働継続の意向を示した為、今現在も稼働している。
[同日05:43.JR成東駅・総武本線ホーム 上記メンバー]
成東駅には定刻通りに到着。
少し寝落ちしていた2人だったが、そこは鋼鉄姉妹にちゃんと起こしてもらう。
1番線ホームに到着した電車。
既に隣の2番線には、当駅始発の特急が停車している。
眠い目をこすり、欠伸をしながら跨線橋を渡る敷島達。
他にも特急乗り換え客がいるせいか、ちょっとした集団行動である。
因みにウェットスーツは既に警察署で脱いで、今は普通の恰好なので念のため。
特急に乗り込むと、敷島達は早々に寝る体勢に入った。
往路と同じ車両なので、寝るには好都合だ。
「じゃあ、悪いけど着いたら起こしてくれ」
「分かりました」
敷島達は後ろの席に座るマルチタイプ達に伝えると、ブラインドを下ろして座席を深々と倒した。
復路は往路と違い、四街道駅にも停車するようである。
「平賀先生は、このままお帰りに?」
「いや、上野のサウナで少し休んで行きますよ。エミリーは都心大学の客員研究室に置いておきます」
「いいですなぁ……」
「どうせ、あのマルチタイプは千葉県警で数日、その後警視庁で数日調査された後、こちらの手に渡るのがオチですから、やっぱり1週間ですか。また仙台に帰りますよ。大学の教壇にも立たないといけないし」
「大変ですねぇ……」
[同日06:08.JR総武本線特急“しおさい”2号4号車内 上記メンバー]
敷島達を乗せた特急は定刻通りに発車した。
平日は長距離通勤客の姿が目立つのだろうが、週末のこの時間帯となると、グリーン車はガラガラである。
ま、これから乗って来るのだろうが。
特急“しおさい”号は、基本的に255系と呼ばれるグリーン車付き9両編成が使用される。
デッキに出るドアの上には、右から左に流れる電光表示板があって、そこに停車駅だの車内の案内だのと流れるわけだが、その後はたまに文字ニュースが流れて来ることがある。
『◯×新聞ニュース 昨夜未明、新潟県の日本海沖で不審な無人貨物船を地元海上保安庁が拿捕。北朝鮮からの漂流船か』
と、流れていたのだが、寝ていた敷島達が気づくことは無かった。