[6月20日08:57.JR東京駅・中央線電車内 敷島孝夫、初音ミク、シンディ]
〔この電車は中央線、快速、大月行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕
〔「この電車は8時58分発、中央線、快速電車の大月行きです。あと1分ほどで発車致します。ご乗車になりまして、お待ちください」〕
「今頃、井辺君達は京王線のどこかにいるだろう。ショッピングセンターでのライブは午前の部と午後の部があってね、ミクには午後の部にゲリラ的に出てもらう」
「分かりました」
そのミクは髪を下ろして、帽子と眼鏡で変装している。
敷島とミクは座っているが、シンディは護衛の為、その脇に立っている。
「午前の部で出てしまうと、午後の部には客が押し寄せて大変な事態になりそうだからな。そういった意味では、午後の部で大丈夫だ」
「分かりました」
〔1番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕
賑やかな発車メロディの後、電車はドアを閉めて発車した。
駆け込み乗車は良くないが、次の電車といっても、次の大月行きは午後まで無いのだが。
〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は中央線、快速、大月行きです。停車駅は神田、御茶ノ水、四ツ谷、新宿、中野、荻窪、吉祥寺です。吉祥寺から先は、各駅に止まります。次は神田、神田。お出口は、右側です〕
「ま、高尾山も越えた山奥だ。本当に山奥に引っ越したんだな、あの博士はァ……」
敷島はドア横の白い仕切りに寄り掛かった。
「それでこの電車なのね」
シンディはドアの上のモニタに表示された停車駅案内図を見た。
通過駅や行かない駅はグレーで表示されているが、明るく表示されている停車駅はズラッと表示されている。
これは特快ではなく、ただの快速なのだ。
はっきり言って、これで大月まで行くのは鉄ヲタくらいのものだろう。
無論、敷島もこれで大月まで行く気は無い。
行くのは、もっと手前だ。
「井辺君のことだから、上手くやると思うが、もし何かあったら起こしてくれ」
「はい」
「ミクもバッテリーを温存しておいた方がいいかもな」
「は、はい!」
[同日10:11.JR高尾駅・中央本線ホーム 上記メンバー]
起こしてくれと言われた敷島も、実はそんなに熟睡しているわけではない。
そこは自分の意思でできるロイドが羨ましいとも思う。
〔「高尾です。当駅で5分ほど停車致します。発車は10時16分です。発車まで、しばらくお待ちください」〕
ここで乗務員交替と特急の通過待ちの為、5分停車する。
「ちょっと、俺は降りてみるよ。なぁに、そこで何か飲むだけだから」
「はい」
敷島は電車を降りて、ホームの自販機に向かった。
そこで缶コーヒーを買う。
シンディの目の届く位置にいるので、まあ安全だろう。
高尾駅が開業した当初は、浅川駅という名前だった。
ご年配の方なら、覚えていることだろう。
高尾駅と名前を変えたのは、創価学会の折伏大行進真っ只中の昭和36年である。
え?折伏大行進の終了は昭和32年だって?アホか!後を引き継いだ池田名誉会長が似たようなことしていたじゃないか!
旧駅名は当時、駅のあった村の名前から取った。
高尾駅は高尾山から取られたわけだが、その高尾山も、元は真言宗の名刹、高尾山薬王院有喜寺から取ったものだ。
富士宮駅も『富士の大宮』である浅間大社から取ったわけで、この名前を変えないことには広宣流布は来ないぞ。
「社長!」
「何だ?」
シンディが深刻な顔をして、手招きした。
いきなり敵か!?
「向こうのホームに、機銃掃射の痕がある。誰かが既に撃った?」
敷島達は下りホームである3番線、4番線ホームにいる。
電車は4番線に停車している。
1番線、2番線のホームをシンディは指さした。
「あー、それは多分違うよ」
「違う?」
「この駅、第二次大戦中に米軍の機銃掃射を受けたことがあってね。その痕が向こうのホームにまだ残っているんだってさ。多分、お前はそれをスキャンしたんだろう。今のお前なら、その米軍機を1人で全滅させられそうだがな」
「プロペラ機くらい簡単に……って、そんなのいいから」
尚、件の写真はウィキペディア『高尾駅』のページで確認することができる。
高尾駅の歴史はシンディのデータには入っていなかったが、当時の米軍機がP-51型機で、それがプロペラ機だったことは知っていたようだ。
……プロペラ機って、そんな時代だったのね。
いや、まあ、確かに今でも旅客機でプロペラ機は使用されているが。
[同日10:16.中央本線・普通列車内 上記メンバー]
5分後、電車は再び西へ向かって走り出した。
敷島が述べた機銃掃射事件は、高尾駅(当時は浅川駅)を出た電気機関車牽引の列車がトンネルに入った直後に米軍機に襲われている。
〔この電車は中央本線、普通、大月行きです。次は、相模湖です。……〕
次の駅の名前も、今でこそ相模湖という名の駅だが、戦時中は与瀬という名前の駅だった。
米軍機は浅川駅と与瀬駅の間に集中砲火を浴びせ、その途中にいた、浅川駅を発車したばかりの列車が大打撃を受けた。
高尾駅を出ると、だいぶ山深い所を走行する。
当時もそれくらいの景色だったと思われるが、そういう所でも安全な場所ではなかったのである。
電車は吉祥寺までは快速、そこから先は各駅停車となり、高尾から先は普通列車と、3つの種別を持っている。
普通と各停の違いは……まあ、ウィキペディアでも見てくれ。
上野東京ラインや上野発着の常磐線・中距離電車が何故、快速と名乗っているかの大きな理由がそこにある。
「あと2駅ですね、社長」
「ああ。だが、その2駅が長いんだ」
その通り、高尾駅から先はトンネルが断続的となり、カーブも多い。
だからなのか、電車もそんなにスピードを出して走っていない。
「こりゃ、とんでもない所に行きそうだぞー」
と、敷島は半ば後悔したかのように呟いた。
〔この電車は中央線、快速、大月行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕
〔「この電車は8時58分発、中央線、快速電車の大月行きです。あと1分ほどで発車致します。ご乗車になりまして、お待ちください」〕
「今頃、井辺君達は京王線のどこかにいるだろう。ショッピングセンターでのライブは午前の部と午後の部があってね、ミクには午後の部にゲリラ的に出てもらう」
「分かりました」
そのミクは髪を下ろして、帽子と眼鏡で変装している。
敷島とミクは座っているが、シンディは護衛の為、その脇に立っている。
「午前の部で出てしまうと、午後の部には客が押し寄せて大変な事態になりそうだからな。そういった意味では、午後の部で大丈夫だ」
「分かりました」
〔1番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕
賑やかな発車メロディの後、電車はドアを閉めて発車した。
駆け込み乗車は良くないが、次の電車といっても、次の大月行きは午後まで無いのだが。
〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は中央線、快速、大月行きです。停車駅は神田、御茶ノ水、四ツ谷、新宿、中野、荻窪、吉祥寺です。吉祥寺から先は、各駅に止まります。次は神田、神田。お出口は、右側です〕
「ま、高尾山も越えた山奥だ。本当に山奥に引っ越したんだな、あの博士はァ……」
敷島はドア横の白い仕切りに寄り掛かった。
「それでこの電車なのね」
シンディはドアの上のモニタに表示された停車駅案内図を見た。
通過駅や行かない駅はグレーで表示されているが、明るく表示されている停車駅はズラッと表示されている。
これは特快ではなく、ただの快速なのだ。
はっきり言って、これで大月まで行くのは鉄ヲタくらいのものだろう。
無論、敷島もこれで大月まで行く気は無い。
行くのは、もっと手前だ。
「井辺君のことだから、上手くやると思うが、もし何かあったら起こしてくれ」
「はい」
「ミクもバッテリーを温存しておいた方がいいかもな」
「は、はい!」
[同日10:11.JR高尾駅・中央本線ホーム 上記メンバー]
起こしてくれと言われた敷島も、実はそんなに熟睡しているわけではない。
そこは自分の意思でできるロイドが羨ましいとも思う。
〔「高尾です。当駅で5分ほど停車致します。発車は10時16分です。発車まで、しばらくお待ちください」〕
ここで乗務員交替と特急の通過待ちの為、5分停車する。
「ちょっと、俺は降りてみるよ。なぁに、そこで何か飲むだけだから」
「はい」
敷島は電車を降りて、ホームの自販機に向かった。
そこで缶コーヒーを買う。
シンディの目の届く位置にいるので、まあ安全だろう。
高尾駅が開業した当初は、浅川駅という名前だった。
ご年配の方なら、覚えていることだろう。
高尾駅と名前を変えたのは、
旧駅名は当時、駅のあった村の名前から取った。
高尾駅は高尾山から取られたわけだが、その高尾山も、元は真言宗の名刹、高尾山薬王院有喜寺から取ったものだ。
「社長!」
「何だ?」
シンディが深刻な顔をして、手招きした。
いきなり敵か!?
「向こうのホームに、機銃掃射の痕がある。誰かが既に撃った?」
敷島達は下りホームである3番線、4番線ホームにいる。
電車は4番線に停車している。
1番線、2番線のホームをシンディは指さした。
「あー、それは多分違うよ」
「違う?」
「この駅、第二次大戦中に米軍の機銃掃射を受けたことがあってね。その痕が向こうのホームにまだ残っているんだってさ。多分、お前はそれをスキャンしたんだろう。今のお前なら、その米軍機を1人で全滅させられそうだがな」
「プロペラ機くらい簡単に……って、そんなのいいから」
尚、件の写真はウィキペディア『高尾駅』のページで確認することができる。
高尾駅の歴史はシンディのデータには入っていなかったが、当時の米軍機がP-51型機で、それがプロペラ機だったことは知っていたようだ。
……プロペラ機って、そんな時代だったのね。
いや、まあ、確かに今でも旅客機でプロペラ機は使用されているが。
[同日10:16.中央本線・普通列車内 上記メンバー]
5分後、電車は再び西へ向かって走り出した。
敷島が述べた機銃掃射事件は、高尾駅(当時は浅川駅)を出た電気機関車牽引の列車がトンネルに入った直後に米軍機に襲われている。
〔この電車は中央本線、普通、大月行きです。次は、相模湖です。……〕
次の駅の名前も、今でこそ相模湖という名の駅だが、戦時中は与瀬という名前の駅だった。
米軍機は浅川駅と与瀬駅の間に集中砲火を浴びせ、その途中にいた、浅川駅を発車したばかりの列車が大打撃を受けた。
高尾駅を出ると、だいぶ山深い所を走行する。
当時もそれくらいの景色だったと思われるが、そういう所でも安全な場所ではなかったのである。
電車は吉祥寺までは快速、そこから先は各駅停車となり、高尾から先は普通列車と、3つの種別を持っている。
普通と各停の違いは……まあ、ウィキペディアでも見てくれ。
上野東京ラインや上野発着の常磐線・中距離電車が何故、快速と名乗っているかの大きな理由がそこにある。
「あと2駅ですね、社長」
「ああ。だが、その2駅が長いんだ」
その通り、高尾駅から先はトンネルが断続的となり、カーブも多い。
だからなのか、電車もそんなにスピードを出して走っていない。
「こりゃ、とんでもない所に行きそうだぞー」
と、敷島は半ば後悔したかのように呟いた。